今年も花粉症の季節がやってきた。
桜も綺麗に咲き乱れ、徐々に暖かい風が吹き始める。
それと同時に、花粉症の人たちは試練のときを迎え始める。
鼻水、鼻詰まりに目のかゆみ・・・・
ティッシュで鼻を拭きすぎて、鼻の先が赤くなっている人の多い事。
博和もそんな花粉症に悩んでいる一人だ。

4月になり、早々に内定を済ませていたソフト会社の門をくぐる。

博和:「グスグスッ・・・どうも鼻の調子がおかしいな。薬が切れたかな。
         しかし、とうとう俺も今日から社会人か。身を引き締めて頑張らないとな。志郎みたいに落ちこぼれないように・・・」

さわやかな風に心をときめかせ、鼻をグスグスと鳴らしながら博和が大きな人生の第1歩を踏み出した・・・
 
 
 
 
 

ソフト会社に行こう!
 
 
 

志郎:「飯まだぁ〜!」

母親:「何言ってんだい!みんなは今日から仕事を始めるっていうのに。あんたは何で家でゴロゴロしてるのさ。」

志郎:「だって就職先決まらなかったから。仕方ないだろ。」

母親:「よく言うよ。あれだけ大丈夫だから任せとけって言っといて・・・結局期待した私が馬鹿だったんだよ。」

志郎:「なんだよ、努力したんだからそんな事言わなくったっていいじゃないか!」

母親:「あんたの行動見ててもちっとも努力しているようには見えないんだけどね。」

志郎:「そ、そりゃ・・・か、影で努力してたんだよ。博和に聞いてみろよ。」

母親:「博和君ねぇ。あの子はちゃんと就職したから偉いよねえ。それに比べてあんたときたら。」

志郎:「い・・・言うんじゃなかった。」

母親:「はい、出来たよ。」

テーブルに昼食が並ぶ。

昨日の残り物が大半だが、志郎は好きな梅干があるから満足だ。
箸を手に取り手を合わす。


志郎:「いただきます。」

母親:「どうぞ。」

こんなところは礼儀正しい志郎。
最近「いただきます」が言えない子が増えているそうだ。
志郎は少しはまともかもしれない。


母親:「それであんた、これからどうするの?」

志郎:「就職先のことか?」

母親:「当たり前じゃない。ほかに何を聞いてほしいんだい。」

志郎:「・・・別に・・・」

梅干に顔を歪めながら志郎は答えた。


母親:「お母さんの知り合いが、人が足りないって言ってるんだけど、一度そこに話してみるかい?」

志郎:「どんな仕事?」

母親:「え〜と、確か工場で機械の組立てをやっているって言ってたけど。」

志郎:「機械の組み立て?」

母親:「そうだよ。なんでも大手の下請け会社らしいんだけど、中小企業にしては珍しく忙しいんだって。
        でも、中途半端に人を雇ってもすぐに辞められたら仕方ないだろ。だから母さんにだれかまじめな人が
        いないか相談された事があったんだよ。」

志郎:「へぇ。それって油まみれになったりするの?」

母親:「そりゃそうだよ。なんて言ってたかな・・・ほら、金属か鉄か知らないけど削って加工する機械。」

志郎:「旋盤の事?」

母親:「ああ、確かそんな名前だったよ。」

志郎:「俺、嫌だよ、そんな仕事。だって油まみれになるし力仕事だろ。俺の希望する仕事はそんなんじゃないんだよ。」

母親:「なに贅沢言ってるんだよ。あんたはちょっとくらいつらい仕事をしなきゃ甘えが治らないんだよっ。」

志郎:「別に甘えてるわけじゃないさ。ただ、人には向き不向きってもんがあるだろ。
        俺にとってその仕事は「不向き」なんだよ。」

母親:「よく言うよ、この子は。」

志郎:「俺はどっちかというと力仕事は苦手なんだよ。そんな仕事は親父に任せといたらいいんだ。」

母親:「それが甘えって言うんだよ。」

志郎:「まあ、これから色々考えるさ。中途採用している会社もあるし。」

母親:「ほんとに呑気(のんき)なんだから。」

志郎:「ゲップ!ああ、食った食った。ごちそう様。」

母親:「ちゃんと考えときなさいよ。」

志郎:「分かってるって。」

熱いお茶をすすった志郎は、2階にある自分の部屋に上がっていった。

母親:「就職するつもりがあるのかねえ・・・」

相変わらず心配をかけている志郎だった・・・
 
 

部屋に戻った志郎は、テレビのスイッチを入れてベットに寝転がる。
大学の仲間はみんな就職し、今日から新しい人生の一歩を踏み出している。
それに比べて俺は・・・

そんな気持ちが志郎を落ち込ませていた。
頭の中では分かっている。自分が甘えている事を。
そして、お袋にも悪いと思う。

でも、そんなに簡単に就職が決まる分けない事も知っている。

志郎:「どうすればいいんだろうか・・」
 

複雑な心境で、その後の数日間を過ごした・・・・
 
 
 

そして、1週間後・・・・
 
 

