あらすじ

麻子は中学3年生。
大学生の典江が家庭教師として麻子の勉強をみている。
センター試験を受けて、志望校には無理だと分かった麻子だが、
それでも受験したいといい、まずはすべり止めの高校を受験した。
しかし、どの高校も受かる事が出来ない。
そんな麻子は、自分の代わりに典江に受験してほしいと言い出した。
麻子は不思議な玉を持っていて、それを使えば身体を入れ替えられるという。
半信半疑だったが、麻子の言うとおりに儀式を行うと、本当に身体が入替わってしまった。
典江は驚きながらも麻子が望むとおり、身体入れ替えて受験に望むのである。
そのころ、典江の身体になった麻子は、お腹がすいたと言ってガラス張りの
喫茶店に朝食を取りに入ったのだった。
 
 
 

受験は任せたからね!(後編)
 
 

喫茶店に入った典江(麻子)は、コツコツとハイヒールを鳴らしながら
カウンターに歩いていく。
カウンターでは、数人の店員が客の対応をしている。
その中にいる一人の若い男性が典江(麻子)の注文を受けた。
 

店員:「いらっしゃいませ。」

典江(麻子):「トーストとホットコーヒーを。」
 

典江(麻子)は、ちょっと気取って注文をした。
 

店員:「はい。少々お待ちください。」
 

紙に注文を書いた店員は、カウンター後ろにある厨房の人にその紙を渡していた。
 

店員:「すぐにお持ちしますので、椅子にお座りになってお待ちください。」

典江(麻子):「ええ。」
 

そう答えると、典江(麻子)はガラス張りになって外がよく見えるテーブルの椅子に腰掛けた。
ガラスの前に長いテーブルが1列並んでいる。
ちょうどカウンターのようになっていて、椅子がずらりと並べられている。
目の前の慌しい外の景色を見ながら食べる事になる。
麻子は一度こういう雰囲気で食べてみたかったのだ。
いつもは中学の友達とわいわい言いながらテーブルを囲んで食べている。
周りからはコギャルが騒ぎながらファーストフードを食べているのだという雰囲気にしか見えない。
なんと言っても、まだ「子供」だ。
そんな麻子は、一度ゆっくりと一人で喫茶店に入って食事をしたかったのだ。
それも「大人の女」をイメージして。
今はそれを実現できる。
麻子はうれしくて、ついニヤけてしまいそうになるところをグッと我慢し、「大人の女」を演じていた。
椅子に座った典江(麻子)はテーブルに肘をつき、手のひらに顎(あご)を乗せながら外の景色を
見ていた。
ちょうど目の前が交差点になっているので、多くの人が横断歩道を行き来しているのが見える。
信号に従って立ち止まり、歩いている。
そんな人たちをじっと見つめていた。
 

典江(麻子):「外から見たら私ってどんな風に見えてるんだろう。やっぱりお姉さんって感じで見えてるのかな。」
 

ガラスに薄く反射している典江の顔を見る。
やっぱり綺麗な顔をしているのが分かる。
それに、何人もの男性がガラス越しにこっちを見ながら歩いているのも見える。
 

典江(麻子):「学校の友達にこの姿を見せたいなあ。きっとビックリすると思うのに。」
 

そんな事を思いながら、ボーっと外を見ていると、さっきの店員がトーストとホットコーヒーを持って現れた。
 

店員:「お待たせしました。ホットコーヒーとトーストでございます。」

典江(麻子):「ああ、ありがとう。」
 

店員の顔を横目で見ながら、目の前に置かれたホットコーヒーを見た。
コースターの横には、砂糖とミルクが置かれている。
 

店員:「それではごゆっくりと。」
 

そう言うと、店員はカウンターに戻っていった。
 

典江(麻子):「あの店員さんも、私のこの姿を見てドキドキしてたのかなあ。」
 

頭の中で色々なシーンがイメージされる。

私が誘ったら、即OKするのかな・・・

目を閉じて唇を近づけたらキスしてくるのかな・・・

もし彼女がいて、私がその人と別れてって言ったら別れるのかな・・・

そう思えるほど、典江は「美人」なのだ。
 

典江(麻子):「へへっ。典江さんだったらコーヒーにミルクも砂糖も入れないかな。」
 

どうしても大人の雰囲気を漂わせたい麻子は、いつもはミルクも砂糖もたっぷり入れて飲む
コーヒーを、ブラックのまま飲む事にした。
コップを右手で持ち、小指はピンと立てる。
そして、流し目をしながら一口すすってみた。

