看護婦は見た-3- 作:ONOKILL 新人看護婦(1) 「宮路さん、しっかりしてください!」 新人看護婦の杉村亜美(すぎむらあみ)は、目の前に居る入院患者の宮路に向かって必死に声を掛けていた。 亜美が宮路の腕に取り付けられていた点滴を交換中、宮路が突然、気を失ったのだ。 彼女は宮路を目覚めさせようと声を掛け続けたが、一向に目覚めようとしない。焦った彼女は宮路の主治医を呼ぼうと立ち上がったが、次の瞬間、めまいを起こし、そのまま宮路に覆いかぶさるように気を失ってしまった。 しばらくすると亜美は目覚めた。彼女は目覚めるや否や、相変わらず気を失っている宮路を無視して自分の身体を見つめて呟いた。 「今度はこの看護婦さんになったのか…」 そんな亜美に続いて、気を失っていた宮路が目覚めた。彼は目の前に居る亜美をぼんやりと見つめていたが、やがて何かに気付くと声を上げた。 「うわぁああああーー!」 宮路の言葉は声にならなかった。彼は数年前、喉に大きな手術をしていて声が出ないのだ。それでも彼は亜美にしがみつき、必死に何かを訴えようとした。 「落ち着くんだ、杉村さん」 亜美は宮路に向かって何故か「杉村さん」と言うと、宮路は声を上げるのを止め、その白く濁った眼で亜美を見つめた。 亜美はそんな宮路に向って冷静に言った。 「杉村さんと私の心と身体が入れ替わっているのだ」 「何が原因で入れ替わったのか分からない。でも安心しなさい。時が立てば必ず元に戻る。私は以前、グラビアアイドルの鈴原えりなさんと入れ替わったが、二週間後に元に戻った」 宮路の話を聞いて亜美は思い出した。彼女がこの病院に勤務する三ヶ月前、ここでTVドラマのロケが行われ、グラビアアイドルの鈴原えりなもそのロケに参加していたのだ。 先輩看護婦の話によれば、宮路はこのドラマにエキストラとして出演する予定だったが、撮影時の事故の影響から気が狂ったようになってしまい、手がつけられなくなった。このため、彼はエキストラを下され、更にこの個室病棟に入るきっかけになったと言われた。しかし、彼の話によれば、あの時、気が狂ったようになったのは彼では無く、彼の身体になった鈴原えりなだというのだ。 続く |