政美が仕返ししたいのは・・・(第2話)
 
 
 

キーンコーンカーンコーン!
 

今日の授業が全て終了し、放課後が訪れる。
芳雄、良晴、政美の3人は、しばらく待って掃除が終わった教室で話を始めた。
 

芳雄:「へぇ。やっぱり川西伸吾と井上美月って付き合ってたんだ。
          前から噂してたもんなあ。」

政美:「そんな事どうだっていいのっ!」

芳雄:「でも、あの川西伸吾から付き合ってくれって
          言われたんだろ。いい話じゃないか。」

政美:「ぜ〜んぜんよくないっ!何で井上美月と
          付き合ってるのに私に告白するわけ?」

良晴:「そりゃあ、川西伸吾が助平で女好きだからだよ。」

政美:「もうっ、絶対に許さないんだから。」

芳雄:「まあ、政美がそういうのも分からないでもないな。
          俺だって逆の立場になったら腹が立つから。」

良晴:「そうかなぁ。」

政美:「何っ?」

良晴:「あ、いや、腹が立つな。うん。」

政美:「だったら協力してよ。そうそう、さっき芳雄が
          何か作ったって言ってたけど、話が途中になっちゃったね。」

芳雄:「おっ!そうそうっ、いいこと思い出してくれたな。
          細胞均一化チップの事だろ。」

良晴:「で、それって一体何なんだよ。」

芳雄:「これだよこれ。」
 

芳雄がポケットからおもむろに1センチ角くらいの薄くて小さな白いチップを取り出した。
 

芳雄:「これがそのチップさ。」

良晴:「ふ〜ん。小さいんだな。」

芳雄:「ああ、おでこに貼って使うんだ。と言っても、すぐにおでこじゃなくなるんだけどね。」

良晴:「おでこじゃなくなる?」

芳雄:「そう。一体このチップで何が出来るかというとだな。ズバリッ、
          スライムみたいになれるんだよ。」

良晴:「はぁ?」

政美:「ス、スライムって、あのドロドロした緑色の気持ち悪いやつ?」

芳雄:「ああ、緑色じゃなくて、透明だけど。」

良晴:「そのスライムになれるチップをどう使うんだ?」

芳雄:「あのさ、これってすごい発明なんだ。
          もうあのコンタクトレンズの比じゃないんだよっ!」
 

芳雄は胸に込み上げてくる感情をグッと押えながら話を続けた。
 

芳雄:「このチップで出来る事は、身体の細胞をいったん均一化して
          透明なスライム状に変化させる事。」

良晴:「へぇ・・・・」

芳雄:「そして、スライム状の身体になった後、他人の皮膚にくっつけば、
          その人間の皮膚と同じように刺激を得る事が出来る・・・と言う事。」

良晴:「なるほど・・・」

芳雄:「更に、その皮膚の色までコピー出来ること。」

良晴:「ふ〜ん。」

芳雄:「それに、他人の身体に貼りついたあとは、自然と皮膚のように変化する事。」

良晴:「・・・で?」

芳雄:「・・・・何を言っているのか分かったか?」

良晴:「・・・・何となく。」

政美:「・・・・全然。」

芳雄:「・・・・そうか・・・。別に難しい事言ってないんだけど・・・
         それじゃあ試してみるしかないよな。」

政美:「ここで試すの?」

芳雄:「いや、今日、政美の家に寄ってもいいか?」

政美:「え、うん。別にいいよ。夜まで誰も帰ってこないし。」

芳雄:「そっか。じゃあ政美の家に行って試そう。帰る時にもっと詳しく説明してやるよ。
          特に良晴にはな。」

良晴:「ああ。それって俺が使うのか?」

芳雄:「俺でもいいんだけど・・・・政美はお前の彼女だからな。」

良晴:「???」

芳雄:「まあいいや。政美は別に何もしなくてもいいから。
          とりあえず良晴はしっかりと覚えておいてくれよ。コツがあるから。」

政美:「・・・・なんか不安だな・・・」

良晴:「んっ!なんか面白そうだな。」

芳雄:「使いこなせればこんなに面白い物は無いぜ。今までの最高傑作だよ。」

良晴:「よぉし。いっちょ頑張ってみるか。」

政美:「・・・・ほんとに大丈夫なの?」
 
 
 
