女の子布団

作:toshi9




 俺の名前は横山晶、25歳の会社員だ。

 俺が好きなもの、それはチャイナドレス。

 女性の体に密着して身体のラインを浮き立たせる光沢のある生地、花ボタン、そして生足の覗くスリット。見ているとどきどきしてくる。チャイナドレスを着ている女性にではない。女性が着ているチャイナドレスに……だ。

 そう、俺はチャイナドレスフェチ。

 彼女ができたら早速着てもらおうと、たくさんのチャイナドレスを収集している。

 だが折角できたガールフレンドを家に連れてきてもドレッサーに掛けられた何着ものチャイナドレスを見せた途端、気持ち悪がって逃げ出す始末だ。

 いっそのこと自分で着たら。

 そう思わなくも無いが、チャイナドレスは細身の女性でなければ着ることができない。収集したチャイナドレスは、どれも俺の身体のサイズには合うべくもなかった。

 それに例え身長180cm、体重85kgのごつい身体の男の自分が着たとしても、全く似合わないことはわかりすぎるほどわかっている。

 だから最近では、俺が女の子だったら、チャイナドレスが似合うスレンダーな美人だったらという妄想に浸り始めていた。

 そんなある日のことだ。

 俺はテレビをつけっ放しにしたままパソコンゲームに興じていた。

 ゲームが一段落してふと気が付くと、人気アイドルが出演していたバラエティー番組は何時の間にか終わり、テレビに映し出されているのは深夜お決まりの通販番組になっていた。

 番組ではフィットネス用品のようなものをだらだらと紹介していた。

 しばらくぼーっと見ていたのだが、段々飽きてきてチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばした。

 だがその時、ようやく新しい商品の紹介に変わった。

 今度はどうやら布団のようだ。

 真っ赤なチャイナドレスを着た美女が、その華奢な姿に似合わぬ力強さで軽々とスタジオ内に布団を運び込んできた。

 お、チャイナドレス。

 俺の目はチャイナドレスの美女に、いや、彼女の着ているチャイナドレスに釘付けになった。

 だがテレビのカメラアングルは、布団の前に立つ二人の男女のほうに変わってしまい、チャイナドレスの美女は画面から外れてしまった。

 ちぇっ。

 だが落胆する俺を他所に、テレビではその布団の紹介が始まった。

「皆さ〜ん、どうです? このふかふかの布団。いかにも寝心地が良さそうでしょう」

「そうですね、阿久津さん。このお布団だったら不眠症のあたしもぐっすりと眠れそうです」

 司会者に向かってアシスタントの女性が大げさに相槌を打つ。まあ通販番組には良くある展開だ。

「そうなんです、この布団って寝心地最高なんですよ。中に使っているのはアラビアの王室が代々使ってきたというペルシャダックのフェアリーフェザー。重たさを全く感じません。この最高級羽毛布団を、メーカーの好意で今なら何と100組限定、9800円でお分けできるんですよ」

「まあ、こんな素敵なお布団が? なあ〜んてお得なんでしょう」

 再び大げさに驚く女性アシスタントに、俺は思わず苦笑してしまった。

「ふふふ、でも驚くのはまだ早いんですよ、音羽さん」

「ええ? 阿久津さん、このお布団ってまだ何かサプライズがあるんですか?」

「はい、そうなんです。どんなに不眠に悩まれている方にも最高の寝心地と安眠をお約束しますが、この布団の効果って実はそれだけではないんですよ。とってもすごいんです」

「まあ、阿久津さん、何がそんなにすごいんですか? ただすごいすごいって言われても、私には何のことやらよくわかりませんわ。早く教えてくださいよ」

 音羽さんと呼ばれた女性アシスタントは、促すように阿久津という司会者に尋ねた。

 俺はリモコンを持ったまま、チャンネルを変えずに布団の前で行なわれている二人の掛け合いを眺めていた。

 最初は、もう一度チャイナドレスが映らないかとも期待していたのだが、司会者の言う『すごい』というその内容が何故か気になった。

「はい、この羽毛布団に特別にあつらえましたこのチベットシルクの布団カバーを被せ、さらにこのインドのマハラジャが使っていたという安眠枕を使って寝るんです。すると……」

「すると?」

「なあんと、男性は女性に、女性は男性に変わってしまうんです」

「ええ? 阿久津さん、お冗談を。そんな馬鹿なことがある訳ないじゃないですか」

 女性アシスタントは、けらけらと笑いながら司会者の背中をポンポンと叩いている。

 だが俺の目は、彼らの後ろに敷かれた布団に釘付けになった。

 男が女に変身できる布団だって!?

