『俺の彼女』(前編)
 作: Howling


「つ、ついにこの日が来ちまった・・・・・!!」

俺、式部孝弘は舞い上がっていた。

同級生の時田真緒と恋人関係になってから1ヶ月、とうとう彼女の家に遊びに行くこととなったのだ。
当然、女の子の家に招待されるなんて初めてだ。
俺の中には緊張の二文字しかない。

「か、彼女の家とか・・・・どうすりゃ・・・・」

そりゃそうだろう。初めての彼女なんだし。
経験値ゼロの俺にどうしろと・・・・・・
悶々としている内にもう玄関前まで来てしまった。
2階建ての一軒家だ。
「はぁ・・・・落ち着けぇ・・・・・・」
ここまで来たらやることはひとつだ。
明日っていまさ!とばかりに俺はインターホンを押す。
「はーい。」
声がしたと思ったらすぐに玄関の扉が開く。
「いらっしゃい孝弘君!」
真緒が出迎えてくれた。
白と紺色のボーダーシャツに薄い青のデニムスカートだ。
にかっとした真緒の笑顔を見ると何故か嬉しくなってしまう。
純真って感じの笑顔。この笑顔に惹かれたのだから。
「いらっしゃーい。」
真緒に続いて、妙齢の女性が現われた。
「!?」
俺は一瞬驚く。はっきり言ってかなりの美人だった。
「はじめまして。君が孝弘君ね。
 真緒の母の時田晴美です。」
そう言って彼女は一礼した。
「は、はじめまして!式部孝弘です!」
俺は反射的に挨拶した。
正直言おう。俺はどぎまぎしていた。
真緒の母親の美貌にだ。身長は真緒と同じくらい。
しかし、ナイスバディと同級生から言われまくってる
真緒以上に美人だ。そして何より巨乳!!
白いセーターに紺色のスカート、そこから伸びる脚は黒っぽいタイツに包まれている。
身長も高いのがすぐに分かった。
真緒から歳は40手前と聞かされたけど、正直そうは思えないくらい美人だ!

ぼーっとしていると、真緒が少しばかりふくれっ面になっていた。
「もう、何ぼーっとしてんの?早く上がって上がって。」
真緒に促されるまま俺は玄関に入った。

そのまま階段を上がり2階の真緒の部屋に通される。もちろん真緒の部屋に入るのなんて初めてだ。
綺麗に整理された部屋。家具の色合いとかポップな感じがして、妙にどきどきする。
女の子の部屋という未経験の空間に見とれる。
雑多な自分の部屋とは大違いだ。

「座って座って。」

真緒に言われるまま、俺はテーブル近くの座布団に座った。

「綺麗な部屋だね。」
率直な感想だった。俺がそう言うと真緒は嬉しそうにする。
「だって孝弘君来るんだもん。綺麗にしちゃうよ〜。」
「そうなんだ。」
真緒は心底嬉しそうだった。
「あっ!?」
「?どうしたの?」
「ごめん孝弘君。孝弘君の好きな飲み物用意してくるの忘れてた。
 ちょっと買ってくるから待ってて!」
「え?いや、大丈夫だよ気にしないで。」
「いや!絶対必要だもん!近くのコンビニだから!」
そう言って真緒は風のように飛び出していった。


前々からそそっかしいんだよな・・・・まあ、そこもカワイイんだけどさ。


女の子の部屋に俺一人・・・・・・・

今座っている位置から部屋がどんなものか改めて見回してみる。
自分の部屋にはまずない、ほんのりとした甘い香りがしている。
今の現実を改めて理解した。
俺、今女の子の部屋にいる・・・・・!!!

そう思うと余計に緊張した。
だって仕方ないだろう・・・・・初めてなんだから!!

「お待たせ〜!」
真緒が戻ってきた。
手元にはコンビニの袋が握られている。
「さ、どうぞ!!」

真緒がドリンクを渡す。俺好みのソーダだった。

そこから、俺と真緒は色々話をした。
でも、緊張の余り、真緒との話もどこか上の空気味だった。

「あ、そうだ!ドラマ観よ!最近おもしろいのがあってさ、一緒に観よ!」

真緒に薦められるままドラマを一緒に観ることになった。
今やってる最中の恋愛ドラマだ。
俺も名前くらいは知ってるやつだったので、抵抗なく観ることができた。


ドラマの展開が進むにつれて、俺も真緒も無言になってドラマに注目した。
そうしているうちに展開が加速していく。
二人の男女が互いの愛を確かめ合う・・・・・

「!?」

無防備だった俺の手にヒンヤリと、そして生暖かい感触が伝わった。
何事かと思って手の方を見ると、真緒が俺の手を掴んでいた。

それに気づくと、今度は真緒が俺に視線を向ける。
どことなく目が潤んでいた。

「うわっ!?」

なんと、俺はそのまま真緒に押し倒された!
何事か分からずどぎまぎする。

「え!?な、何!?」
「緊張してるの?女の子の家は初めて?」
「ま、まあ・・・・」
「緊張しないで。。このまま・・・・・」
そんな真緒に俺は違和感を感じた。
何故そう思ったのかはよく分からなかったが、その笑みが普段の真緒とは違う気がした。
どことなく色っぽい感じがした。真緒らしくない色っぽさ・・・・・