母親:「志郎っ!博和君から電話だよ。」

志郎:「博和から?」

内線で2階の電話に繋いでもらう。

志郎:「博和かっ!」

博和:「おう、志郎か。1週間ぶりだなあ。」

1週間しか経っていないのに、妙に懐かしい声に聞こえる。

志郎:「ああ、元気で仕事してるのか?」

博和:「まあな。お前、今、暇だろ!」

志郎:「ああ、何にもしてないんだ。」

博和:「だろうと思った。じゃ、久しぶりに今から会わないか?」

志郎:「お前は大丈夫なのか?仕事が忙しいんだろ。」

博和:「今日はもう終わったから。夕飯でも食いながら話そうぜ。」

志郎:「ああ、分かったよ。」

博和:「じゃあ近くのファミレスで待ち合わせしようか。」

志郎:「そうだな。すぐに行くよ。」

博和:「うん、じゃあ待ってるからさ。」

志郎:「ああ。」

ガチャンと電話を切った志郎は、急いで服を着替え始めた。
志郎は、就職した博和は忙しいだろうと思い、自分から電話するのは止めておこうと思っていたのだ。
だから博和から電話がかかってきて、とてもうれしかった。

志郎:「ちょっと博和と会ってくるよ。今日の晩飯いらないから。」

母親:「そう、色々と聞いておいで。就職ってどんなものか。」

志郎:「分かってるって!」

志郎はうれしそうに玄関の扉を出た。

10分もすると、博和と待ち合わせているファミレスに到着する。
自動ドアをくぐり、中の様子をうかがう。

博和:「お〜い、こっちこっち!」

店の奥でスーツ姿の博和が手を振っている。

志郎:「ようっ!」

サッと片手を挙げた志郎は、博和の座っているテーブルの椅子に腰掛けた。

志郎:「スーツ姿で仕事してるのか?」

博和:「まあな。始めのうちはとりあえずきちんとしとかないとな。
         先輩はもうラフな格好で来ている人もいるけどな。」

志郎:「へぇ、なんか社会人って感じがするな。」

博和:「そうかな。」

ウェイトレスに注文した二人は、また話を始める。

博和:「志郎はこれからどうするんだよ。」

志郎:「う〜ん、まだ分からないな。特に就職活動しているわけでもないんだ。
          大学も卒業したら遊びに行く気ないしさ。」

博和:「そうか。じゃあまだ全然就職先、決まってないんだ。」

志郎:「そう言うこと。そのうち中途採用している会社をあたるつもりだけどな。」

博和:「あんまり期待できそうに無いな。」

志郎:「仕方ないさ・・・」

博和:「志郎さぁ、まだ自分のやりたい仕事が決まってないんだろ。」

志郎:「まあな。」

博和:「それでいて、楽な仕事がしたいって事だろ。」

志郎:「そう言うこと。」

博和:「う〜ん。絶対難しいと思うけど。」

志郎:「分かってるさ、そんな事。」

注文した物がテーブルに並ぶ。
二人は箸を進めながら、更に話をした。

博和:「・・・・・」

志郎:「どうしたんだよ、黙り込んで。」

博和:「うん。」

志郎:「何かあったのか?」

博和:「いや、何も無いんだけどね。」

志郎:「ならどうして黙ってるんだよ。」

博和:「うん。実はさ、今日志郎と会ったのは、お前に俺が行っている会社の仕事が出来ないかと思ってさ。」

志郎:「お前の会社の?」

博和:「そう。一応デスクワークだけで、力仕事なんてほとんど無いし。」

志郎:「そりゃ無理だ。俺、コンピュータの事全然分からないし、プログラムなんて全く作れないからさ。」

博和:「俺の配属している部門はプログラミングばっかりさ。就職したばかりでも夜遅くまでやってるから。
        でも、別の部門なら何とかできるんじゃないかなって。」

志郎:「別の部門ってどんなところだよ。」

博和:「うちの会社はソフトを作る以外に、サーチエンジンを持っているんだ。」

志郎:「さーちえんじん?」

博和:「そう、志郎だって大学で使った事あるだろ。ほら、インターネットで情報を検索するときに使った
        ページだよ。」

志郎:「ああ、あれか。あのキーワードを入れると関連するページを探してくれるやつ。」

博和:「そうそう、あれだよ。」

志郎:「そのサーチエンジンってのが俺でもできる仕事なのか?」

博和:「パソコンが使えるんだったら大丈夫さ。どんな仕事が教えてやろうか。」

志郎:「ああ。」

博和:「うちのサーチエンジンは登録制なんだ。だから、ホームページを作った人がサーチエンジンに登録してくれって
        申し込んで来るんだよ。」

志郎:「ふんふん。」

博和:「申し込まれたページは、そのままサーチエンジンに登録するんじゃなくて、あらかじめそれがどんなページか
        確認して、問題の無いページだと分かれば登録するようにしてるんだ。」

志郎:「なるほどな。」

博和:「申し込まれたページを見て、登録しても問題ないかを調べる人たちだけでも10人いるんだ。」

志郎:「そんなにいるのか!」

博和:「毎日膨大な数のページが申し込みに来るからな。10人いたって追いついていないんだ。」

志郎:「すごいな・・・・」

博和:「でさっ!この仕事なら志郎でも出来るんじゃないかって思って。」

志郎:「それなら出来そうな気がするぜ。」

博和:「だろっ!会社の規約に違反していない事を確認したら、OKボタンを押せばいいんだ。
        すると、サーチエンジンに登録されて、相手にも「登録しました」ってメールが自動的に返信されるんだ。」