 どくんと俺の心臓が大きな鼓動を打つ。

「あれえ、音羽さん信じないんですね」

「当たり前じゃないですか」

「うーんそうですか。それじゃあ本当かどうか自分で試してみます?」

「え? い、いいえ、遠慮しますわ。私は男になんかなりたくないですから」

「おやおや、困りましたねぇ。それではこの布団の効果を視聴者の皆様方にお見せすることができません」

「まだそんなことを。駄目ですよ、番組をご覧の皆さんが阿久津さんの冗談を信じちゃうじゃないですか」

「だって本当のことですからね。そして今この番組をご覧になっている方だけにご提供しようと言うんです。そうだなぁ……それじゃあカオルちゃん、ちょっとこっちに来てもらえるかな?」

 その声に答えるように、画面の外からさっきのチャイナドレス姿の美女がつかつかと司会者のほうに歩み寄ってきた。

「カオルちゃん、いやカオルくん。君は男かい、女かい」

 この司会者、何を見えすいたことを。女に決まっているじゃないか。

 だってそうだ。カオルちゃんと呼ばれたショートカットの女の子は、アイドル顔負けのとってもかわいい子だ。しかも彼女の体にぴちっと密着したミニのチャイナドレスの胸は大きく盛り上がり、きゅっと絞れた腰から豊満に膨れるお尻にかけてのラインは、彼女の細身ながらも均整の取れたプロポーショをくっきりと浮き上がらせていた。

 誰が見ても彼女は女の子だ。それも赤いチャイナドレスにぴったりの。そう、女に決まっているじゃないか……でも……もしかして……。

 どくん、どくん。

 自分の鼓動が高まっていくのがわかる。そして彼女の口から出てきた答えは、俺の興奮をますます高まらせていった。

「僕は男です」

 ほ、ほんとうかよ!?

 俺はもうテレビの画面から目が離せなくなっていた。司会者がカオルくんと呼んだチャイナドレスの美女に。

 彼女ってニューハーフなのか? いや違う。だって彼女の声って女の子の声にしか聞こえないもんなぁ。

 そ、そうか、きっと彼女は司会者に話を合わせているんだな。

 俺のそんな自問自答を他所に、司会者はわが意を得たりとばかりに話し続ける。

「皆さん。実はカオルくんは番組でこの布団の効果を紹介する為に、この布団の効果を試してもらった最初のモニターなんです。そうだよねカオルくん」

「はい」

 司会者に促されて、にっこりとチャイナドレスの美女が微笑む。

 お、男……はぁはぁ……あれが……彼女が……男……はぁはぁ……。

 あんなにチャイナドレスがよく似合うのに……おとこ!?

 本当なのか。本当にあの布団の力であいつは女に?

「さて、カオルくんは本人が言うように本当に男だったのか、テレビの前の皆さんも疑問をお持ちのことでしょう。そこで今からカオルくんがモニターした時の様子をご覧に入れましょう」

「まあ、こんな美しい方が男性だっただなんて本当なんでしょうか」

「ふふふ、それは皆さんがこれから自分の目でお確かめください。それではVTRスタート!」

 司会者がパチンと指を鳴らす。それとと同時に画面が切り替わった。

 映し出されたのは白一色に統一された部屋。三方の壁は白く塗られ、一方の壁には大きな鏡が嵌め込まれていた。部屋の床にはぽつんと布団が敷かれており、その他には何も置かれていない。