 

話もまとまったところで、3人は政美に家に向かった。
電車で揺られている間に、芳雄は良晴に詳しく説明する。
 
 
 
 

芳雄:「いいか、スライム状になったら言葉はしゃべれなくなるからな。」

良晴:「そうか。口も無くなっちゃうんだ。それなら目も鼻も無くなるんじゃないのか?」

芳雄:「そう。でも呼吸は出来るんだ。そして、目の細胞が自動的に
          チップの近くに集まるようになっていてスライム状になっているにもかかわらず、
          ちゃんと見えるようになってるんだよ。」

良晴:「うそ臭いな・・・」

芳雄:「試してみれば分かるって。貼りついた人間の目の上くらいに
         透明になったチップが移動するから大体同じくらいの高さで
         見えるようになるんだよ。」

良晴:「そっか・・・それからスライム状になった後って動けるのか?」

芳雄:「ああ。でも、二つに分裂する事は出来ない。
          あくまでも一つの「スライム」として固まってるんだ。
          まあ、ちぎろうとしても絶対にどこかで繋がるようになってるんだけどね。」

良晴:「ふ〜ん。伸び縮みできるのか?」

芳雄:「もちろん!ある程度は限定されるけど、好きな大きさになれるんだ。
          でも、注意しないといけないのは、媒体がないと形を作れないってこと。」

良晴:「媒体?」

芳雄:「そう。スライム状になったって、そのまま人の形を作ろうとしても無理なんだ。
          かなり柔らかいからな。だから他人の身体にまとわりつかないといけない。」

良晴:「要は、他人の身体をすっぽりと覆ってしまうと言う事か・・・
          まるで皮膚の代わりだな。」

芳雄:「そうだな。全身を覆うんじゃなくて、顔までだろう。
          髪の生えている頭まで覆うことは無いからな。」

良晴:「顔を覆うのは、目や鼻や口も?」

芳雄:「正確に言うと、目は、瞼まで。鼻は、鼻の穴の手前まで。口は唇まで。」

良晴:「ふ〜ん。」

芳雄:「なんて言ったらいいのかな。う〜ん・・・つまり、表に見える皮膚の部分。そういうことさ。」

良晴:「だったら口の中に入り込んで口の皮膚を覆うとか、舌を包み込むとか・・・」

芳雄:「それは可能さ。入り込めるところならどこまでも入り込める。
          それがスライムなんだから。」

良晴:「さっき学校で、皮膚の刺激が同じように伝わるって言ってたけど、
          もしも舌まで包み込んだら食べ物の味も分かるのか?」

芳雄:「う〜ん・・・俺はそこまでしたことがないから分からないけど、
         多分出来るだろうな。でもそこまでする必要も無いしな。」

良晴:「まあそうだけど。でも、貼りついた人の刺激を共有できるってのはいいよな。」

芳雄:「だろ!貼りついたあと、意識してすごく薄く伸びるんだ。
          そう、まるで皮膚に溶け込むように。
          そのあとしばらくすると貼りついた人の皮膚の色に染まっていくんだよ。」

良晴:「へぇ・・・」

芳雄:「こうなったら、見た目には全然分からない。
          スライムの跡形もなくなるんだ。まるで皮膚そのものさ。」

良晴:「すごいなぁ・・・・」

芳雄:「産毛だって見えるんだぜ。更にだっ。完全に貼りついたあと
          形を変えることだってできる。」

良晴:「なるほど・・・それはいいな。」

芳雄:「だろ。あとは実践で試してくれよ。」

良晴:「政美に貼り付くんだな。」

芳雄:「そう。政美の身体に貼り付いて試すんだ。」

良晴:「今の、聞いてたか?」

政美:「うん。聞いてた。」

良晴:「どう?やってみるか?」

政美:「・・・なんていうか・・・その・・・・身体に貼り付くって言うのは・・・
         は・・・裸になるの?」
 

電車の中、顔を赤らめながら政美が質問した。
 

芳雄:「裸になる必要はなくて、服を着たままでいいんだよ。
          スライム状になった良晴が自分で政美の身体に貼り付いて
          いけばいいんだからさ。服の中にだって入っていけるさ。」

