封魂の呪本 作:ドライパイン 意外な一言をかけられたのが、今日の昼前の授業後の事だった。 「佐久良さん、放課後に少しお話しても良いかしら?」 少し驚きつつ、佐久良美羽は承諾する。 「ええ、部活の先輩に連絡してからなので少し遅くなるかもしれません」 提案してきたのは、国語の授業を担当している教師の川澄だった。手には数冊の本を常に抱えており、その内容も度々変わっている。相当な本好きであることを、最初の授業で公言していた。 しかし、堅苦しい先生というわけでなく年長の先生と生徒との間に立って話し合ったり、学生の流行にも詳しかったりと、話しやすい先生として、学年を超えて人気のある先生として学内では有名であった。 その日の昼食休み。佐々木美羽は級友と弁当をつつきつつ話していた。 「ミーちゃん先生から呼ばれたって?」 「最近多いねー」 女子生徒たちからのあだ名も、ミーちゃん先生なるものが広まっている。本当の名前は川澄瑠依というのだが、名字の最後の部分を伸ばした呼び名がチャラい生徒から産み出され、広まったとはある生徒の談。 そんな先生だが、最近よく放課後に生徒を呼び出すことが増えたとの噂を佐久良は耳にしていた。呼ばれた生徒も、特に理由が思い当たらないと周囲には言っている。 教師からの呼び出しということで、大抵の生徒は身構えてしまうのだが翌日に呼ばれた人に話を聞くと、とりとめの無いことを話したと皆が口を揃えて言う。そこはミーちゃん先生の人徳なのだろうか、と佐久良は納得していた。 「けどさー。最近変な噂あるよね」 「ウワサ、って?」 「先生あんまし男子を呼ばないんだって、だから勝手にそういう趣味なんだとか言われてたり」 「ひどーい!」 そんな話を一緒にするのは、佐久良の昔からの友達でクラスメイトの野藤 真紀。 佐久良よりも交遊関係は広いが、だれかの愚痴や話題を一番聞くのは佐久良で、よく話す間柄である。 「それにさ、呼ばれた人達が時たま集まって何かするらしいよ」 「ふーん……?」 「あーっ、美羽ちゃんこれは信じてない目だなー!」 ケラケラ笑いながら、美羽のことを軽くつつく。それもそうだ、と美羽は思った。真紀のウワサ的中率はそんなに高くない。胡散臭いと思う時にはだいたいハズレだからだ。 「意地悪するとお昼の弁当減らしちゃうよ」 「あっ、ちょっとやめてー! それは大切なクリームコロッケー!」 先手必勝とばかりに、真紀の弁当から具材を奪う、ふりだけした。 ―――――――――――――――――――――――――――――― そして、その日の放課後。呼び出し場所は、図書室の中に更にある事務室だった。たまに図書委員の生徒がこの部屋のパソコンで事務作業したり、ポスターを作ったり、はたまた適当にネットサーフィンをしているとの噂を真紀から聞いていた。真偽は不明だったが。 貸し出し受付の向こう側に部屋があるため、カウンターの人に事情を伝えて入れてもらった。相手も顔なじみの間柄であったため、実質顔パスである。同じ部活動の人だったのもあるが。 だが。 その時の佐久良は、受付の異常に気がつくことは無かった。彼女が不自然に口元を歪めていたこと、カバーをしていた本が、学校に持ってくるには良俗に反する内容だったこと。 そして何より、彼女が座っている椅子とカウンターに隠れるようにして、水音が発せられていたこと。 扉を開けると、数冊積まれた本を傍らに別の本を読んでいる最中の川澄がいた。事務仕事もしていたのか、ノートパソコンも開いている。入ってきた佐久良を見ると、普段生徒に見せる柔和な笑みで応じた。 「今日はごめんね、バドミントン部で忙しいのに」 「いえ、活動熱心な人はあんまりいませんから。渋っていたのは副部長ぐらいでした」 「まあ、熱心にやるだけが部活動じゃないものね。楽しくやることも大切かもしれないわ」 美羽は、先生のこういう説教くさくないところに好感を持っている。 普通の教師や担任なら、部活動は熱心にやるものだとか部活は不要だ、勉強しろとかいった極論をぶつけてくるのだ。