「ね、ねえ・・・・今日の真緒さ、どうしたの?何かいつもと違うよな・・・・」

その一言に真緒ははっとしたような表情を浮かべる。

しばし沈黙が流れる。


沈黙を破ったのは、真緒だった。


「ふふ・・・・・あなた、合格よ。」

「?合格・・・・?」

俺は、真緒の言った言葉の意味が分からなかった。

そこで、バタンと部屋のドアが開いた。
そこから現れたのは・・・・・・

「ふふっ。さっすが孝弘君だわ♪」

何と、たった今部屋に入ってきたのも真緒だった。
俺はとうとう混乱した。

「え?どうゆうこと?真緒が二人・・・・??」

「落ち着いて。順番に教えるわ。」

混乱する俺を、後から部屋に入ってきた真緒がなだめた。


「ふふふ・・・・」

俺を押し倒してきた真緒は立ち上がり、後から入ってきた真緒の横に立った。

二人の真緒が俺を見下ろしている。

すると、俺を押し倒した真緒が、自分の顔に手を宛がった。


ベリベリベリ・・・・・
俺は目の前の光景が信じられなかった!
真緒の顔が音を立てて剥がれていったんだ!
その下から現れたのは、何と真緒のお母さんの晴美さんの顔だった!!!

漫画とかでしか見ないような出来事を前に、俺はその様子をただ呆然と見つめていた。


「ふふふっ、ごめんね孝弘君。驚かせちゃって・・・・
 でも、そっくりだったでしょ。」

晴美さんはニコニコとしている。
そんな晴美さんと、今床に転がってる肌色の物体を見比べる。
ぷよぷよした物体。あれで真緒そっくりに化けていたなんて・・・・・

言葉にならない俺に対し、真緒が話しかけてきた。

「びっくりさせてごめんね孝弘君。事情をちゃんと説明するわ。
 実は私達ね・・・・・代々受け継がれてきた忍者の家系なの。」

ニンジャ!?ニンジャナンデ!?
あまりに突拍子な話に内心驚く俺。それでも真緒は話を続けた。

「それで、うちのしきたりで恋人ができたらその相手について試験するの。
 そっくりに化けた人間が来たときに本物と見分けることができるかどうか。
 試験中、相手に対して少しでも疑問に思ったら合格ってことでね。
 孝弘君はその試験に見事合格したのよ!嬉しいわ!!」

真緒は心底嬉しそうにしていた。

「ええ、君となら交際を認めるわ。うちの娘をよろしくね。
 孝弘君っ!」

晴美さんも同意してくれた。

「も、もし俺が見破れてなかったら・・・・」

「残念だけど別れてたね。でも心配はしてなかった。
 孝弘君ならちゃんと見破ってくれるって信じてたから。」

目を輝かせて真緒は言った。俺は一瞬ぞっとした。
でも、信じてたって言葉は嬉しいな・・・・・
そんな中晴美さんは再度真緒のマスクを手に取っていた。
目鼻口が空洞になった真緒の顔。
何か不気味だったけど不思議な魅力を感じていた。
そんな真緒のマスクを晴美さんは顔に宛がった。
マスクの境目を何か塗って目立たないようにしていく。

「ふふふ、こんな風にねっ♪」

再度真緒に変装した晴美さんが腰に手を当ててポーズを取りながら言った。
声まで真緒そのものだった。


そんな彼女に本物の真緒は抱きつく。


「やだママそっくりすぎぃ。」
「どうかしら?どこから見ても貴女よ。」
「でも私そこまで胸おっきくないよ。」
「これは趣味よ。なあんてねっ!」

2人の真緒が抱きつきいちゃいちゃしている。
俺の目の前で、現実からかけ離れたような親娘の会話が繰り広げられていく。
しかし、二人は本当にそっくりだ。実の双子と言っても分からないくらい違和感がなかった。
 

「私達体型もそっくりでしょ。だからこうしてときどきお互いを入れ替えて遊んだりするの。」

「え!?じゃあ真緒ちゃんも・・・・・」

「うん!私もママに変装できるよ♪」
「うそ!?」

「見てみたい?」

真緒からの提案に俺はどぎまぎしてしまった。
真緒があの美人の晴美さんに!?
俺自身気がつかないままに好奇心が強くなっていった。
だってこんな現実離れしたことが起きるなんて!?