志郎:「いいよ、それ。かなり俺の希望を満たしているし。」

博和:「まだ中途採用とかはしてないけど、多分今の調子なら処理が追いつかなくて募集するはずさ。そのときに
        すぐ申し込めるように段取りしてやるよ。」

志郎:「そっか、助かるよ博和。」

博和:「なあに、そのくらい任せとけよ。志郎には今まで色々と世話になったからな。」

志郎:「そっかな。」

博和:「ああ、世話になってるよ。
        ところで志郎。最近は誰かに憑依したりしてるのか?」

志郎:「いいや、何かそんな気分になれなくてさ。前に親父が帰ってきたとき、看護婦に乗り移ったくらいかなあ。」

博和:「へえ、そっか。」

志郎:「でも、何でだよ。」

博和:「あのさっ、俺が言った仕事がどんなものか体験しとかなくてもいいか。」

志郎:「まあ、今聞いた話なら特に大丈夫だと思うけどな。だって、ページを見てOKボタンを押すだけだろ。
        それに、研修期間なんてものもあるんじゃないの?」

博和:「あるにはあるけどさ。会社としても、1日でも早く実践で活躍してくれるほうが助かるだろ。」

志郎:「そりゃそうだろうけど。」

博和:「だったらさ、明日にでも一度どんな仕事か体験しに来いよ。」

志郎:「いいのか、そんなことしても。」

博和:「言いに決まってるさ。」

志郎:「そっか。だったら行ってみようか。」

博和:「そうしろよ、でも、お前の身体はいらないからな。」

志郎:「はぁ?」

博和:「お前がいきなり会社に来ても誰も相手してくれないだろ。」

志郎:「だからお前が相手してくれるんだろ?」

博和:「そんな事出来るわけ無いじゃないか。俺だって仕事をやらなけりゃならないし。
        多少の時間は一緒にいられるけど、一日中ってのは当然無理だよな。」

志郎:「だったらどうしろって言うんだ。」

博和:「だからさ、お前が幽体離脱して担当の人に乗り移るんだよ。」

志郎:「またか・・・」

博和:「その方が手っ取り早いだろ。この前、様子を見てたんだけど、みんなもくもくとパソコンに向かって
        仕事してるんだ。だから周りからそんなに話し掛けられることもないしさ。」

志郎:「で、誰に乗り移れって。」

博和:「へへっ。あのさっ、10人の中に女性が7人もいるんだよ。その中に飛び切り綺麗な人がいてさ。」

志郎:「やっぱりそうきたか。」

博和:「その人、木下 有紗(ありさ)って名前なんだ。歳は24歳、独身さ。」

志郎:「よく調べたな。」

博和:「そんなの俺の腕を以(も)ってすれば簡単さ。」

志郎:「その有紗さんと話がしたいってか。」

博和:「ご名答!志郎が有紗さんに乗り移ってくれれば俺も彼女と話が出来るし。」

志郎:「それは俺と話をしてるだけじゃないか。」

博和:「それでもいいのさ。俺はそんな男だ。」

志郎:「まったく・・・・」

博和:「いいじゃないか。俺もお前も目的を満たす事が出来るんだぜ。」

志郎:「まあな。」

博和:「だったら決まりさっ。俺の名詞渡しておくよ。その住所ならすぐに分かるだろ。」

志郎は博和から名詞を受け取った。
たしかにこの住所ならよく知っている。

志郎:「知ってるよ、ここ。」

博和:「そうか。じゃあ明日の9時30分に会社のロビーで落ち合おう。」

志郎:「お前は俺をどうやって見つけるんだよ。俺だって有紗さん知らないからすぐに乗り移れないし。」

博和:「適当な人に乗り移って俺に話し掛けてくれよ。ただし、前みたいに騙しは無しな。」

志郎: 「人事だと思ってるだろ。」

博和:「まあまあ、それより頼んだぜ。」

志郎:「分かったよ。じゃ、明日9時30分に会社のロビーな。1階にあるんだろ。」

博和:「そうそう、1階のロビーだ。広いからな。受付のあたりにいるよ。」

志郎:「よし。久しぶりにやるかっ!」

博和:「おう、よろしくなっ!」

志郎は、うれしそうな顔をしている博和を見ながら、とうとう就職先が決まるかもしれないという期待感に
胸を膨らませていた・・・・
 
 
 
 

そして次の日・・・

志郎はいつもより早く朝飯を済ませた。

裕香:「どうしたの、お兄ちゃん。今日はやけに早いじゃない。」

志郎:「別に。」

裕香:「なんか企んでるんじゃない?昨日、博和君と会ったんでしょ。お母さんから聞いたよ。」

志郎:「うっ・・・・会っただけじゃないか。」

裕香:「ふーん。なんか言葉が詰まってたようだけどね。」

志郎:「からかなよ。腹が減ったから早く飯を食っただけさ。また寝てくる。」

裕香:「また寝るの〜っ。」

志郎:「お前に迷惑かけてるわけじゃないだろ。」

裕香:「そんな事ないよ。だって友達がお兄ちゃん就職しないでゴロゴロしてるって言ってるんだから。
        うらやましいだのプータローって楽しいか聞いてきてだの・・・結構迷惑してるのよ。」