音を立てないように・・・
 

典江(麻子):「うわっ。苦っ。」
 

思わず吹き出してしまいそうだ。
ブラックコーヒーの苦さに耐えかねた麻子は、周りの目を気にしながらミルクと砂糖を入れた。
スプーンでかき混ぜる。やっぱり小指は立てたまま。
 

典江(麻子):「これでよし。」
 

一口飲んで、口の中の苦味を消した麻子は、小麦色にカリッと表面が焼かれているトーストを
手に取った。
いつもは大きな口を開けてガブリと食べる麻子だが、このときばかりは小さく一口づつかじって食べる。
トーストをかじったところに淡いピンクの口紅が少しついている。
こんな事は経験したことが無い。
その口紅を見ただけでも麻子は興奮してしまった。
 

典江(麻子):「口紅だ・・・やっぱり大人の女よねぇ。」
 

そう言いながら、麻子は足を組んでみた。
右足の太ももの上に左足の太ももを乗せる。
タイトスカートがきつい。
でも、なんとか足を組む事が出来た。
その姿勢は「綺麗なお姉さん」そのものだ。

その仕草をガラスの向こうで見ていた男性がゴクリと唾を飲み込む。
不意に目が会ったその男性に、典江(麻子)は軽くウィンクして見せた。
男性がサッと目をそらして恥ずかしそうに歩いて行ってしまう。
 

典江(麻子):「ははっ、かわいい〜。」
 

麻子は、男性のその態度にうれしくなる。
だって今まで男性が麻子を見て、そんな態度をとった事が無いのだから。
つくづく美人は得だと思った。
 

典江(麻子):「さあ、早く食べよっと。」
 

そう言うと、足を組んだままトーストを食べ始めた。
たまにコーヒーを飲む。

ガラスの外では、何人もの男性が典江(麻子)の足を見ながら歩いている。
タイトスカートの奥が見えそうで見えない。
そんな視線を感じながら、典江(麻子)は朝食を取り終えた。
 

典江(麻子):「あ〜、おいしかった。でも口紅が取れちゃったかな。」
 

カバンの中からコンパクトを取り出してフタを開け、顔を映してみる。
やはりそこには典江の美しい顔があった。
 

典江(麻子):「いいよねぇ・・・私もずっとこんな顔になりたいなぁ。」
 

そう思いながら唇を見てみた。
少し口紅が取れかかっている。
麻子は口紅なんて塗った事が無かったが、冬になると唇がカサカサになるので
リップクリームは塗った事があった。
その経験を生かして口紅を塗ってみる事にした。
口紅のフタを取り、くるくるとねじる。
中から、ベースは赤で、少しピンク色をした口紅が出てくる。
 

典江(麻子):「ちょっと塗ってみよっかな。」
 

左手にコンパクト、右手に口紅を持って、鏡を見ながら口紅を唇に当てる。
やさしく塗りこむと、鮮やかな口紅の色がよみがえる。
 

典江(麻子):「ふふっ、結構いい感じだわ。」
 

綺麗に塗り終えた典江(麻子)は、テレビのドラマでよくやっている、紙を咥えて
余分な口紅をとる事をやってみた。
カバンの中から薄い紙を取り出し、半分に折ったあと、口に咥える。
そして口から離すと、紙には典江さんの唇の型がついていた。
 

典江(麻子):「これでOK!」
 

紙を何度か折って小さくした典江(麻子)は、カバンにコンタクトと口紅を閉まった後、
伝票を持って席を立ち、レジへと歩いた。
 

店員:「ありがとうございました。」
 

店員に伝票を渡す。
 

店員はレジに注文を打ち込んだ後、典江(麻子)に値段を言った。
 

店員:「550円になります。」

典江(麻子):「はい。」
 

典江(麻子)は、カバンから財布を取り出し、550円を支払った。
 

店員:「ありがとうございました。またお越しください。」
 

店員が頭を下げたあと、典江(麻子)は喫茶店を後にした。
 

典江(麻子):「まだ時間があるけど、これからどうしようかな・・・」
 

とりあえずやる事が無いので、繁華街を歩くこうと思った。
 

そのころ、麻子(典江)は・・・
 
 
 

試験が始まる前に、受験票の写真と本人が同じかを確認するため、
試験官3人が一人ずつチェックする。
もちろん麻子(典江)のところにも試験官がチェックしに来た。
麻子(典江)は、緊張したおもむきで試験官に顔を見せる。
試験官は受験票の写真と確認したあと、何も言わずにその場を去った。
 

