看護婦は見た-1-
 作:ONOKILL


グラビアアイドル(1)

「お世話になりました」
スタッフから贈呈された花束を手にしたえりなは、目の前に立つスタッフ達に対して感謝の意を述べた。

『看護婦・野坂明恵の事件簿』
グラビアアイドルの鈴原えりな(すずはらえりな)が出演した二時間ドラマの名前だ。
彼女はこのドラマの主人公である野坂明恵の同僚の看護婦・清水理沙を演じていた。そしてこの日、他に出演者よりも先にクランクアップを終えたので、スタッフから花束が贈呈されたのだ。

しばらくすると、えりなを中心にスタッフ達の輪が出来ていた。
「俺、えりなちゃんともっと仕事がしたかったな」
一人のスタッフの冗談交じりの言葉に、えりなは思わず笑顔を浮かべた。
彼女はドラマの世界ではあくまでも新人だったが、グラビア同様に人を引き付ける何かを持っているらしく、今後の飛躍が大いに期待できそうだった。

そんな最中、車椅子に乗った一人の老人男性がその輪に割り込んできた。
「宮路さん…」
えりなは老人男性の名をそう呼んだ。
今年で82歳になる宮路はドラマのエキストラの一人だが、俳優では無くただの一般人だ。しかもドラマの撮影に使用されているこの病院に入院している本物の患者だった。
「身体の具合、大丈夫ですか?」
えりなは宮路に向かって心配そうに声を掛けた。何故なら彼女と宮路は、撮影時に大きなトラブルに見舞われたからだ。

今から一週間前、看護婦役のえりなが手助けをして、入院患者役の宮路を車椅子に座らせようとするシーンを撮影していた時にそのトラブルは起きた。
宮路が車椅子に手をついた瞬間、何故か車輪止めが外れ、勢いよく前に動き出した。
彼の弱り切った身体はその動きに付いていけず、手助けしていたえりなと共に、大きな音を立ててその場に転倒した。しかも動き出した車椅子に当たった撮影機材が二人の上に倒れ込み、その下敷きになってしまったのだ。
スタッフ達の手により急いで撮影機材が除去された時、二人は気を失っていた。
二人はなかなか目覚めず、スタッフ達を心配させたが、本物の医師により介抱された結果、無事に意識を取り戻した。
えりなは幸いにも無傷だったが、宮路は撮影機材が頭に当たり軽傷を負った。
そして何かがおかしくなった。

続く





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