志郎:「そんな風に言われてたのか・・・初めて知った・・・」

裕香:「そりゃあ今まで話してなかっただけだよ。」

志郎:「そうか・・・」

裕香:「早く就職してよ。でないと、いつまでも友達に言われるんだから。」

志郎:「分かってるって。」

頭をボリボリかきながら、2階に上がる。

裕香:「分かってるのかしら。」

母親:「分かってないんじゃない?」

裕香:「そうよねぇ。」

二人は呆れた顔をしながらテレビを見ていた。
 

志郎:「さあて、久しぶりにやってやるか・・・・」

ベッドで横になった志郎は、両手を頭の後ろに置いて楽な姿勢をとった。
そして、ゆっくりと目を閉じた・・・・
深い眠りにつき始める。

10分ほどしただろうか。

志郎の幽体が身体から抜け出し、宙にふわふわと飛び始めた。

志郎:「よし、準備完了だ。」

そう言うと、志郎は壁をすり抜けて家の外へ出た・・・
 
 
 

9時20分・・・・
 
 
 

博和は早めに会社の1階ロビーに来ていた。
誰に乗り移っているのか、博和には検討がつかない。
しかし、はっきりと分かっているのは、女性にしか乗り移らないということだ。
それにおばさんには乗り移らないだろう。
ということは、若い女性に限定されるのだ。

目をキョロキョロさせながら周りにいる若い女性を見る。

すると・・・
 

「博和君。」

後ろから女性に声をかけられた。
博和が振り向くと、そこには同僚の小夜子(さよこ)が立っている。
淡いピンクのスーツにタイトスカートを穿いている彼女は、博和が入社して最初に声をかけた女性だった。
今時の茶髪にピアスをしている彼女だが、博和から見てそれほど嫌ではなかった。
顔は綺麗な方かな。
 

博和:「あ、小夜子。おはよう。」

小夜子:「博和君。こんなところで何してるの?」

博和:「ああ、ちょっと連れを待ってるんだ。・・・・・んっ?おまえ、もしかして志郎か?」

小夜子:「えっ?志郎?志郎って誰?」

博和:「はははっ!俺を騙そうとしたって無駄だよ。もう分かってるんだから。」

小夜子:「えっ?な、何の事なの?」

博和:「おまえ、志郎なんだろ。」

小夜子は不思議そうに博和の顔を見ている。
何を言い出したのか分からないと言った顔。

小夜子:「だから志郎って誰なのよ。何言ってるのかさっぱりわかんないよ。」

博和:「そうやってわざと小夜子の真似をしてるだけだろ。もういいんじゃないのか。」

小夜子:「誰が真似してるっていうの!私は小夜子よっ!」

少々怒った顔をしている。
二人の会話は全く成り立っていない。

博和:「またまたぁ。俺は何度も騙されないぞ。」

小夜子:「博和君。ちょっとおかしいんじゃないの?」

博和:「だから。もう言いって。」
 

そのとき、ロビーにある受付嬢が博和に声をかけた。
 

受付嬢:「あの、博和さんですか?博和さんにお客さんが来られていますが。」

博和:「えっ!? 俺に?  じゃあ、目の前にいる小夜子は・・・・」

小夜子:「ふんっ!訳わかんないわっ。」

小夜子は鼻息を荒くしながら仕事場に戻っていった。

博和:「さ、小夜子ぉ〜。」

てっきり志郎が乗り移っていたものと思っていた博和は、小夜子に悪い事をしたと思った。

博和:「今度昼飯おごっとこっと。後は・・・」

受付嬢に声をかけられていた事を思い出した博和は、受付のテーブルの前まで歩いていった。

博和:「あの、僕にお客さんが来ているって。どこにいるの?」

受付嬢:「はい。ここにいます。」

受付嬢がニヤリと笑う。

博和:「まさかっ!」

受付嬢:「見せてもらったぜ。かわいそうに。あの子、小夜子って言うのか。」

受付嬢とは思えない汚い言葉づかい。

博和:「お前が志郎かっ。」

受付嬢:「ああ。お前の会社の受付嬢、すごく綺麗だよな。」

頬を擦りながら受付嬢が博和を見つめる。

博和:「そうだろ。もしかしたらその子に乗り移るかもしれないと思ってたんだけどな。先に小夜子が来たから
        てっきり志郎が乗り移ってると思ったよ。」

受付嬢:「俺が来たときに、あの子がちょうど博和の所に向かっていたのが見えたんだ。彼女に乗り移ろうと思ったけど
          もしかしたら何か用事があるかもしれないって思ってな。止めといたんだ。」

