とある男女の夏休みの物語-2-
 作:ONOKILL


入れ替わり

「よく来てくれた」
 宮路平助はそう言って宮路治を出迎えた。
 治は恋人(以前友達以上)の宮瀬典子と共に平助の持つ海辺にある別荘を訪れていた。
 治は夏休みの企画として、典子や仲の良い友人達と泊りで海水浴に出かけようと思っていた。
 しかし、高校生の彼らには金が無かった。そこで治は平助の持つ別荘に目を付けた。それは古びた別荘だったが、金のない彼らにとっては十分すぎるほどりっぱなものだった。平助にその話をすると彼は喜んで快諾してくれた。
 そして今日、治と典子は別荘の見学にやって来たのだ。

「何じゃ、今日は泊りじゃないのか?」
 平助が治と典子にそう言うと、治はすぐに反応した。
「本当は泊ってもい…、ぐぅう…」
 治はそこまで言って脇腹を押えながらその場にうずくまった。典子が隣から強烈なパンチを治の脇腹に入れたからだ。
「今日は見学だけです」
 典子は微笑みながらきっぱりと言った。
「そうか、それは残念じゃな。まあ、立ち話も何じゃから早く入りなさい。お菓子を用意してある」
「はい、失礼します」
 典子は相変わらずうずくまる治を立たせると、二人して別荘に上がり込んだ。

 治と典子は応接室に入るや否や、その広さと中に置いてある装飾品に目を奪われた。
 平助は一年前まで骨董屋を営んでいて、彼の別荘には当然ながら高級そうな装飾品が飾られているのだ。
「気にいったものは売らずにここに残しているのじゃ。気になるなら後でじっくり見るがいい。それより三人でこれを食べよう」
 トレーに乗せたコーヒーカップとお菓子を持って応接室に戻ってきた平助は治と典子に言った。
「わぁ、美味しそうー」
 お菓子を見て能天気に喜ぶ典子を見た治は心の中で微笑んだ。

 三人はお菓子を肴にしばらく談笑していたが、典子が汚れた皿とコップをトレーに乗せながら言った。
「私、洗います。キッチンを教えてください」
「そんな事、気にせんでいいわい」
「いえ、せめてものお礼ですから」
「そうか。すまんのぉ。では案内するか」
 平助がトレーを手にして応接室を出ていくと典子もそれに続いた。
 一人残された治は何気に目の前にあるテレビの電源を入れて見始めた。そしてしばらくたったその時…。

「な、なんだぁ?」
 ものすごい音を立てて、彼の周りが揺れ出した。
「地震だ!」
 それはものすごい地震だった。
 治はテーブルに手を置いたまま動けなかった。彼の周りでは高価な装飾品が次々と倒れていった。
 そして数分後、地震による振動が少しづつ収まる中、彼が居る部屋の外から叫び声が聞こえた。
「きゃあああああーー!」
 それは典子の叫び声だった。
「しまった!キッチンか!」
 治は素早く立ち上がると、地震による揺れが僅かに残る中、典子と平助が居るキッチンを目指した。

 治がキッチンに入ると応接室よりも大変な事になっていた。
 周りの棚や何もかもが全て崩れ落ちていて、キッチン奥では大きな食器棚が倒れていた。そして良く見るとその下に人が倒れているのが垣間見えた。
 治が火事場の馬鹿力で倒れた食器棚を持ちあげると、そこには典子と彼女を守るように覆いかぶさった平助が倒れているのが分かった。

「しっかりしろ、典子! じいちゃん!」
 典子と平助は食器棚が倒れたショックで気を失っているようだった。治はそんな二人に懸命に声を掛け続けた。すると最初に典子が目覚めた。
「うぅうう…」
 額を押さえながら典子は身体を起こした。
「大丈夫か、典子…?」
「大丈夫…」
 治は典子の無事を確認すると今度は平助に声を掛けた。すると間もなく平助も目覚めた。
「痛っうう…」
 平助は痛む額を押さえながら身体を起こした。
「じいちゃん!」
 治が平助の顔を見ると、彼の額の部分が赤くなっているのが分かった。そして隣に座りこんだ典子も相変わらず痛む額を押さえていた。それを見た治は、平助が典子を食器棚から守るようにして倒れ込んだ時、お互いの額を打ち付けたではないかと思った。
 いずれにせよ、二人は大きな怪我をしているようには見えず、治はそんな二人を見て安堵した。
 ところが彼の知らないところで二人の身にとんでもないことが起きていたのだ…。

 最初にそれに気付いたのは典子だった。
「何じゃ? この格好は?」
 彼女は自分の身体なのに不思議そうに身体を弄るように触った。
 すると平助が典子を指差して震えるような声で言った。
「わ、私が居る!?」
 その声に気付くように典子は平助をまじまじと見つめて言った。
「何でワシが目の前にいるんじゃ!?」
 それから二人は、自分とお互いの身体を不思議そうに触り、その瞬間、同時に叫んだ。
「入れ替わってるーー!」
 こうして、18歳の典子と75歳の平助の心と身体が入れ替わってしまったのだ。





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