「おねぼく ―あこがれのおねえさんに憑依してしまったぼくの日常―」 作・JuJu 【第8話(全10話)】 ぼくは朋さんと別れて、瑚さんのアパートに戻ってきた。 「ただいまー」 ふたたび瑚さんの部屋に入る。 ベッドの上に座って、さっき朋さんとした、エッチな行為を思い出す。 「レズセックスっていうんだっけ? あれ、ものすごく気持ちよかったなあ」 思い出しただけで、もう一度あの快感を得たくなってくる。 「こんな時は、おねえさんの知識を引き出して……。 へー。エッチって一人でもできるんだ。セックスじゃなくてオナニーって言うらしいけれど。 よし、さっそくやってみよう!」 * ぼくはお姉さんの部屋のトイレに入っている。スカートとパンツはあらかじめ部屋で脱いでおいたので、下半身は丸出しという姿で便座に腰かけている。 「でも……。おねえさんの部屋のトイレでオナニーなんてしていいのかな。しかもおねえさんの体を勝手に使ってオナニーなんて」 わずかな罪悪感がぼくを襲ったが、それもすぐに、快感を得たいという欲望に払拭されてしまった。 「いいよね。だって、今はぼくがおねえさんなんだから」 ぼくはお姉さんの知識を利用して、お姉さんの指を股間に向けた。秘所に軽く触れただけなのに、激しい快感がぼくを襲った。 ほんとうだ。これならば一人でも快感に浸れる。 ぼくはむさぼるように、お姉さんの秘所を指でいじった。 さっきした、朋さんとのレズセックスを頭の中で再現しながら、はげしく指を動かす。 記憶の中でぼくは、瑚さんになりきっていた。 息が上がり、口から自然に声が漏れる。 「はあ、はあ……。朋! 朋っ! 大好き! お願い、もっと気持ちよくして! ああーっ!!」 * 絶頂をむかえた後。ぼんやりとする頭で思った。 朋さんとのレズセックスを想像しながらしたオナニーに対し、お姉さんの記憶は、あいかわらずレズセックスはまちがっていると言っている。 それにこのオナニーというのも、できるならばしない方がいいらしい。 やはりエッチなことは、男女でするのがの正しいってお姉さんの知識は言っている。 こんなに気持ちがいいのに、変なの。 そんなことを、トイレに座りながら、ぼうっと考えていると、今度は瑚さんのウェイトレス姿が頭に浮かんだ。 「それにしても、瑚さんのアンキモの制服姿、可愛かったな」 ぼくはアンキモ女子更衣室の鏡で見た瑚さんの制服姿を思い出して、ほくそ笑む。うつむき、改めて大きなふたつの胸や、胸の向こうに見える、パンツすらはいていない丸出しになっている下半身を見て、いまぼくは瑚さんになっているんだ、あのアンキモの制服姿の瑚さんは自分なんだと、あらためて喜びを噛みしめる。 嬉しい反面、魂の半分が残された、ぼくの本体のことが気になった。ぼくはあこがれの瑚さんの体を自由に使っている。念願のアンキモに入れたし、瑚さんや朋さんのアンキモ姿も見れた。その上、こうしてお姉さんの体でオナニーをしたり、ぼく好みの年上のお姉さんである朋さんともレズセックスまでしてしまった。 それなのにもう一人のぼくは今ごろ、さきほど正体がぼくだと知らない瑚さんと簡単なあいさつができたことをいじらしく喜びつつ、自分の部屋で一人で漫画でも読んで暇をつぶしているのだろう。そう思うと、同じ自分なのに、本体の自分が可哀想に思えてきた。 本体のぼくも、お姉さんになったぼくも、同じぼくなんだ。本体のぼくが不幸というならば、それはぼくが不幸と言うことになる。 そうだ! せめてウェイトレスになったお姉さんの姿を、本体のぼくにも見せて上げよう。 そう思い立ち、ぼくは制服を取りに、お姉さんの部屋を出るとアンキモに向かった。 * ぼくはアンキモに向かって、住宅街を歩いていた。昼間は人通りがなかった住宅街も、夕方になるとそれなりに人が歩いている。 「それにしても、今日の朋さんと女の子同士のセックス、すごく気持ちよかったなー。いま思い出しても、体がほてってくるよ」 こうなると、男女のセックスも試してみたくなる。女の同士でさえあんなに気持ちよかったんだもの。男女でするのが正しいセックスならば、オナニーやレズセックスよりももっと気持ちいいに違いない。 「次は男の人とセックスをしてみたいな。レズセックスであれだけ気持ちよかったんだから、本来入れるべき男のおちんちんをあそこに入れたらどれだけ気持ちがいいんだろう。 