 何とも奇妙な光景だ。

 その部屋の中に、やがて紺のジャージを着たがっちりした体格の男が入ってきた。

 そしてイケメンでも何でもない角ばった大きな顔のその冴えない男は、意を決したようにのっそのっそと布団に近づくと、するするとその中に体を潜り込ませていった。

「おやすみなさ〜い」

 男の呟きと共に、部屋の灯りが消される。

 それと同時にテレビ画面の隅に映し出された時計がぐるぐると早回りし始めた。どうやら画像を早送りしているらしい。

 やがて部屋の中が再び明るくなる。

 時計の針は朝7時を指していた。

 布団に潜り込んでいた男が、ぐぐっと手を伸ばす。どうやた目が覚めたようだ。

 だが伸ばしたその腕はさっきまでのごついものではなく、やけに細く白かった。

「あふっ、おはようございま〜す」

 さっきと声が違う。これって女の子の声……。

 男が布団を跳ね除けて上半身を起こす。だが起きてきたのは紺のジャージを着ているが、さっき布団の中に潜り込んだ男とは全くの別人だった。

 そう、それはどう見ても女の子。それも小顔の美人だ。

 短く切り揃えられた濡れたように黒い髪、潤んだ瞳、白い肌。

 それはどう見ても女の子にしか見えなかった。

 そう、そこに座っているのは、ぶかぶかのジャージを着た、さっきカオルくんと呼ばれていた美女だった。

「おはようカオルくん。いや、カオルちゃん。どうだい自分の体を確かめてみたら」

 上半身を起こしたままぼ〜っとしていた彼女は、マイクの声に促されてはっとしたように自分の体を見下ろす。

「え? あ!」

 自分の胸元を見て驚きの表情を浮かべた女の子は、やがて己の盛り上がった胸を摩り始めた。

「あ、あん」

 顎を上げてピクッと体を震わせた彼女は、今度は布団をはだけてジャージのズボンに左手を差し込んだ。

 と同時に驚きの声を上げる。

「な、ない。僕の、僕のモノが……」

 彼女はモゾモゾとジャージの中に手を這い回らせる。

 その彼女の表情には、困惑とかすかな喜びが交錯していた。

「そうだ、君は望み通り女になったのだよ。さあ、鏡を見てごらん」

 司会者のものとおぼしき声に促され、立ち上がった彼女は鏡をじっと見詰めた。いや、鏡に映る己の姿を。

「これ……これが……ボク」 

 彼女の表情が困惑から、徐々に喜びに溢れたものに変わっていく。

「こほん、さあカオルくん、これを着たまえ」

 画面の外からふぁさりと布団の上に真っ赤なチャイナドレスが投げ出された。

「これを……僕が?」

「そうだ、もう君は女なのだ。その布団の力で、君の望み通り女の子になったのだよ。そのチャイナドレスはきっと今の君によく似合うぞ」

 ごくり。

 俺の喉が鳴った。下半身が疼く。

 俺も、俺も着てみたい。女になって、そしてチャイナドレスを……。

 真っ赤なチャイナドレスを取り上げてじっと見詰めていたカオルちゃんは、チャイナドレスを布団の上に置くと、震える手で己の着ているぶかぶかのジャージを脱ぎ始めた。

 カオルちゃんがジャージを上下とも脱ぎ捨てると、そこには胸が覗くゆるゆるの白いランニングと男物のブリーフを身に纏った美女が立っていた。

 それは何とも倒錯的で官能的な姿だ。

「下着はどうするんだい?」

「え? あ、え……と……」

「着替えてみたいんだな。今の自分にぴったりの女の下着に、そのチャイナドレスに合うランジェリーに」

「は、はい」

「ふむ、仕方ない。それでは別室で着替えてもらうとするか」

 パタっと扉が開いた。そしてチャイナドレスを手にした彼女は、その扉から出て行った。

 そこで画面は元のスタジオに戻る。

「どうですか皆さん。これで信じて頂けましたでしょうか」

「阿久津さんったら、今のってどんなトリックを使ったんですか?」

「トリックでも何でもありません。今のは本当にカオルくんの身に起きた出来事なんですよ。ねえカオルくん」

「はい」

 再びチャイナドレスの美女が微笑む。

「さて、この男性が女性に、女性が男性に変身できる布団セット。今ご覧の方に99800円でご提供いたしましょう。但し先着10組限定です。また返品はご容赦ください。信じる信じないはあなたの自由です。さあ、購入を希望される方は、今すぐこちらの番号にお電話ください。尚、深夜ですので、くれぐれもお掛け間違えないようご注意ください」