博和:「そうか・・・・」

受付嬢:「それにしてもこの受付嬢、ガードル締め過ぎだよ。お腹が苦しくて仕方がない。なんでここまでするかなあ。」

お腹を擦りながら受付嬢、いや、志郎が話す。

博和:「大変なんじゃない、女性は。特に受付嬢は会社の顔だから。」

受付嬢:「そんなもんかねぇ。」

志郎はしかめっ面をしているが、博和から見ればその受付嬢の顔は何ともかわいらしく見える。

博和:「いいねえ、その顔。」

受付嬢:「はぁ?」

博和:「綺麗な人は得だよ。どんな顔しても引きつけられる感じがするから。」

受付嬢:「へぇ〜。そんなもんか。」

博和:「そんなもんさ。さて、それじゃあそろそろ仕事場に行くかな。」

受付嬢:「ああ、そうしよう。でも、この子じゃちょっとまずいよなあ。
          まさか受付嬢がブラブラ持ち場を離れるわけには行かないだろ。」

博和:「そうだな。じゃあ小夜子に乗り移れよ。」

受付嬢:「小夜子?ああ、さっきお前が怒らせたあの子か。」

博和:「怒らせたは余分だろ。彼女は俺と同じ場所だから一緒にいても不思議じゃないしさ。」

受付嬢:「そうするか。」

博和:「ああ。とりあえず幽体になって俺の後について来てくれ。3階なんだ。」

受付嬢:「分かった。でも、階段使ってくれよ。」

博和:「いいけど。」

受付嬢:「じゃあこの子から出るよ。」

そう言うと、椅子に深く腰掛け、テーブルに腕をついた状態で目を瞑る。

博和:「・・・・」

受付嬢の身体の力が抜け、ガクッと俯く。
そのあと、すぐに目を覚ましてキョロキョロしている。

博和:「どうやら抜け出したようだな。じゃあ行こうか。」

博和は目に見えないが近くにいる志郎の幽体に向かって独り言のようにつぶやくと、階段を上がっていった。
 
 

3階に着いた博和は、しばらく廊下を歩いたあと、右側にある扉を開けて部屋の中に入った。

博和:「ここが俺の仕事場さ。」

部屋は、畳20畳くらいの大きさ。各テーブルはパーテーションで完全に区切られている。
わざと覗かないと、中の人が見えない。

博和:「えっと、小夜子のエリアは・・・あそこだ!ほらっ、窓際のパーテーションに熊のぬいぐるみが吊るしてあるところさ。」

博和が指差した先には、たしかに小さな熊のぬいぐるみが飾ってある。

博和:「あそこにいるはずだから。あとは頼んだぜ。」

一人でぶつぶつ言う博和。
周りから見れば変に思うだろう。
だれにも志郎は見えていないのだから。

そして、志郎は・・・

志郎:「じゃあ小夜子さんに乗り移るか。」

そう言って、ふわふわと部屋の中を飛んで移動した。
熊のぬいぐるみがあるパーテーションの上から中を覗いてみる。
すると、さっき会った小夜子がパソコンに向かって何やらキーボードを打っている。

志郎:「何してるんだろ。」

彼女の後ろに移動してディスプレイを見る。
どうやら誰かにメールを打っているようだ。

志郎:「これってメールだよな。」

内容を読んでみると、私用のようだ。彼氏でもいるのか・・・そんな内容だった。

志郎:「へへっ。ちょっと悪戯してやろうか。」

そう思った志郎は、小夜子の背中に幽体をゆっくりとめり込ませていった。

小夜子:「えっ!?な・・・なに?」

小夜子の身体がビクッと震え、キーボードを打つ手が止まる。
志郎はそのまま小夜子の身体に幽体を侵入させた。

小夜子:「うっ・・・ああ・・・・」

小夜子は目を見開いたまま苦しそうな顔をしている。
しかし、その顔はやがていやらしい笑顔に変化する。

小夜子:「・・・へへっ。さて、なんて打ってやろうか。」

目を光らせながら、小夜子はキーボードを打ち始めた。
それは先ほどまで打っていたスピードとは比べ物にならないほど・・・・遅い。
 

小夜子:「え〜っと、私の胸を、触ってほしいです。」

いきなりいやらしい文章を打ち始める。
しかも楽しそうに。
 

小夜子:「仕事をしていても、あなたの事を考えると下半身が疼くの。何とかして!」

そう打ち終えると、送信ボタンを押す。

小夜子:「へへっ。これで相手の男はどう思うかな。俺って悪い奴だよな。」

そう言いながら席を立つ。
そして、扉の前にいる博和の方に歩いていった。
 
 