せっかくの女子大生の体なんだから、ちょっとあぶない経験をしてみたいよね」 ふと、道を歩いていたサラリーマン風の若い男が、ぼくのひとりごとが耳に入ったらしく、顔を赤らめていることに気が付いた。 そのことに気が付いて、ぼくもはずかしくなった。 (お姉さんに、恥をかかせちゃったよ。ごめんね、瑚さん) あわてて足を早めて、ぼくの家に向かう。 男女のセックスをするとしても、問題になるのは相手の男だ。 そこで、アンキモでアルバイトをしていたときに、店長が瑚さんになったぼくに向かって、ボーナスを出すからセックスをしないかと言っていたのを思い出した。 ハゲ頭の店長を想像して身震いする。 あんなのとセックスなんてしたくない。 では、たとえばさっきの顔を赤らめていたサラリーマンとするのはどうだろう。二十代くらいかな。男の僕から見ても、なかなか整った顔だちだった。 でも、むりむり。やっぱりむり。 いくら、かっこよくても、さっきの男の人と、体を抱き合ったり、おちんちんをなめたり、おちんちんを体の中に入れたりなんて、絶対に嫌だ。 お姉さんの記憶も、初めてのセックスは大切な人と恋人としたいと言っているし。 やっぱり無理だ。男とセックスなんて嫌だ。 男女のセックスには興味はあったが、絶対に出来ないと確信した。 * ようやくアンキモに着いた。 さっさとアンキモの制服を借りて、本体のぼくに瑚さんの制服姿を見せてあげよう。 そう思いながら従業員出入り口に向かおうとした時、本体のぼくがそわそわとしながらこちらに向かって来るのが見えた。 てっきり自分の部屋で漫画でも読んでいると思っていたのに、どうしてこんな所にいるのだろう。 不思議に思いしばらく見ていると、本体のぼくは時々店の窓をうかがうようにしながら、アンキモの周辺をうろうろとし始めた。 「あら? 日宵くんじゃない。どうしてこんなところにいるの? また散歩しているの?」 ぼくが声を掛けると、本体のぼくは跳ね上がるように驚いた。 「あ。あっ。こ、こんばんは……瑚さん……」 なぜかあわてている。 「えっと。あの、ぼく急いでいるんで、これで」 つづけてそう言うと、逃げるように、自宅の方角に去っていった。 お姉さんと会って、緊張したりのぼせたりするのはいつものことだが、今のは変だ。いつものぼくだったら、一秒でもお姉さんと一緒にいたいはずだ。話を切り上げるのはいつもお姉さんで、ぼくは去っていくお姉さんを名残惜しそうに、その背中を眺めているはずなのだ。 なにかがおかしい。 あわてて帰ったぼくを疑わしく思ったものの、ここに来た理由を思いだし、ぼくはアンキモの従業員出入り口に向かった。 こっそりアンキモの女子更衣室に入ると、瑚さんのロッカーから制服を取り出した。本当は持ち出し禁止だけど、次のアルバイトの時に戻しておけば問題ないと朋さんが言っていたから、きっと大丈夫なのだろう。 * アンキモで制服を手に入れたぼくは、ぼくの家に向かった。 住宅街を歩きながら、さっき本体のぼくの挙動がおかしかった理由を考えていた。 おそらくだけど、本体のぼくは、お姉さんがアルバイトしているというアンキモの店内が見たい一心で、あの場所に来ていたのではないだろうか。 なにしろあの場所は、年上のお姉さんがエッチな服を着てウェイトレスをしているという、年上のお姉さんが大好きなぼくには天国の場所だ。そのうわさは、ぼくも前から知っていた。しかもそのなかに瑚さんもいるとなれば言わずもがな。 だから入れないことはわかっていても、せめて窓から店内がのぞけはしないかと、うろついていた。 そこに瑚さんになったぼくがあらわれて、あわてて逃げるように帰った。そんなところだろう。 あんな場所をうろうろしていれば、エッチな制服のお姉さんたちが見たい。瑚さんのエッチなウェイトレス姿が見たい。そんな気持ちを見透かされるかもしれないと思って、あわて逃げたのだ。 相手はぼく自身だ。この推測で、まずまちがいはないはずだ。 すでに姿の見えないぼくの、あわてて去っていった後ろ姿を思い出す。自分のことながら、お姉さんのアンキモの姿を見ることに、それほど焦がれていたのかと驚く。 やっぱりアンキモの制服姿をみせてあげることにしてよかった。 ぼくは、本体のぼくが待つ自宅への足をはやめた。 (「第9話」につづく) |