 画面の下を、右から左に電話番号のテロップが流れていく。

「た、高けぇ。布団だけだと9800円なのにセットだと99800円? 10倍じゃねえか。くそっ、足元を見やがって」

 だが、欲しい。そう、あの布団を手に入れれば俺の夢が叶う。

 布団に寝ていたのはごつい男だった。それが起きるとチャイナドレスの似合う美女に。

……欲しい。

 カオルちゃんみたいに俺もあんなチャイナドレスを着てみたい。あのチャイナドレスが似合う美女になってみたい。

 はぁはぁ、はぁはぁ。

 俺は深呼吸して粗くなった息を整えると、電話番号を書き写し、興奮した手で電話をした。

 電話はすぐに繋がった。

 そして1週間後、布団セットが俺のアパートに送られてきた。






「さあ、いよいよだ。この布団で眠れば俺の願いが叶うんだ。この布団で眠って、そして……」

 黒のランニングとトランクスだけの格好で布団の中に潜り込みながら、俺の頬が自然に緩む。

 ハンガーには準備万端、コレクションの中から選び抜いたチャイナドレスが掛けてある。

「……そして目覚めたら、俺はこのチャイナドレスの似合う美女に変身しているんだ」

 布団の中で横になると、静かに目を閉じた。

 まどろみがすぐに俺を襲った。







 目が覚める。

 朝だ。

 布団から起き上がる。

 まだ頭がぼーっとしているが、早速己を腕を見る。

 それは白くほっそりとした腕。

 手を伸ばす。

 自分のものとは思えない華奢な腕。

 どうやら本当に変身したみたいだ。

「やったぁ!」

 俺は喜び勇んで起き上がろうとした。

 だが何だか体が妙にだるい。目が霞む。

「どうしたんだ」

 ランニングの中を覗き込む。

 そこにあるのは、萎びて垂れた胸。

 手鏡に己の姿を映す。

「げげっ!」

 そこに映っていたのは、ランニングとトランクス姿の白髪のばあさんだった。

「ひえええ、これが俺!?……悪夢だ」

 俺はへなへなと布団の上で尻餅をついた。

 慌てて布団と一緒に送られてきた保証書を見る。

 そこには「効果は24時間持続いたします。尚、容姿年齢は選択できませんので、あらかじめご了承ください」と書かれていた。

「さ、詐欺じゃねえか」

 だが悔やんでも遅い。

 その日1日、俺は祖母よりもずっと年上の姿で過ごす羽目になってしまった。





 翌日の朝、ようやく元の姿に戻った俺は考えた。

「大丈夫かよ、この布団。女に変身できるのは確かみたいだけれど、年齢・容姿がままならない? これじゃあ欠陥品じゃねえか」

 クーリングオフで返そうかとも思ったが、返品はご容赦くださいってことだしな。まあ仕方ない。それに何回か試していれば、きっとそのうちにチャイナドレスの似合うスレンダーな美女に変身できるだろう。取り敢えずもう一度試してみることにするか。

 そして夜、俺は再び布団に潜り込んだ。

 今度こそ……。



 



 目が覚める。

 朝だ、

 布団から起き上がる。

 まだ頭がぼーっとしているが、早速己を腕を見る。

 それは白くほっそりとした腕。しかもつやつやと張りがある腕。

 手を伸ばす。自分のものとは思えない華奢な腕。

 どうやら今度こそ上手くいったみたいだ。

「やったぁ!」

 俺は喜び勇んで起き上がった。

 体が軽い。

 だがいやに目線が低い。

 そういえば、着ているランニングが昨日以上にぶかぶかだ。大きなトランスはほとんど尻からずり落ちそうになっている。

「体が縮んだ? まさか」

 ランニングの中を覗き込む。

 そこに胸の膨らみは無かった。そう、平べったい胸だ。

「あれえ、失敗? いや……違う」

 そう、俺の体は小さくなっていた。 

 手鏡に己の姿を映す。

「げげげっ!」

 そこに映っていたのは、だぶだぶのランニングとトランクスを着た10歳くらいにしか見えない女の子の姿だった。

「ひえええ、これが俺!?……そんな」

 気がつくと、声も甲高い子供の声になっていた。

 俺はへなへなと布団の上で尻餅をついた。

「いくらコントロールできないって言っても、あんまりじゃねえか」

 ばあさんの次は小学生かよ。はぁ〜〜〜。

 結局その日1日、俺はこのいたいけな姿で過ごす羽目になってしまった。




 翌日の朝、ようやく元の姿に戻った俺は考えた。

「この布団、やっぱり欠陥品なんじゃないだろうな」

 再び疑念が頭をよぎる。だがばあさん、小学生ときたんだ。今度こそチャイナドレスの似合うスレンダーな美女に変身できるだろう。

 そうさ、取り敢えず女性に変身できるということは間違いなさそうだしな。

 そして夜、俺は再び布団に潜り込んだ。

 今度こそ、きっと……。








 目が覚める。

 朝だ、

 布団から起き上がる。

 まだ頭がぼーっとしているが、早速己を腕を見る。

 それは透き通るように白く、そしてほっそりとした腕。

 手を伸ばす。自分のものとは思えない華奢な腕。しかも張りのある大人の腕。

 どうやら今度こそ間違いないようだ。

「やっっったぁ!」

 俺は喜び勇んで起き上がった。その俺の頬にふぁさりとさらさらの髪がかかる。

「髪も伸びてる……成功だ。今度こそチャイナドレスの似合う美女になったんだ」

 ランニングの中を覗き込む。

 そこにあるのは、見事に盛り上がった二つの胸。

 にんまりと頬が緩む。

「こんなに大きな胸じゃあ、大き過ぎてチャイナドレスが着られないかもしれないじゃないか。ふふふ、でも間違いないよな。それじゃあ早速」

 だが立ち上がろうとしてふと気がつくと、俺の頬にかかる髪は何故か金髪だった。

「あれ? 金髪?」

 手鏡に己の姿を映す。

「うげげっ!」

 そこに映っていたのは、ランニングとトランクス姿の金髪の美女だった。黒のランニングを巨大な双球が盛り上げ、腰は見事に細く絞れている。そしてトランクスに包まれたはちきれんばかりのお尻。

