看護婦は見た-9-
 作:ONOKILL


ベテラン看護婦(3)

「宮路さん、調子はどうかな?」
看護婦の清田茜が入院患者である宮路の個人病棟にやってきた。ちなみに宮路の担当をしていた後輩の杉村亜美は体調を崩したまま、今も病院に戻っていない。

目の前の宮路は何故か泣いていた。しかも子供のように泣きじゃくっていたのだ。
「どうしたの、宮路さん? どこか調子が悪いの?」
茜が優しく声を掛けても、宮路は首を振り、泣くだけだった。そして力の入らない手で彼女の腕を掴み、何かを訴え掛けようと必死になった。
「宮路さん、大丈夫。大丈夫だからね」
茜は宮路の手を優しく振りほどき、一旦距離を取った。
茜の目の前にいる宮路は、確かに彼に間違いないが、三時間前に見た時と何かが違っていた。そしてある言葉を思い出した。
それは杉村亜美の言葉だった。
“私は宮路さんと入れ替わっていたの”

(まさか…)
茜は自分の思いに困惑しつつ、泣いている宮路に向かって恐る恐る言葉を掛けた。
「ひょっとして、あなた…」
宮路はその言葉を聞くと泣くのを止めて、涙混じりの白く濁った眼で茜の顔を見つめた。まるで次の言葉に期待するかのように。
「杉村さん?」
宮路をそれを聞くや否や、そうじゃないと言わんばかりに首を左右に大きく振り、また泣き出した。それを見た茜は思わずため息をついた。
(そんな馬鹿な事がある訳ないじゃない。彼はただ単に頭がおかしいだけの患者なんだわ)
茜はもう一度笑顔を作り直し、宮路の頭を優しく撫でて言った。
「宮路さん、いい歳をした男なんだからもう泣かないの。分かった?」

終わり





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