人生のリコール 第5章 女の子としてのファミレスのアルバイト
 作:Sachi



チュンチュン・・・
スズメの鳴き声が聞こえる朝である。

「ふぁあよく寝た・・・」
狭い部屋に女の子の声が響く

すたすた・・
部屋ある鏡の前に立つと寝起きの森山の姿・・・
ふふ・・・夢じゃないだ

ニマニマしながら、歯磨きを手に取る・・
普通に考えたら衛生的でない・・他人の歯ブラシ
でも、今は彼が森山なのだから普通に森山が使っていたものを使用する。
そして本人もなんの違和感もなかった。

昨日は一人でファッションショーやって寝てしまった。
森山の携帯で予定を確認しようとしたその時であった。

ブルブル・・・
電話がなる・・森山の携帯・・

デスプレイには「西山美奈」の文字

条件反射的に電話をとる
「はい、もしもし」

「あっ茉莉奈?おはよ!」
「うん、おはよう!どうしたの?」
「あのさぁ、急で悪いんだけ、バイト手伝ってくんない?」
「え、バイト?なんの?」
「なんのって、あんたが先月まで働いていたファミレスだよ」
「ああ!」
「ちょっと人が本当にいなくて困ってるんだって、今日一日で良いからお願い!」

そう森山、本人は捕まる前までファミレスでアルバイトをしていたのだ。
もちろん今の森山もその知識はあった。
しかし実践はまったくやった事がない・・迷ったが
ファミレスの制服を着てみたくうける事にしたのだった

「うん!わかったよ美奈の頼みだもんね!」
「うわ!助かるよありがとう茉莉奈!じゃあ15時にお店入ってね!今日だけでいいから!」
「うん!わかったよ!じゃあまた後でね」
「はあい」


ドキドキ・・・
僕は森山の友達と普通に会話をしてしまった・・・
しかも何も疑われなかった。
そしてバイトを受けてしまった。
昨日も少し町をこの姿で歩いたが・・今日は違う

ファミレスとは言え接客である。話さなければいけない。
昔の森山を知っている人がたくさんいるバイト・・

でもいい!行こう!度胸ためしだ!僕の森山としての知識がどこまで通用するのか試したい!

そう心に誓うとシャワーを浴び、化粧を始めた。

森山がずっと愛用していた化粧ポーチ
男性には縁のない、可愛い柄のポーチを開き、道具・コスメを取り出す。

正直化粧は散々練習したので自身があった。
ベースを作り、アイライナー、マスカラ、ファンデーション、チークを塗り、リップ、口紅
どこにでもいそうな女子大生・森山が完成した
化粧時間30分か・・

どこにでもいそうな所がポイントである。
僕は別に目立ちたくない。ただ女の子として生活ができればそれでいい。

春らしいミント色の可愛いワンピースを取り出して着用
これは森山のお気に入りで前々から着ていた。
これを着る事で一層なりきろうとの魂胆である。

ヒールのついた靴を履き、かばんを持ってバイトに出かけた。

カツカツ・・歩きながら、スカート部分が春風になびく
アルバイトに行くのもなんだか楽しい気分になる。
バスと徒歩、約30分ほどでアルバイト先についた。

ファミリーレストラン・テニーズ

裏口から入り込む
ガチャ
「お疲れ様でーす」

「あっ茉莉奈ちゃんお久しぶり!」
「森山さんだぁ」
「元気だったぁ?」

「はいっお久しぶりです。元気でしたよお」にっこり

知らない人ばかりだが、みんな僕を知っている。いや
前の森山を知っているんだ。ここで僕は森山にとことんなりきらなければいけない。

「森山さんの制服あるから女子ロッカーで着替えてきてね」
「はぁいっ!ありがとうございます。」

チーフらしき人に言われるまま僕はロッカーに向かった。

辞めたとはいえ、たった1ヶ月前までは働いていた場所だヘマはできない。
女子ロッカーとかかれた女性しか入れない場所へなんの問題なく入った。

女性しか入れない世界は香水や化粧品のニオイであふれていた。

「ええっと・・森山・・森山・・・」
僕は自分のロッカーを探しだした。

「あった」
ガチャ・・
中に入っていたのは、ちゃんと「森山茉莉奈」と書かれたバッチがついた
ワンピース型のウエイトレスの制服だった。
「うわあ、可愛い」

感動している場合ではない。確かに可愛いがこれは制服
いちいち感動していたら仕事どころではない。

ワンピースのように見えていたが、上と下が分かれるタイプの制服だった。
僕は着てきたワンピースを脱ぐと上のブラウスを着用、後ろについているジッパーをあげリボンを止める。
そしてスカートをはき、エプロンをスカートの前につけた。

姿見で自分の姿を確認した。
かわいらしい、ウエイトレスの制服サイズは9号、女の子の標準サイズ
そこからのびる、細くなった僕の手足はより女性的だった。
感動していると扉が開いた

ガチャ

美奈「あっ茉莉奈!今日はありがとう」
今日バイトを誘った美奈がロッカールームに入ってきたのだった。
「うんうん、気にしないで大丈夫だよ」
笑顔で僕は答えた。

西山「助かるよ、もう支度できたんだね」
森山「うん、バッチリだよ!」
西山「そっか!・・・あれ?」
森山「えっなに?」
西山「茉莉奈、生足?」
森山「あっ!?」

うっかりしていた。女の子なんだ。ストッキングはもってきて当たり前だ。

西山「しょうがないなぁ・・茉莉奈は・・」ゴソゴソ「はい」
森山「えっいいの?」
西山「うん、まだ空けてないヤツだから使って」
森山「ありがとう美奈!」

美奈からもらったストッキングをはいて、僕はホールに立った。

みんな同じ制服の女の子達が美奈を混ぜて6人
その中に僕もいる。みんな同じ年くらい。

「いらっしゃいませ、テニーズにようこそ、おタバコはお吸いになりますか?」
「お席にご案内いたします」

みんなの真似をしながら僕も高めの声を発声する。

「いらっしゃいませ。テニーズにようこそ♪」

僕は周りの女の子達を見ながら、仕草を真似して注文を聞いたり、お料理を運んだ。

パンプスだからあまり走れない。でも忙しい。

「森山さん!お願い」「森山さん持ってて!」「茉莉奈ちゃんこっちも」

夕食時間にはバタバタであった。見よう見真似で仕事をこなして
5時間が経過した。はぁはぁ・・
ヒールを履き続けての仕事に足が疲れ始めた。
女の子って大変だなぁ・・と感じた。

夜になってお客様も少なくなってきた。
「森山さん、シェフが女の子達を呼んでるから行こう」
「はあいっ」

忙しかった。足もパンパンである。
でも嬉しかった。みんなが自分を森山と呼んでくれる。
お客様も可愛いねと言ってくれる。
小さい子供にも、お姉ちゃんと呼ばれる。

なにより女子の制服を着て仕事を一日こなすことができたのだ。
社会にちゃんと受け入れてもらえた。嬉しい快感だった。

シェフ「今日は特に急がしかったから女子チームだけデザートをご馳走する」
女の子達「やったぁ!」

森山「おいしいね美奈」
西山「そうだね」


森山茉莉奈としての第一日目・・
僕は森山として、女の子として生活していけそうな自身がついた。
そして女性として一歩成長できたような気がした。





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