小夜子:「ふふっ。お・ま・た・せ!」
 

小夜子が腰をくねらせながら博和の前に現れた。

博和:「遅かったじゃないか。」

小夜子:「ちょっとメールを打ってたんだ。悪戯しちゃったよ。俺って悪い奴だな。はははっ。」

小夜子の声で笑いながら、志郎は博和に言った。

博和:「・・・・・そうか。まあいいや。とりあえず目的の場所に行かないとな。」

小夜子:「ああ、そうしよう。」

二人はいったん部屋を出て、廊下の左にある扉を開けた。
この部屋はさっきの部屋よりもかなり広い。やはり各テーブルはパーテーションで区切られている。

博和:「ここが有紗さんのいる部屋なんだ。」

小夜子:「へえ。で、有紗さんは?」

博和:「一番奥のスペースだったはずなんだけどな。ちょっと見に行こうか。」

そう言って、小夜子(志郎)に前を歩かせた。

小夜子:「何で俺が前を歩くのさ。」

博和:「だってお前、こんな事してほしいんだろ。」

博和は小夜子(志郎)のタイトスカートをめくって中に手を入れ、股間を擦り始める。

小夜子:「あんっ!」

小夜子(志郎)は思わず声を出した。

博和:「下半身が疼くんだろ。触ってほしいって書いてたじゃないか。」

指を動かしながら博和が小夜子(志郎)に話す。

小夜子:「んっ・・・な、なんでメールの事を知ってるんだ?」

博和:「そりゃ決まってるさ。そのメールのあて先が俺だったからな。」

小夜子:「うそっ!あっ・・・んん。」

博和:「ほんとだよ。始めはビックリしたけどお前が自分で打ったって言うからさ。
        また悪戯してるなって思ってたんだ。」

小夜子:「それなら先に言ってくれよ。」

博和:「まあいいじゃない。俺もこうやって小夜子を触る事が出来るんだから。」

小夜子:「あぅ・・・そんな事言ったって・・・誰かに見られたらどうするんだよ。」

博和:「大丈夫さ、みんな仕事に夢中だから。それにパーテーションがあるから分かんないよ。
        それより早く有紗さんのところに行こう。」

小夜子:「こ、このままでか・・・」

博和:「そうそう、このままでね。」

博和はクチュクチュと小夜子(志郎)の股間を触りながら歩き始めた。
小夜子(志郎)も仕方なく歩き始める。

博和:「歩くの遅いなあ。」

小夜子:「んっ・・・仕方ないだろ。お前がそんなところ触るんだから・・・・はぁ・・」

小夜子(志郎)は、タイトスカートの前で両手を握りながら歩いていた。

博和:「ほら、ここだよ。」

博和がパーテーションを指差す。
小夜子(志郎)は有紗に気付かれないようにそっとパーテーションの上から覗き込んだ。

そこには・・・・

綺麗な女性がディスプレイを見つめている横顔があった。
たしかに博和のタイプだ。もちろん志郎のタイプでもある。
セミロングでストレートの髪は、黒く光っている。
背筋をピンと伸ばしてマウスを動かしている。
キラキラとした瞳には、ディスプレイの画面が映っていた。
彼女は淡い茶色のブラウスに、黒いストレートパンツという比較的ラフな格好で仕事をしていた。

博和:「どうだ?」

覗き終わった小夜子(志郎)に小さな声で話しかける。

小夜子:「いいじゃないか。俺もタイプだよ。」

博和:「だろっ!彼女に乗り移ってくれよ。そしたら仕事も体験できるし俺も話が出来る。」

小夜子:「分かった!じゃあとりあえずお前の仕事場に戻るか。この子の身体を返さないといけないし。」

博和:「ああ、戻ろう。」

そう言って二人は博和の仕事場に戻った。

博和:「彼女の仕事、分かるか?」

小夜子:「今は全然分からない。でも、幽体になってしばらく後ろから見学するよ。
          で、大体分かってたら乗り移るから。」

博和:「そっか。すごい楽しみだよ。昼飯、一緒に食いに行こうぜ。」

小夜子:「ああ、そうするか。それまでには有紗さんに乗り移っておくから。ここは12時から昼休みなんだろ。」

博和:「そうそう。」

小夜子:「そしたら12時にお前のところまで行くよ。有紗さんの身体でっ!」

博和:「おおっ!頼んだぜ、志郎!」

志郎は博和のテーブルを教えてもらった後、小夜子に身体を返して有紗さんがいるところに幽体となって飛んでいった。

彼女の後ろに陣取り、その仕事振りを見学する。

志郎:「へえ。こうやってするのか。」

幽体のままでしばらくディスプレイを眺める。
確かに博和の言うとおり、簡単な仕事だった。
パーテーションの内側に会社の規則が書いた紙が貼り付けてある。
ネット上でよく見かける、ごく一般的な規則だ。

志郎:「なるほどな。この規則に従っていないページは登録できないのか。」

有紗さんが判断し、それぞれのページについて審査している。
志郎はふと、テーブルの前に貼ってある紙に気付いた。
その紙には棒グラフが書かれている。

志郎:「これは・・・今まで有紗さんが処理したページの数か・・・・」

棒グラフには日付とその日に処理したページ数が書いてあった。
そして、下には大きく「200サイト/日」と書いている。

志郎:「これはノルマなのか?今までは全て達成しているなあ。」

棒グラフの縦軸には、200のところに赤くしるしが付いている。
どの日も、200のラインを越していた。

志郎:「へえ。ノルマがあるのか。結構大変なのかな。」

そう思っている間にも、有紗さんはどんどん仕事をこなしている。
その様子を見つめる志郎。

志郎:「よし、大体やり方は分かったな。そろそろ実行するか。」

志郎はちょっとドキドキしながら有紗さんの背中に幽体を入れ始めた。

有紗:「・・・・」

無言のまま、マウスを動かす手が止まる。

志郎が幽体をどんどん有紗さんの身体に入れる。
有紗さんの身体が、何度もビクンと震えている。
じっとディスプレイを見たままだ。
その後、志郎は完全に幽体を入れ終えた。
すると、マウスを握っていた右手がゆっくりと動き始める。
固まっていた表情に笑顔が戻った。

有紗:「・・・・へへへっ。」

ディスプレイにうっすらと有紗さんの顔が反射している。それは何とも言えないうれしそうな顔だ。
マウスを握っている右手を見たあと、自分の身体を見下ろす。
そこにはブラウスを盛り上げている有紗さんの胸が二つある。

