「おねぼく ―あこがれのおねえさんに憑依してしまったぼくの日常―」

 作・JuJu



【第4話(全10話)】

 ぼくは、瑚さんがアルバイトをしているファミリーレストラン「アンタキモイース」、通称「アンキモ」に来ていた。
 目の前には、アンキモの女子更衣室のドアがある。
「ぼく、本当に入っちゃって良いんだろうか?」
 ぼくも男の子だ。女子更衣室には興味がある。それに今のぼくは女性なのだから、女子更衣室を使ってもいいはずだ。
 それに急がなければ、アルバイトに遅刻してしまう。
 それはわかっているけれど、どうしても女子更衣室のドアを開けるだけの勇気が出ない。
 こうなったら瑚さんの記憶を使って、瑚さんになりきるしかない。そうしないと、恥ずかしくて入ることができない。
 ぼくは、瑚さんの記憶を引き出して、瑚さんのふりをした。
「わたしは瑚。女のわたしが、女子更衣室を使うのは当然じゃない。そんなことより早く着替えないと、バイトに遅れちゃう!」
 自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。
 それでも恥ずかしさが残り、目をつむって、気合いを入れて女子更衣室のドアを開けて中にはいる。
 更衣室では、ひとりの女性が着替えをしていた。肌の白いお姉さんと違い、小麦のような肌の色で、ちょっと色黒だが、そこが健康的に感じる女性だった。スポーツでもやっているのか、体の線が引き締まっている。
 ぼくは下着姿の女性がいたことに驚いて、その場で立ち止まってしまった。
「あ、瑚! 遅かったじゃない、早く着替えなよ。バイト始まっちゃうよ? 遅れたらまたあの頭の薄い店長に、セクハラまがいなことを言われるよ」
「う、うん」
 記憶をさぐると、あの女性の隣のロッカーが瑚さんのロッカーらしい。
 ぼくはドギマギしながら、女性の隣に立つ。
 瑚さんの記憶によると、彼女はアルバイト仲間の梅都野朋(ばいとの とも)さんというらしい。
 朋さんは活動的な性格をしているみたいで、普段は脚の線がでるようなぴっちりとしたジーンズをはいているらしい。趣味はラクロスで、高校時代に県大会まで行ったのが自慢だそうだ。なるほど、運動をしているから、健康的なスタイルをしているんだな。
 ぼくはアルバイトが始まるまで時間がないことを思い出し、瑚さんのロッカーを開けて、アンキモの制服を取り出した。
 噂には聞いていたけど、手にとって見てみると、想像以上にエッチな制服だった。
 エッチすぎるよ。こんなはずかしい服を、いまからぼくが着るの?
 でも早く着替えないとアルバイトに遅れちゃうし、うろたえていると朋さんにあやしまれるかもしれない。
 ぼくは観念して、アンキモの制服に着替えることにした。
 女物の服なんて着たことがない。ここは念入りにお姉さんの記憶を読みながら着替えることにする。
 すると、自分でも驚くほど自然に服を脱ぐことができた。これならば、バイト仲間の朋さんにもばれないだろう。
 ロッカーの扉の裏に付いている鏡に、瑚さんの下着姿が映る。
 夢にまで見た、瑚さんの下着姿だ。
 ぼくは興奮と感動に包まれた。だけど精いっぱい努力して、それを顔に出さないようにする。心の中はエッチな気持ちであふれているが、表面上はいつものお姉さんの着替えを演じる。
 こうしてお姉さんのふりを続けていたぼくだったが、どうしても制御できないことがあった。
 それは服を着替えている間、自分でも気が付かないうちに、ついつい朋さんの下着姿を見ていたことだ。
「瑚……。そんなに体を見られたら、恥ずかしいよ」
 朋さんが、はずかしそうに手に持った制服で胸を隠す。
 あぶないあぶない。
 ぼくが憑依していることは、ばれてないと思うけれど、お姉さんの評価を落とすようなことはしたくないからね。ちゃんと瑚お姉さんになりきらなくっちゃ!
「ご、ごめん。朋の胸って大きいなって思って」
「もう! 瑚だって、あたしよりも大きな胸をしているじゃない」
 朋さんはそう言いながら手を伸ばし、ぼくの胸をブラジャーの上からつかんだ。
 あせったぼくに、お姉さんの記憶がよみがえる。これは女同士のスキンシップらしい。
 そこで、ぼくは瑚さんらしく、たしなめた。
「もう、朋ったらエッチなんだから!」
「あははは。ごめんごめん!」
 瑚さんの知識から、朋さんが瑚さんと同い年だと知る。ぼくよりずっと年上のお姉さんが、ぼくのことを同じ年齢の友達として接してくれるのがうれしい。
 瑚さんもこんなふうに、ぼくのことを、年下の男の子ではなく、同等の友達としてみてくれないかな。そしてできることならば、恋人になりたいけれど、やっぱりむりだよな。

(「第5話」につづく)







inserted by FC2 system