麻子(典江):「よかったわ・・・」
 

ほっとした麻子(典江)は、手のひらの汗がにじんでいるのを感じた。
問題を解く事よりも緊張していたようだ。

全員の確認が終わった後、試験官が時間配分を説明する。
そして、

試験官:「それでは問題を表に向けて開始してください。」

と、合図をした。受講生は一斉に問題を表に返して解き始める。
麻子(典江)も同じく、名前をかいた後に問題を解き始めた。
 

麻子(典江):「今までとちょっと違う問題だわ・・・」
 

試験の傾向が代わっていた事に少々驚いたが、出来る問題から解く事にした。
と言っても、典江のレベルからすればこのくらいは別段難しい事は無い。
スラスラと問題を解き終わり、見直しをしてもまだ30分しか経っていなかった。
 

麻子(典江):「ちょっと早く解きすぎたかしら。でもこれ以上遅くするのって、答えに迷いが出るからなぁ。」
 

まだ1時間ある。
麻子(典江)は解答用紙を裏返し、その上に腕を置いて顔を乗せた。

麻子(典江):「ちょっとだけ寝ちゃおっかな。」

余裕の麻子(典江)は、時間がくるまで寝て待つことにした・・・・
 
 

一方、典江(麻子)は・・・・
 
 
 

繁華街をブラブラと歩いていた。
平日ということもあって、スーツを来たビジネスマンとおじさん、おばさんが多かったが、それ以外にも
若い男性が何人もいる。
時間を持て余しているのか、遊び歩いているのか・・・・

よく分からないが、典江(麻子)が歩いていると、何人もの若い男性が声をかけてくる。
 

「ねえ、姉ちゃん。綺麗だよ。俺とお茶しない?」

典江(麻子):「いいえ、また今度ね。」

「なあ、姉ちゃんよぉ。スタイルいいじゃんか。俺と遊ぼうぜ。」

典江(麻子):「いや。ほかの人あたって。」

「すいません。僕と話をしてもらえませんか?」

典江(麻子):「だめっ!」

ほんの10メートル歩くたびに声をかけられる。
 

典江(麻子):「うらやましいけど、美人ってのも大変よねえ。こんなに声をかけられるなんて。
                    典江さんはいつもどうやって歩いてるんだろ。」
 

あまりに声をかけられるので、ちょっと嫌になった典江(麻子)は、デパートの中に入る事にした。
ちょうど開店したばかりで、従業員がドアの前に並んで挨拶をしている。
典江(麻子)はちょっと恥ずかしいと感じなら、その列を通った。
 

典江(麻子):「洋服でも見ようかな・・・」
 

特にする事も無い典江(麻子)は、婦人服売り場に向かった。
売り場は既に春物の服が陳列されている。
 

典江(麻子):「パステルカラーの服が多いなぁ。」
 

その中で、かわいい花柄のワンピースが目につく。
 

典江(麻子):「あ、これかわいい!」
 

思わず手にとって鏡の前であわせてみる。
典江の身体には少し子供っぽいか・・・
でも、おかしくは無い。
 

典江(麻子):「ちょっと試着してみようかな。」
 

典江(麻子)は、花柄のワンピースを持って試着室に向かった。
試着室の前でブーツを脱ぎ、中に入る。
カーテンを閉めて、ワンピースのかかっているハンガーをカーテンのレースに引っ掛ける。
そして、コートを脱いだ典江(麻子)は、スーツ姿の典江の身体を鏡に映したのた。
 

典江(麻子):「ごめんね、典江さん。ちょっと身体見せてもらうから。」
 

そう言うと、スーツを脱いでブラウス姿になった。
その姿はとても大人っぽい。
なんとなく、やり手のOLに見える。

そのあと、タイトスカートの横に付いているホックを外し、ファスナーをゆっくりと下げた。
ジーッという小さな音を立てながらファスナーが下りてゆく。
最後まで下ろしたあと、身体をかがめながら両手でタイトスカートを床に下ろし、片足ずつスカートから足を抜く。
その姿を、鏡を通して見てみる。
いかにも女らしいその仕草・・・・
麻子はその雰囲気に酔いしれた。
 