有紗:「やっぱり確認するべきだよな。」

綺麗な声だ。
有紗さんに乗り移った志郎は、席を立って部屋を出た。そして、廊下の端にあるトイレに入ったのだ。

大きなガラスが化粧するために貼り付けてある。
有紗(志郎)はその鏡の前に立った。

有紗:「うーん・・・・綺麗だよな。」

左手を腰に当て、右手ではらりと髪をかきあげた。
本当に細いストレートパンツだ。ウェストがかなりくびれている。でも、さっき乗り移った受付嬢とは対照的に
お腹がぜんぜん苦しくない。
胸はCカップくらいだろうか。脱いで見ればすぐに分かるが、そこはグッと我慢した。

有紗:「そりゃ、博和が夢中になるわけだ。」

身長は160cmくらいだと思う。少しかかとが高い靴を履いているので余計に高く見えた。
一通り眺め終わった後、仕事場に戻ると11時55分になっていた。

有紗:「もうこんな時間か。そろそろ博和のところに行ってもいいよな。へへっ、あいつ、絶対喜ぶぞ。」

有紗(志郎)はニヤニヤ笑いながら博和の仕事場に歩いていった。
その頃、博和は担当しているプログラムを一生懸命作っている最中だった。
のめり込んだら周りが見えなくなるタイプか?
有紗(志郎)が後ろに立っているのも気付いていないようだ。
有紗(志郎)は博和の後ろにしゃがみ込み、ディスプレイ越しに博和の顔を見た。
博和からは、ディスプレイに有紗の顔がうっすらと見えている。
しばらくキーボードを打っていた博和だが、ふいにその手が止まった。
どうやらやっとディスプレイに映る有紗の顔に気付いたらしい。
ゆっくりと後ろを向く。
そこには・・・

博和が求めていた有紗が微笑んでいる。

有紗:「こんにちはっ!」

有紗(志郎)は中腰になって太ももの上に手を置いた格好で微笑んだ。

博和:「・・・こ、こんにちは・・・・」

少し遅れて博和が答える。

有紗:「もう12時だからご飯食べに行こっか。」

博和:「は、はいっ!」

慌ててカバンから財布を取り出す。

有紗:「はははっ、面白い奴だな。そんなに焦るなって。俺だって分かってるんだろ。」

博和:「あっ・・・・し、志郎。そうだった、志郎なんだよな。」

急に目の前に有紗が現れたので、頭の中が真っ白になっていたらしい。
志郎が乗り移っている事をすっかり忘れていたようだ。
二人は会社の近くにある定食屋に入り、昼食を注文して食べ始めた。
 

有紗:「どうだった?俺の演技は。」

博和:「かなりいいよ。ほんとに有紗さんかと思った。」

有紗:「そうだろ。でも彼女が話しているところは聞いた事ないんだ。」

博和:「そうだろうな。だってあそこの仕事場はほとんど話さないからな。」

有紗:「ああ、だからどんな女性かもよく分からないんだ。」

博和:「俺も話した事ないからさ。でも、それなら志郎が自分なりに想像して
        有紗という女性を演じればいいじゃないか。」

有紗:「そうだよな。別にそれでもいいんだよな。どうせならお前の好みの性格を演じてやるよ。博和は
        どんな性格の女性が好きなんだ?」

博和:「そりゃ決まってるさ。明るくてやさしくて、それから俺のことを心底慕ってくれる女性さ。」

有紗:「またぁ。都合のいいことを言うなあ。」

博和:「だって志郎が好みのタイプを言えって言ったんじゃないか。」

有紗:「そりゃそうだな。」

博和:「なっ。そろそろ演じてくれよ、俺の理想とする有紗さんを。」

有紗:「しゃーないな・・・・」

有紗(志郎)はご飯を食べ終え、お茶を飲んだ。

有紗:「おいしかったね、博和君。」

博和:「あ、ああ。おいしかったよ。」

有紗:「会社に戻る前にゲームセンターに行ってプリクラ取らない?」

博和:「おっ、いいねえ。撮りに行こう!」
 

二人は席を立ち、レジまで歩いていった。
 

有紗:「あのね、実は私、お財布持ってくるの忘れたの。良かったら貸しといてくれない?」

博和:「いいよいいよ。今日は俺がおごるから。」

有紗:「そう!ありがとっ!」

有紗(志郎)は博和のほっぺたにチュッとキスをした。
博和の顔がサッと赤くなる。

博和:「は・・ははっ・・・」

うれしそうな顔をしながら支払いを済ませる。
そして店を出た二人は、近くにあるゲームセンターへ向かった。
有紗(志郎)は博和と腕を組んだ。
ニコニコと笑顔で博和の顔を見つめる。
博和は照れくさそうに有紗の顔を見た。

博和:「なんか嘘みたいだな。有紗さんとこうやって歩くのって。」

有紗:「いいじゃない。私も博和君の事が好きなんだから。」

有紗(志郎)は軽々しく好きと言う。
博和はそんなさっぱりした性格の有紗が・・・と言っても志郎だが・・・好きだ。

2分と歩かないうちにゲームセンターにたどり着く。
博和はプリクラの機械に300円を入れた。

有紗:「これって何パターン撮れるの?」

博和:「えっと・・・3パターンみたい。」

有紗:「そっか。じゃあ色々なポーズで撮ろうよ。」

博和:「ああ。」

まずは何分割の写真にするかを決める。
そしてフレームを決めたあと、1つ目のポーズをとった。
最初は二人並んでピースサイン。
次は有紗の後ろから博和が抱き付いているポーズ。
そして最後は・・・・