 手鏡に映った美女は、困ったような表情で頭を掻いていた。





「ひえええ、これが俺だってぇ!?」

 俺はへなへなと布団の上で尻餅をついた。

「違う、違う、違う」

 そうだ、俺がなりたいのは美人は美人でも金髪美人じゃない。チャイナドレスの似合うスレンダーな美人なのに。

「俺はチャイナドレスが似合う美女になりたいんだ。外人娘はお呼びじゃねえ〜〜〜」

 ピンポーン!

 その時、突然玄関のチャイムが鳴った。

「こんな朝から客? こんな格好で、どうすれば良いんだ」

 居留守を決め込もうかとも思ったが、玄関の扉の向こうから俺を呼ぶ声が上がる。

「横山様、横山様、いらっしゃいますよね」

 どうやら俺が居ることはわかっているようだ。う〜仕方ない。

「どちらさまですか」

 観念した俺は、呼びかけに応えた。

「私、先日布団セットをお送りいたしました通販会社のものでございます」

「通販会社の人が何の用だい」

「はい。あの……大変申し訳ないのですが、先日お届けした布団を使われた方々にトラブルが発生しておりまして、取り急ぎご注意に回っている次第なのでございます」

「トラブル? あれってやっぱり欠陥品だったのかい?」

「はい。どうやら3回までしか変身できないことがわかりまして。3回目の変身で効果が切れてしまうのです。おまけに」

「おまけに?」

「3回目を使ってしまうと、24時間経っても元の姿に戻れなくなってしまうようなのです」

「へ!?」

「ということで、3回使わないよう購入された方に急ぎご注意に廻っているところでして」

「も、もう遅い」

 俺は床にへなへなと座り込んだ。

 まさかずっとこの姿のまま? 嘘だろう〜!!







 結局折角手に入れた布団は通販会社に回収され、俺は代わりの新しい布団が送られてくるまで金髪美女の姿で生活する羽目になってしまった。

 部屋の中でじっとしている訳にもいかないので会社は休職し、元に戻れるまでバイトを始めることにした。

 そう、最初はどうなることかと懸念したものの、結果から言うとバイト先はいくらでもあった。

 だってそうだろう。何たって今の俺は日本語をぺらぺら喋ることのできる金髪美女だ。

 チャイナドレスの似合うスレンダーな美女になるという目的は果たせなかったが、今の金髪美女の姿も充分魅力的には違いない。

 俺は、昼はイベントコンパニオン、夜はクラブのホステスとして働いている。

 勿論ユニフォームはチャイナドレスだ。

 お客さんは皆、俺のことを熱意を持って褒め上げた。

 そう、最初はこの姿でチャイナドレスを着ることに違和感のあった俺も、やれ素敵だの綺麗だのと褒め上げられるうちに、最近ではこの金髪美女の身体のままでも良いかなって思い始めていた。





 クラブの従業員ロッカールームの鏡に、チャイナドレスに着替えた俺が、金髪美女の俺が映る。

 にっこりと微笑むと、鏡に映っているチャイナドレスを着た金髪美女もにっこりと微笑んだ。

「アキラちゃ〜ん、早くして、3番テーブルさんご指名よ」

「は〜い。あら、社長さんいらっしゃ〜い……」





(了)


                                  2005年8月5日



後書き

 約2ヶ月振りの新作です。仕事が忙しくなってなかなか心の余裕と時間のゆとりが無くなってしまったのですが、ようやく少し書けるようになってきました。まあえっちは無しですし物足りないかとは思いますが、どうぞご容赦ください。
 さて、この作品はHIROさんから頂いた二つ目のイラストを元に書いてみたものです。イラストの題名はずばり「女の子布団」で、男物の下着を着た金髪美女が戸惑っているという、TS作品としてとってもわかり易く、そして素敵なイラストでした。HIROさんから頂いた際に、こんな話を想定して描いたとお聞きしていたので、今回はそれを元にして書いてみました。
 HIROさん、イラストありがとうございました! そしてお読み頂いた皆様、どうもありがとうございました。
 toshi9より感謝の気持ちを込めて。


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