典江(麻子):「すごい・・・私ってすごくセクシーだわ。」
 

他人の身体であることを忘れたのか・・・・
典江(麻子)は、ブラウスのボタンを一つずつ外し始めた。
少し恥ずかしそうにこちらを見ている典江。
最後のボタンを外し終えると、肩にかかっているブラウスをはらりと外し、そのまま手を抜いて床に落とした。
白いブラジャーを付け、パンストを履いている典江の身体がそこにある。
それにしても見事なプロポーションだ。
胸の位置といい、腰のくびれといい、ヒップの形といい・・・
お腹もぺっちゃんこで、麻子みたいに膨れていない。
それに、妙に足が長く感じる。太ももが細いせいか・・・

しばし見とれた典江(麻子)は、その形の良い胸に手を当ててみた。
ブラジャーの向こうに、弾力のある大きな胸がある。
 

典江(麻子):「私の胸より柔らかい・・・」
 

鏡を見ると、典江が自分の胸を揉んでいる。
 

典江(麻子):「典江さんってこんな風にエッチするのかな。」
 

ちょっと感じた様な顔を作ってみる。
 

典江(麻子):「・・・・セクシー・・・大人ってこんな顔するんだ・・」
 

そう思ったあと、自分がしている事に気付いた。
 

典江(麻子):「わ、私ったら典江さんの身体でなにやってるんだろ。典江さんの怒られちゃうよ。」
 

慌てて胸から手を離す。
そして、ハンガーにかけてあったワンピースを着てみる事にした。
両足を通して上半身まで上げて、肩紐をかける。
後ろに手を回し、ファスナーを上げて完成。
 

典江(麻子):「ふふっ。かわいい・・・」
 

両手を頭の後ろに回してポーズをとる。
後は腰に手を当てたり、しゃがんで笑ってみたいり・・・

色々な「典江」を表現してみた。

麻子は楽しくなって、ほかにもたくさんの洋服を試着した。
それはまるで典江の身体を着せ替え人形と勘違いしているように。
デパートの店員は、何度も試着を繰り返す典江の姿を不思議そうに見ていた・・・・
 

そして・・・・
 
 

タンタランタタンタランタ・・・・
 

典江(麻子)のカバンに入れてある携帯に電話がかかった。
 

典江(麻子)は、携帯を手にとり、誰からかかって来たのか確かめた。

典江(麻子):「典江さんだ。」

自分の携帯からかかってきた事を確認した典江(麻子)は、とりあえず電話に出た。

典江(麻子):「もしもし。」

麻子(典江):「もしもし。麻子ちゃん。」

典江(麻子):「はい。典江さん?」

麻子(典江):「そうよ。あなた、自分の声も忘れちゃったの?」

典江(麻子):「そんな事ないけど。いつも聞いている声となんか違う感じだから。」

麻子(典江):「そりゃ、いつも自分が聞いている声と録音した声じゃ、聞こえ方が違うのと同じでしょ。」

典江(麻子):「そっか。」

麻子(典江):「それよりもう試験終わったよ。」

典江(麻子):「えっ。もう終わったの?」

麻子(典江):「もう終わったのって・・・今2時30分だよ。」

典江(麻子):「う、うそっ!」

急いで腕時計を見てみる。確かに2時30分だ。

典江(麻子):「ほ、ほんとだ。いつの間にこんなに経っちゃったんだろう。」

麻子(典江):「いいから早く元に戻りましょうよ。」

典江(麻子):「うん、分かったよ。じゃあ私の家に来て。」

麻子(典江):「分かったわ。私のほうが早いと思うから、先に行って待ってるよ。」

典江(麻子):「うん。すぐに帰るから。」
 

そう言って電話を切った。
まさか、何時間も試着を繰り返していたなんて。
自分でも呆れながらスーツとコートを着て、試着室を出た。

「ありがとうございました。」

店員がいやみとも取れる挨拶を典江(麻子)に言う。
そりゃ、何時間も試着して、結局1着も買わないんだから・・・・
しかし、そんな事はお構いなしに、典江(麻子)はデパートを後にした。
 
 

20分後・・・・
 
 