政美:「でも、それって良晴に私の裸を見られているのと同じじゃない?」
 

政美が恥ずかしそうに芳雄に聞いている。
 

芳雄:「う〜ん・・・・そう言われればそうかもしれないけど、
         スライム状になった良晴の目には政美の身体は
         すごく近くからしか見えないからね。裸を見ているというよりは、
         人間の皮膚を見ているっていう感覚のほうがあってるかもしれないな。」

政美:「ふ〜ん。」

良晴:「それじゃあ政美の裸は見れないって事か?」

芳雄:「見れないんじゃなくて、見ているけど大きすぎて
          女性の裸だって感じはしないっていうことさ。」

良晴:「なんだ。つまらないな・・・」

政美:「そ、それならいいかも・・」

芳雄:「だろ。だったら早速試さないとな。」
 
 
 

・・・・ということで、3人は政美の家に着いた。
 
 

3人が2階にある政美の部屋に上がりこむ。
 

芳雄:「さてと、じゃあ早速試してみるか。政美、靴下だけ脱いでくれるか?
          やっぱり裸足の方がいいと思うから。」

政美:「うん。」
 

政美は白くて短い靴下を脱いで、良晴たちの前に立った。
 

政美:「これでいいの?」

芳雄:「ああ。それじゃあ良晴。このチップをおでこにつけてくれ。」

良晴:「ああ。」
 

良晴がおでこにチップをつける。しばらくすると、全身がけだるい感じがして、
身体の力が一気に抜けていくのを感じた。
 

良晴:「な、なんか身体に力が入らない・・・」
 

そう言うと、その場にへたり込んでしまった。
 

芳雄:「もう変化し始めてるぜ。手を見てみろよ。」
 

良晴がゆっくりと視線を落とすと、肌色だった手がだんだんと透明色になり
指の形が崩れていくのが分かる。
 

良晴:「わっ!わわわ・・・」

芳雄:「大丈夫だって。俺を信じろよ。」

良晴:「そんなこと・・・言った・・・・・って・・・」
 

身体が全然言う事を聞かない。
 

政美:「ちょ、ちょっと!大丈夫なの?」

芳雄:「大丈夫だって。」
 

良晴はぺたんと絨毯に寝転んでしまった。
もうしゃべれないようだ。
その身体が徐々に透明色になり、形を崩していく。
 

政美:「う・・・うそ・・・・」
 

良晴の着ていた制服がだんだんと萎(しお)れ始め、ついにはぺちゃんこになってしまう。
そして、そこにはドロドロとした透明の非常に柔らかいゴム状の液体が広がっていた。
 

政美:「よ・・・芳雄・・・・良晴・・・・ほ・・・ほんとに大丈夫なの・・・・」

芳雄:「ああ。準備完了だな。おい良晴。俺が分かるなら何かしろよ。」
 

すると、その透明のドロドロとした液体・・・・スライムの一部分が、
「OK」という文字を描いたのである。
ちゃんと意識はあるようだ。
 

芳雄:「よしよし。じゃあ、あとはさっき言ったとおりだ。政美、おとなしくしてろよ。」

政美:「う、うん・・・・なんか良晴、人間じゃないよね。」

芳雄:「・・・・そうだな。」
 

スライム状になった良晴が、ゆっくりと絨毯を移動して政美の足元に迫る。
 

政美:「何か嫌な感じ・・・・」
 

そう言いながら、近づいてくるスライム状の良晴を眺めていた・・・・
 
 
 
 
 
 

政美が仕返ししたいのは・・・(第2話)・・・・・おわり
 
 
 
 
 

あとがき

こんな感じです、「細胞均一化チップ」って。
身体の中に入るんじゃなくて、外を覆うんです。そこが「皮」っぽいでしょ!

しかし、人間が目の前でドロドロになるところなんか見てしまうと、
私は気絶してしまいます(笑)。
まったく無茶苦茶な事をするものです。

次回は政美の身体を覆う(貼り付く)良晴のお話です。

良晴、人間やめちゃいましたね(笑)
私の妄想の世界なので、何でもありなんですよ。
フィクションです。フィクション!
 

それでは最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとう。

Tiraでした。 inserted by FC2 system