俺はその好奇心に突き動かされるままに頷いた。

「じゃあ、見せてあげる。いいでしょ?ママ」

「ええもちろんよ。じゃあ孝弘君っ!愉しんでね!」
晴美さんは真緒の顔でそう言って、去っていった。
あのままでいるんだろうか?まさかな・・・・・


「じゃあこっち来て♪」

真緒に手を引かれて俺たちも部屋を出た。

今度は階段を下りて1階の奥に進む。
連れてこられた先は行き止まりだった。
そこで真緒は床にある何かを引っ張った。


「えええっ!?」

真緒が床のつまみみたいなのを引っ張ると床が開いて地下に通じる階段が出てきた!!

唖然とする俺は真緒に尋ねた。

「ねえ真緒ちゃん・・・ここって忍者屋敷?」

「まあね。色々あるよ〜。」

あっけらかんとして応える真緒。

「秘密基地みてぇ〜・・・・・」

俺は思わずつぶやいた。

そのまま地下へ入る真緒についていく。
階段を下りた先には木でできた扉があった。

真緒がそれを開け、電気をつける。

「おおっ!?」

そこは、テレビとかで見た楽屋みたいな雰囲気の部屋だった。

鏡台が一列に並び、化粧道具が置かれている。
反対側には色んな服に加えて、肌色の何かが掛けられていた。

「うわっ!?」

俺は思わず驚いて声を上げてしまった。

上には、色んな人間の"顔"が飾られていた。
よく見ると、さっき見たマスクと同じようなものが飾られていたことが分かった。
その中には、真緒や晴美さんの顔のマスクもあった。
真緒は晴美さんのマスクを手に取る。

「じゃ、今から始めるからね♪」

真緒は心底嬉しそうに言った。
肌色のヘアキャップを被ってから顔中に何かのクリームを塗っていく。
その後晴美さんのマスクを取り出し、後頭部に隠れた小さなプラスティックジッパーを下ろしてマスクを広げ、顔を突っ込んだ。

マスクの位置を自分の目や鼻、口に合わせ、慣れた手つきで顔に貼りつけていく。
ジッパーを上げると晴美さんのマスクと真緒の素肌との間が締まっていき、真緒の顔の上に晴美さんの顔が密着した。

その後、何かの化粧品(後々ファンデーションっていうものだと教えてもらった)を塗って目元や口元などにあったマスクと地肌の境目を消していく。
首の下のマスクの端も同じようにして境目を消していった。

その後、目元や唇のところにメイクを施していくと、スキンヘッドの晴美さんができあがっていた。
さらに、横に置かれていた晴美さんの髪型そっくりなウィッグを被って位置を調整する。

「こんな感じね。」

俺の方に振り向く真緒は、完全に晴美さんの顔になっていた。
服装は真緒の私服で、歳不相応な恰好をした晴美さんという感じだった。

「あ、服も替えなきゃね。ちょっと待ってて・・・・」

そう言って、真緒は奥に入ってカーテンを閉めた。

1分して、すぐに真緒は出てきた。

「じゃーん!」

その姿は、どう見ても晴美さんとしか思えなかった。最初にあったときに晴美さんが着ていた服を纏っていた。


「声も変えられるよ・・・・・ふふっ、孝弘君お待たせ。どうかしら?」

あっという間に声も晴美さんそのものになった。はっきり言って、見分けが一切つかない。
中身は真緒のはずなのに、立ち振る舞いや雰囲気が完全に晴美さんだった。

親とはいえ、こんなにあっさり他人に変身できることに、俺はただただ圧倒された。

「やべぇ・・・・・すげぇよ真緒ちゃん・・・」

「真緒?やぁねえ孝弘君、私は晴美よ。間違えないでね。」

完全に晴美さんになりきっている。恰好はおろか人格までも変ったような感じだ。
そこには、真緒らしさが微塵もなかった。
こんなこと言っちゃああれだけど、他人に簡単に変装してしまう、そんな彼女にぞくっと来てしまった。

そんな俺の本心を、真緒は見抜いていたんだろうか?

真緒は晴美さんの顔でニタリと微笑み、俺に近づいて耳打ちした。

「ふふふ・・・・・ねえ孝弘君・・・・・"私の娘"になってみない?」





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