二人が麻子の家に到着した。
ちょうど麻子(典江)が玄関を開けようとしていたところに典江(麻子)が帰ってきたのだ。
 

典江(麻子):「どうだった、試験の方は?」

麻子(典江):「多分大丈夫。問題は少し違ってたけどね。」

典江(麻子):「そう、よかったぁ。」

麻子(典江):「はやくお母さんに報告しないと。」

典江(麻子):「うんっ!」

麻子(典江):「試験は大丈夫だったって言っていいよ。」

典江(麻子):「どのくらいの確立なの?」

麻子(典江):「ほぼ100%と思っていいわ。」

典江(麻子):「すごいじゃない、典江さん。さすが大学生。頭のよさが違うよね。」

麻子(典江):「もう、そんなに誉めたってだめよ。これからはあなた自身が頑張らなくちゃならないんだから。」

典江(麻子):「わかってるよ。じゃ、私の部屋で元に戻りましょ。」

麻子(典江):「ええ。」
 

二人は母親に気付かれないように玄関のドアを開け、麻子の部屋に入った。
そして、身体を元のとおりに入れ替えた。
 

麻子:「お母さんに報告してくるよ。」

典江:「ええ。早く言ってきなさい。」

麻子:「うん!」
 

麻子はうれしそうに母親に伝えに言った。
だが、典江には少し不安が残っていた。

典江:「試験は大丈夫なんだけど・・・心配しすぎかなあ・・・・」

しかし、典江の心配事は的中してしまったのだ・・・・
 
 

試験から数日後、麻子の家に一本の電話がかかってきた。
 

母親:「はい。そうですが・・・えっ!もう一度ですか。はい・・・はい・・・・わ、わかりました。すぐに連れて行きます。」
 

電話を切った母親は、急いで麻子に伝えた。
 

母親:「麻子。今からすぐに高校へ行くわよ。」

麻子:「今から?どうしてなの。」

母親:「何でももう一度確かめたい事があるって言ってたよ。」

麻子:「確かめたい事?」

母親:「ええ。詳しい事は言わなかったから分からないけど、とりあえず急いで高校へ行きましょう。」

麻子:「お母さんも行くの?」

母親:「だって一緒に来るように言われたから。」

麻子:「そうなの・・・・」

何の事だか分からないまま、二人は高校に行った・・・
 
 
 

教員:「麻子さんと、お母さんですか。」

母親:「はい、そうです。」

教員:「実は、ちょっと見てもらいたいものがあるんです。」

母親:「はあ。」

教員は、受験票と解答用紙を目の前に出した。

母親:「これは・・・」

教員:「先日行った試験の解答用紙と受験票です。」

母親:「これが何か?」

教員:「よく見てください。あまりにも字が違いすぎませんか?」

母親:「そ、そう言えば・・・・」
 

麻子の心臓は飛び出しそうなほどドキドキしていた。
麻子と典江の筆跡が明らかに違うのだ。
 

教員:「麻子さん。この解答用紙はあなたが書いたんですか?」
 

麻子:「は・・・はい・・・」

教員:「それにしても名前のところは明らかに字が違いますよね。これはわざとこうやって字を書いたんですか。」

麻子:「はい・・・き、緊張しちゃって・・・」

教員:「そうですか。それならいいんですけど。」

麻子:「そ、そうですか・・・・」
 

額に冷や汗を掻きながら麻子が答えた。
 

教員:「でも、一度解いた問題ならもう一度解けますよね。」
 

手に汗がにじんでくる。
 

麻子:「も、もう一度・・・」

教員:「この回答は100点でした。相当勉強したようですね。なら、同じ問題だからすぐに解けるはず。
          だって、30分もしないうちに解いて、机に伏せて寝てたって試験官が言ってましたから。」