そういうのに辟易せずに、自分の意見を言える相手として安心できる。 「それで、話ってなんでしょうか?」 「そうね、最近私が面談を何人かにしているのは知っているかしら?」 まぁ、そうですねと曖昧に頷く。すると、柔らかな笑みでミーちゃん先生は続けた。 「色んな子達と仲良くしたいな、って思っているの。この学校で先生になってから2年ほどだけど、しばらくはどうやって話をしていいかわからなかったから」 その言葉は、美羽にとっては意外だった。だがよくよく考えてみるとそうかもしれない。ミーちゃん先生のことが話題に上がったのは美羽が2年生に上がってからのことである。それまでの先生の話は、特に聞いた覚えがない。あの噂好きの真紀からも、である。 「驚きました、初めから皆と話すのが得意なのだと思っていましたよ」 「大学生から先生になりたてのころは、どうしても先生と生徒とで無意識に区別していたの。こちらが教える側で、そのために色んな事を勉強しなくちゃいけないって」 再び虚を突かれた気持ちになる。先生が勉強をしているイメージが浮かばなかったから。だけれど、授業で人に説明して質問をされれば答える。それを空で出来る人がいるだろうか。 「……先生も、大変なのですね」 「苦労話みたいになってごめんね。だけど、私は忘れていたの」 「忘れていた?」 美羽が首を傾げると、目の前の『ミーちゃん先生』は少し恍惚とした表情を見せる。 「『あの日』に思い出したの。私はいろいろな人と仲良くしたいって。沢山の人と話をして、楽しい思いを共有したい。もしも悩みを抱えていたら助けになりたい。だから、先生と生徒っていう関係はやめようとおもったの」 『あの日』、という表現が美羽にはピンとは来なかった。果たして、それを聞いて良いものだろうか。あるいは、質問して聞くべき事実なのだろうか。しかし、タイミングを逸してしまった。 「……ごめんね、私の話ばっかりしてしまって。本当は佐久良さんのお話が聞きたいの」 「お話、ですか」 そう言われて、少し困ってしまう。よく、学校で何があったのと両親には聞かれる。しかし特別に何かがあったわけでもないので、返答に困る。そうすると、向こうは不満げな顔をするのだ。ミーちゃん先生も同じようにするのだろうか、と美羽は内心で警戒してしまう。 「代り映えしない毎日、って言ったらつまらないですよね。だけど特段何かあるかって言うのは難しいです」 困ったように、ミーちゃん先生がはにかむ。確かにね、と頷きながら触っていたパソコンの画面を閉じて美羽に向き合った。 「実はね、佐久良さんの部活動について相談があったの。学外の人から、バトミントンのラケットを持った生徒が問題行動をしているって」 「……はぁ」 佐久良には、思い当たりがない。それをしそうな人物も、推測がつかない。先生は、そのことを確認したのだろうか? 「ただ、本当にバトミントン部の人がそんなことをしたとは私には思えないの。何人かに聞いてみたけど、そんなことをしそうな人たちじゃないって皆が言っている。だから、通報自体が嘘なんじゃないかって」 その判断はそれで、佐久良には予想外であった。こういう通報には、過剰に反応するのが先生っぽいと思うのだが。 「だから、名目として部活の生徒に聞き取り調査をしているの。ごめんね、こんな嫌な話をしてしまって」 「ご、ごめんなさいなんて。先生もお疲れ様です」 「だから、今日は楽しい話をしたいの。佐久良さん、好きな本ってあるかしら?」 「本、ですか」 あいにくと、佐久良は決して本好きとは言えないタイプの人間である。最近はスマホで漫画も読めるし、わざわざ書店に出向いて購入する必要もない。ましてや、字のみの小説などそうそう読まないタイプである。 「小さいころ読んだ本でもいいの、漫画でも私の知らない本があるし」 「先生、漫画読まれるんですか?」 「学校には流石に持ってこないけど、昔は少女漫画だって読んでたのよ。めだか注意報とか」 「めだか……」 流石に佐久良にはジェネレーションギャップがあった。