「おねぼく ―あこがれのおねえさんに憑依してしまったぼくの日常―」

 作・JuJu



【第3話(全10話)】

 気が付くと、気を失ったときと同じように、ぼくはお姉さんのベッドの上でうつ伏せに寝ていた。
 あわてて起きあがり、あたりを見渡す。
 お姉さんの部屋に変化はなかったけれど、覆い被さって来たはずの瑚さんの姿が見えない。
 それにしても、目覚めてから体が重い。特に胸の辺りに重みを感じる。
 お姉さんの部屋にいることはうれしいけど、肝心の瑚さんがいないんじゃ嬉しさも半分だ。
「瑚さん、どこにいっちゃったんだろうなー。
 ――えっ!?」
 なにげなくつぶやいた、自分の声に驚く。
 どうしてかといえば、その声は女性の声だったからだ。それだけじゃない。聞き間違うはずもないその声は、ぼくの大好きな瑚さんの声そっくりだったからだ。
「どうしてぼくの声が、瑚さんの声になっているの?」
 ぼくはお姉さんの声でいった。
 それから指で、喉を触ってみた。
「!?」
 喉に触れた指の感触は、細くて、とてもなめらかだった。
 あわてて、自分の手のひらを、目の前に持ってくる。
 驚きで、ぼくの目は見開かれた。
 なんとぼくの手は、女性の手になっていた。
「まさか、これって? ひょっとして……」
 ぼくは下を向いた。そこには、セーターに包まれた大きなふたつの胸があった。女性の手で触れると、やわらかさが指に伝わり、同時に胸に触れられているという感覚が伝わってくる。
 女性の胸だ。そして、この声と手。
 ぼくは部屋を見回して、鏡を捜す。
 全身が映せる姿見の前に立つと、そこにはぼくではなく、お姉さんの姿が映っていた。
 どうやらぼくはお姉さんになってしまったらしい。おそらく、さっき瑚さんにのしかかられたときに合体したのだろう。ぼくの幽体がお姉さんの体に入ってしまったのだ。
「でもそれじゃ、お姉さんの精神はどこにいったの?」
 ぼくは青ざめる。
 ぼくがお姉さんの体を奪ってしまったとしたら、もともとあった、お姉さんの精神はどこに消えてしまったのだろう。大好きなお姉さんが消えてしまうなんて、ぼくには堪えられない。
「お姉さん……どこ?」
 お姉さんのことを強く思った、その時だった。
 お姉さんの物と思われる知識や記憶が、頭の中に浮かんできた。すべてではないが、うっすらとお姉さんの知識や記憶がわかる。同時にお姉さんの意識が、いまは心の奥深くで眠っていることも感覚で理解できた。
「よかったー。お姉さんの精神が消えた訳じゃないんだ」
 お姉さんの精神が消えた訳じゃないと知ると、急に安心感で満たされた。それと同時に、さっきお姉さんが言っていた言葉を、彼女の記憶とともに思い出していた。
 そうだ、お姉さんはこれからアンキモにアルバイトに行くって行っていたんだ。
「アンキモかあ。あのファミレスって、ちょっと制服がエッチなことで有名なんだよね。おっぱいを強調したブラウスとか、超ミニスカートとか。
 だから一度は行ってみたかったんだけど、お姉さんの姿ならばアンキモに堂々と入れるな」
 ぼんやりとだけどお姉さんの記憶や知識がわかるから、お姉さんになりすますこともできそうだ。
 そう思うと、胸がわくわくしてきた。
「よーし。いまからお姉さんの体でアンキモに行こう! お姉さんだってアルバイトを休んだら困るだろうしね。
 アンキモでアルバイト体験だ!」
 それにしても、あのゼリージュースには、一定時間がたてば霊体から元に戻れるって書いてあったけれど、本当かな。
 不安だったけれど、今は元に戻れることを信じるしかない。霊体になれたことが本当だったんだから、元に戻れることも本当だろう。
 霊体から元に戻れなかったらどうしようとおもっていたけれど、万が一にもそうなっても、お姉さんと一心同体でいられるのならば悪くはないかもしれないと思えてきた。
 とにかく、ゼリージュースの効力が切れるまで、ぼくはお姉さんと一緒なんだ! それまでよろしくね、瑚お姉さん!

(「第4話」につづく)








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