アナタに訊きたいコトが‥‥3

春日部市を流れる利根川近郊の閑静な住宅街の朝は、いつもと変わりなく始まろうとしていた。

「いってきま〜す」

僕は、元気よく愛機の一人乗りの綾並みン壱号機のエンジンを始動させて、機体を浮かび上がらせた。今日もエンジンの調子はいいようだ。僕は気持ちよく発進しようとした時、若くて愛らしい妻が、声をかけた。

「アナタ、忘れ物」

「え?」

「これよ、これ」

「あ、忘れてた」

「もう、マルチャンは、慌て者なんだから」

「てへへ」

某ゴルファーに似ている僕は、妻にマルチャンと呼ばれていた。僕は、ホバーリングしながら差し出されたドリンク剤のビンを受け取り、蓋を開けようとした時、うしろで、荒い息遣いが聞こえた。

「ぜえぜえ、はあはあ」

寝過ごした近所の誰かが、綾並みン壱号機に乗せて貰おうと、走ってきたのだろう。だが、これは一人乗り用で、もし二人乗ったら飛行時にバランスが崩れ、コントロール不能になってしまう。僕は丁重にお断りしようと振り向いて絶句した。後ろに立っていたのは・・・頭からずぶ濡れの少女だった。

「かえせ~~、それはおれんだ。かえせ〜〜」

その地獄の底から響いてくるかのような薄気味悪い声に、僕はゾクッとした。僕はビンを持ったまま固まってしまった。

「かえせ〜〜」

まるで人に襲い掛かるゾンビのように、腕を伸ばし、身体中からしずくをたらしながら、僕に近づいてきた。

「きゃ〜〜」

僕は思わず叫んで、綾並みン壱号機から飛び降り、成り行きを呆然と見詰める妻の後ろに隠れた。その時、持っていたビンは、綾並みン壱号機の操縦席の足元に転がってしまった。

「おれのドリンク・・・」

その少女は濡れた身体を操縦席に乗り出して、足元のビンを探し始めた。と、その時、彼女の身体のどこかが発進スイッチに触ったのか。綾並みン壱号機は、動き出してしまった。そして、その事に慌てた彼女は、速度調節レバーを倒してしまったらしく。綾並みン壱号機は、全速で飛び去ってしまった。

「いってらっしゃ〜〜い」

「なに見送っているのよ。どうするの?彼女、ドリンク持って行ってしまったわよ」

「ど、どうしよう・・・」

「もう、あれ飲んどかないと頭痛に悩まされて大変だぞ。もう一本とって来るからそこで待ってナ!」

「は〜い」

地が出始めた妻の言葉に素直に従って、わたしはその場で彼女を待つ事にしたの。あれ?わたしもだ。

実は、わたしたち身体が入れ替わってしまっているの。一年前、わたしと、マルチャンは、ある飛行機事故で即死状態だったんだけど、脳がまだ生きていたので、身体を治療する間、脳だけ身体から切り離されていたの。そして、身体が治癒したので元に戻してもらったんだけど。元に戻す時に、入れ替わってしまって・・・それに、脳と身体は性別が別だから、あの脳の性別反転剤がいるんだけど。大丈夫かな?普通の人が飲むと、脳と身体の性別が相反する事になるんだけど・・・

 

「やっと見つけたぞ。これさえ飲めば!」

少女は、やっとの思いで見つけ出したビンを手に掴むと、座席に座り、ビンの蓋を開けた。そして、グイッと一飲みに飲み込んだ。口の中で、甘くそのくせちょっぴり苦いドリンクの味が広がった。

「これで、元に戻れ・・・あら、わたしどうしてここにいるのかしら?あ、やだ、なにこれ?空を飛んでるわ。いや~~~、だけか助けて!!」

脳の女性化によりパニックに落ち込んでしまった少女は、綾並みン壱号機の上で騒ぎ座した。あまりに彼女が暴れるために綾並みン壱号機は、コントロールを失い落下し始めてしまった。その眼下には、大きな湖が広がっていた。

「いや〜〜〜」

 

 

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