なかなか読んでいる漫画の話はしにくく、おずおずと昔の思い出を語る。 「スットコ3人組……とか……」 「懐かしい! 最近新作出てたのよそれ!」 「あれ新作出てるんですか!?」 「そうそう、確か……」 そういって、ネットに繋いだパソコンから本についての話題が広がる。まごまごと、小学生時代の書籍を口にしたものの笑われる事もなく。ほっとして、佐久良にとって会話しやすい相手だった。 「……あら、もう30分も過ぎてしまったのね」 「本当だ」 部屋の壁かけ時計は、いつの間にやら4時半頃を示している。そろそろ、部活動に戻らないと怒られるだろうか。しかし、意外に本について話を聞くのも楽しいものだと佐久良は思う。 「最後にだけど、もう一冊読んでみて欲しい本があって。頭の数ページだけで良いから読んでみて」 そういって、川澄先生は佐久良に一冊の本を渡す。分厚い表紙に奇妙な意匠が施されていて、題名は外国語のさらに筆記体のような文字で全く読めない。洋書、と呼ばれる類のものだろうか。読めるかなぁと恐る恐るページをめくる。 そこには、白紙のページが1枚。目次前の、空白ページだろうか。 特に思うこともなく次をめくる。次も、白紙。次も、次も。 めくっても、めくっても、文字らしきものは一向に現れない。 怪訝に思い、更にページを進める。 一枚ずつ、真っ白なページをずっと進めてゆく。 ―――――――――――――――――――――――― 佐久良は、異常に気が付くことが出来ずにいる。 自分の与えられたものが、本とは言えない代物であることも。いつの間にか、目の前の川澄が席を立ち佐久良の背後に立っていることも。それなのに、佐久良はページをめくり続けている。白紙の、何も書かれていない本を必死の形相で進めてゆく。 やがて、川澄は佐久良の方に手を置く。お構いなしとばかりに、本をめくり続ける佐久良。すると、突然川澄は肩に伸ばした手を制服の内側に潜り込まさせる。 「ごめんね、全部嘘だったの。今日の部活動の話も、漫画が好きだって話も、あと、あなたと話がしたいって言うのも」 肩にかかる佐久良の、髪の薫りを逃さないように吸い尽くす川澄。次の瞬間にむしゃぶりつかんかの形相。 「本当は、あなたの体目当て。私の――――俺たちのスペアボディに丁度いいと思ったから」 「ひぃっ……!?」 突如として、つい先刻まで全く動かなかった美羽が引きつけを起こしたかのように苦しげな呼吸を始める。 やがて、先程まで全く動かなかった美羽の手が動き、終わりまで読み終えてしまった本を閉じる。 本を閉ざしたあと、その手はゆっくりと彼女自身の胸へと向かって行く。川澄によって乱されている制服も気に止めず、初めて触れるかのように恐る恐る、彼女自身のふくらみへと手を進める。 ぽふ、と気の抜けたような音と衣が擦れる音。自らの受ける感触と、与える感触を同期させるようにゆっくりと触れる。キョトンとした表情が、次第に歓びの感情へと移り変わる。しかし、それは普段彼女がそうするような快活なものではない。暗い喜びを得た顔。 「目星をつけていただけはあるだろう?」 川澄が、豹変したときと同じ乱暴な言葉遣いをする。再び体を美羽に近く寄せ、彼女の両の手に重ねるように合わせ、ゆっくりと揉みしだく。 「ひゃん♡ あまり乱暴にするなよ、さっきまでお前が弄ってたせいで少し敏感になってるんだぞっ♡」 「コイツを演じるのに散々待たされたんだぞ、おあずけ喰らってご馳走なしなんて耐えられるかって」 「んっ、待てって♡ 先にやることやっておこうぜ」 嬌声を時々上げながらも、雰囲気の変わった美羽は先程まで読んでいた本を川澄に手渡す。品定めするかのように、空白だった筈の本をペラペラとめくってゆく。 「おや、『こいつ』の魂は意外に分量があるじゃないか」 川澄と同じように、美羽も読み進めてゆく。先程まで何も書かれていなかったはずの本には、不可思議な文字がびっしりと書き込まれている。通常なら読めないはずのそれを、時たま頷きながら二人はシンクロしているかのように読み貪る。 