麻子:「・・・・・」
 

額の汗が頬を伝って流れ始める。
 

母親:「ひゃ、100点ですか。すごいじゃない麻子。あんたもやれば出来るんだねぇ。」

うれしそうに母親が話している。
 

教員:「ここに問題用紙があります。今、私達の前で解いてみてください。いや、2、3問で結構ですから。」
 

封筒から問題用紙を取り出した教員は、麻子の前に鉛筆とともに置いた。

麻子:「あ・・・あの・・・・・」

頭の中が真っ白になる。
こんな問題、解けるわけが無い。
 

母親:「同じ問題なんでしょ。すぐに出来るわよね。」

教員:「何だったら私は部屋から出ましょうか。10分経ったら戻りますから。」

麻子:「そ、そうしてもらえますか。」
 

クラクラする頭で精一杯の会話をした。
 

教員が答えの書いている解答用紙を持って部屋を出る。

しんと静まり返った部屋で、麻子が話を始めた。
 

麻子:「お母さん・・・・」

母親:「何?」

麻子:「私、この問題解けないんだ。」

母親:「えっ。」

麻子:「この問題、始めて見るの。」

母親:「初めてって・・・この前の試験問題じゃないの?」

麻子:「ううん。試験問題だと思うよ。」

母親:「だったらどうして?」

麻子:「だって私が受けたんじゃないもん。」

母親:「・・・・・どういう事?」

麻子:「典江さんが・・・典江さんが受験したんだ。」
 

麻子の目にぶわっと涙が溢れ、一気に頬に流れる。
 

母親:「典江さんが・・・でも、あなたが受験したんじゃないの?」

麻子:「グスッ・・・身体は私、中身は典江さん。」

母親:「ええっ?」

麻子:「実は・・・・」
 

麻子は泣きながらこれまでの出来事を母親に話した。
 

母親:「・・・信じられないわ。」

麻子:「そうだと思うけど・・・・本当なの。だから私の実力で問題を解いたわけじゃないの。」

母親:「もしそれが本当なら、不正をしたっていうこと・・・」

麻子:「・・・うん。」

母親:「あなたはそれで受かっても良かったの?」

麻子:「よ、よくは無いけど。でも・・・お母さんの悲しむ顔も見たくなかったし、典江さんがせっかく教えてくれてたのに
          私の努力が足りない事で不合格になるのも申し訳なかったし。」

母親:「でも、やっていい事と悪い事があるでしょ。」

麻子:「うん。分かってる。私、もうこの高校には入らない。もう一度ちゃんと勉強して、自分の力で合格するよ。」

母親:「・・・・本気で勉強する?」

麻子:「うん。もう一度やり直すよ。だからさっきの先生にもきちんと話すから。」

母親:「大変よ。一年遅れるのは。」

麻子:「うん。でも一年も時間があるから。私でも頑張れば何とかなるよ。」

母親:「そう・・・・」
 

母親は麻子の真剣な言葉にニコリと微笑んだ。
 

母親:「いいわ。私がこの問題解いてあげるから、麻子ちゃんが解答用紙に書きなさい。」

麻子:「・・・・えっ!?」

母親:「私は一度この問題を解いているからすぐに解けるの。」

麻子:「ど、どういう事?」

母親:「こうなる事は予想していたの。だから・・・・あなたのお母さんと入替わったのよ。」

麻子:「お母さんと?」

母親:「ええ。麻子ちゃんの家で。お母さんにあらかじめお話していたの。それでもし高校から電話があったら
          私に教えてほしいって。高校に着いてから、お母さん、トイレに言ったでしょ。あのときにこの玉で。」

麻子:「それは!」

母親が持っていたのは、麻子が机の引き出しに閉まっていた、あの入替わる事ができる綺麗な玉だった。

麻子:「じゃあお母さんは・・・典江さん!」

母親:「そう。典江よ。」

麻子:「典江さんっ!」

麻子は、母親と入替わった典江に抱きついた。

母親:「さっきの話、本当よね。」

麻子:「うん。一生懸命勉強するから。」

母親:「じゃあ、早くこの問題の解答を書いて。もうすぐさっきの先生が来るから。」

麻子:「分かった。」

母親:「できるだけ私が書いた字に似せて書いてよ。でないと、またおかしな話になるから。」

麻子:「うん。」
 

麻子は母親(典江)の言うとおりに解答を書いた。
全てを書き終った後、教員が部屋に入ってきた。
 

教員:「すごい・・・・これ、今、全部解いたんですか・・・」

麻子:「ええ、一度解いた問題ですから。」

麻子はうれしそうに母親の顔を見ながら答えた。
その向こうにいる典江に感謝しながら・・・・
 
 

そのころ、典江の身体になった母親は・・・・
 

典江(母親):「いいわあ。この身体・・・若いってすばらしいわねえ。」

トイレで典江の身体を堪能する母親であった・・・・
 
 
 
 
 
 

受験は任せたからね!(後編)・・・・終わり
 
 
 
 

あとがき

本当は不合格にするつもりでしたが、いつものように書いているうちに
話がずれて、結局合格する事になりました。
でも、その分、話が単調にならなかったから良かったと思っています。
典江さん、やさしいですよね。
それに頭も切れるし。
こんな女性に憧れますけど(笑)。

あと、一応エッチなしでまとまりました。
そっちの方向にも走りたかったですけど。
実は、頭の中ではこんな事を考えていました。

○典江の身体になった麻子が、街でナンパされて・・・・
○典江の彼から携帯に電話がかかってきて、典江のフリをした麻子が彼と・・・
○麻子の身体になった典江が、麻子の同級生と・・・

悶々として考えていましたが、今回はこれで終了ということで・・・・
久しぶりに一気に長い文章を書きました(自分なりに)。
 

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

Tiraより
 
 
 

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