やがて、本の背表紙を閉じるとつい先程までの調子を取り戻したかのように美羽が呟いた。 「『わたし』は、ほんのちょっぴり川澄先生に憧れてたみたいです」 「『先生』も、皆と本当に仲良くしたかったの。だけど、どうやっても生徒達の心を知ることなんて出来なかった」 だけど、と行ったところで美羽が引き継ぐ。 「心を丸ごと奪ってしまえば、簡単な話ですよね?」 川澄が、突如として美羽の唇を奪う。美羽も、引き剥がすことなく舌で彼女の接吻を受け入れた。 時計の音と、水の音だけが部屋に響く。 椅子と机の間に入り込むように、川澄が立ち位置を変えて美羽の胸を再び弄る。今度は、じらすように美羽が少しずつブレザーのボタンを外していった。 「美羽さんの胸、皆よりも大きいわね。スポーツの時なんて動きにくくないかしら?」 「そこまで大きくはないですよ、川澄先生のほうが大きそうに見えますって♡」 「じゃぁ……試してみる?」 そういうと、川澄は着ていたスーツをゆっくりと脱ぎ始める。少しずつあらわになる肌色に、同性であるはずの美羽は釘付けになっていた。やがて、川澄の丸みが解放された後に二人は彼女ら自身の胸をぴっちりと合わせてゆく。 一瞬だけ肌どうしが触れ合ってピクンと体が跳ねるも、互いに相手の鼓動を肌で感じ呼吸もそろい始める。 「おっぱい比べだとまだまだ私の勝ちみたいね」 「川澄先生って意外に大きかったんですね……ちょっぴり悔しいかも」 「まだまだ美羽さんは成長期だから、これから大きくなっていきますよ。それに……」 ゆっくりと、胸を上下させるように川澄が動き始める。上下動に合わせて、美羽が嬌声を挙げる。 「ひゃうっ♡ せ、せんせいっ、とつぜん、んぅっ♡ うごかないでぇっ♡」 「おっぱいがあったら乳くらべして、こうやるのが楽しいんじゃない。それに美羽さんは胸全体で感じることが出来るみたいね」 もう湿っている下着に潜り、触ってしまえば糸をひく美羽の割れ目に川澄は指を突っ込む。 「こんなにねっとりさせちゃ、ダメでしょう♡」 「ごめんなひゃい、せんせえ……」 火照った顔で、蕩けたように呟く美羽。それがキッカケになったのか、川澄は美羽の秘部に入れた指を更に奥に進めた。 同時に、空いた片手で彼女自身の隙間を埋めようとする。 スカートの内側に手を滑り込ませ、自身の秘部を触り始める。だが、それだけでは昂ぶりが足りないのか美羽に呼びかけた。 「吸ってみて、私の先っぽの部分♡ 私が一番感じる所なの♡」 「せんせえ……はひゃ、はいっ♡」 されるがままだった美羽も、近づけられた川澄の胸を頬張って赤ん坊がするようにおっぱいの先端をチュウチュウ吸い込む。 川澄が、美羽と同じように顔を火照らせて嬌声をあげ始めた。反撃もむなしく、美羽が攻め立てられるままだったが。 「やめっ♡ きゃうん♡ くるっ♡ きちゃうぅ♡」 「いいわ、一緒にいきましょう♡」 「いっ……♡」 昇り詰める瞬間、美羽は川澄の両の胸に包まれるかのように抱きしめられる。叫ぶことはなかったが、多幸感に包まれたままでいた。 ―――― しばらくの後、二人は離れて別の席に座る。だらしない恰好を直さないまま、美羽は自分の胸を抱きしめるようにして、ため息をひとつ。幸せの絶頂にいるかのように、呼吸する。 「何度か体験はしたけど、こう女の子のカラダになるって本当にキモチが良いよな。こんなに柔らかい体も、トクトク鳴ってる心臓も、呼吸だって。もう俺のものになってしまったんだぁ……♡」 「ええ、もう私たちのものよ。もうじきみんな来るわ」 その時、引き戸のカラカラと引かれる音とともに数人の女子生徒が現れる。乱れた格好をしている2人を見て、彼女たちは驚かない。むしろ、同じようにイヤらしい表情を浮かべて2人に近づくのである。 同じなのだ、と美羽になり替わったモノは理解する。 似た表情を浮かべながら近づく、学友たちを笑顔で迎えながら美羽は思いつく。 『わたし』の大切な友人を、今度は誘ってみよう。 |