有紗(志郎)は後ろにいる博和の頭を引き寄せ、唇を奪った。
面食らった博和が、ん〜っ、ん〜っ、と言いながら目を丸くしている。
しかし、有紗(志郎)は目を瞑ったまま博和の口の中に舌を入れ始めた。

有紗:「ん・・・・・・」

博和:「・・・・」

博和は、そのとろける様な感覚に浸りながら、最後の1枚を撮り終えた・・・・

有紗:「・・・撮れてるかな。」

博和:「・・・たぶん。」

現像されて出て来るのを待っている。
1分ほどして、カチャンとプリクラが出てきた。
博和がゆっくりと取り出し、二人での確認する。
そこには、恥ずかしそうに目を瞑っている有紗と、とろけて崩れそうな博和の顔が映っていた。

有紗:「博和君の顔、面白〜いっ!」

博和は顔を赤くしながら・・・それでもうれしそうにしていた。

有紗:「恥ずかしいからみんなに見せないでよ。」

そう言うと有紗(志郎)は歩き始めた。
その後を追うように博和が付いて行く。

・・・博和の奴、めちゃくちゃうれしそうだな・・・

志郎が心の中でつぶやく。
志郎としても、有紗さんには申し訳ないと思っているが、もう少し博和を楽しませてやりたいと思った。
しかし、今は時間がない。

とりあえず会社に戻った二人は、それぞれ自分の仕事をこなしていった。
志郎も200サイトを調べるために必死で頑張った。
しかし、慣れていないせいもあり、定時である5時30分を過ぎてもまだ終わっていなかった。

「おつかれさまぁ」

すでに目標を達成した人たちが、ぞろぞろと退社する。

「あれ、今日はえらくゆっくりとしてるんだね。」

一人の男性が有紗(志郎)に話し掛けてきた。

有紗:「あ、ええ。ちょっと今日は・・・」

ごまかしながら答えると、

「ま、あまり遅くならないうちに帰りなよ。明日もあるんだから。」

そう言って帰っていった。

有紗:「なんだ。手伝ってくれるのかと思った。」

有紗(志郎)はぶつぶつ言いながら作業に取り掛かった。
 

午後7時過ぎ・・・・


とうとうこの部屋では志郎一人になってしまった。
それでももくもくと作業を続ける。

有紗:「こりゃ慣れるまで大変だよ。」

まだ規則もろくに覚えていないので余計に時間がかかる。
そんな時、ドアを開ける音がした。
誰かがこちらに歩いてくる。

有紗:「?」

しばらくして現れたのは・・・・博和だった。

有紗:「・・・博和。」

博和:「志郎か。」

有紗:「ああ。まだ終わらないんだ。これって結構大変だよ。」

博和:「へぇ。でももうすぐ終わりじゃない。」

有紗:「やっとここまできたんだ。慣れるまでが厳しいな。」

博和:「手伝ってやろうか?」

有紗:「それよりお前の方はもう終わったのか?」

博和:「ああ。今日のところはこのくらいで止めとくよ。」

有紗:「そっか。」

博和:「それよりあと少しだろ。ここにいるから早くやってしまえよ。」

有紗:「ああ。」

有紗(志郎)はまたディスプレイを見ながら作業を始めた。
マウスのボタンをカチカチと押しながらページをめくっている。
その後姿をじっと見ている博和。

博和:「・・・・・・」

博和の右手が有紗(志郎)の後ろから肩に添えられる。

有紗:「んん?」

作業をしながら返事をする有紗(志郎)。
博和は無言でその指を有紗(志郎)の首筋に這わせた。

有紗:「くすぐったいな・・・」

首をすくめながら有紗(志郎)が話す。

博和:「すべすべしてる・・・」

その手は有紗(志郎)の喉のあたりをやさしく擦っている。
そして、そのままスッと下に滑り降りた。
ブラウスの襟元から侵入した手がブラジャーの中に潜り込む。

有紗:「あっ!」

かわいい声が有紗(志郎)の口から漏れる。
博和が有紗(志郎)の胸を直接揉み始めた。

有紗:「あんっ・・・博和っ・・・や・・止めてくれよ・・・・んんっ・・・」

博和:「いいからそのまま仕事を続けて。」

博和の手の動きが止まる。

有紗:「まったく・・・」

有紗(志郎)はまた作業を始めた。
すると、博和の手もまた動き始める。

有紗:「・・・・・」

有紗(志郎)は我慢してそのまま作業を続けた。
博和の指が有紗(志郎)の乳首をクリクリと刺激する。

有紗:「・・・・あ・・・・」

マウスを動かす手が次第にゆっくりになり・・・・止まった。
ディスプレイには、眉を歪めて口を半開きにしている有紗の顔がうっすらと映っている。
潤んだ瞳はディスプレイに反射する自分の胸を見ていた。
そこには、ブラウスの中で弄ばれている胸があった。

有紗:「んっ・・・・あっ・・・・・・んんっ・・・・」

不思議と自然に切ない声が漏れてしまう。
博和がもう片方の手でブラウスの上から胸を揉み始めた。
両方の胸が博和の手によって形を変えている。

有紗:「うっ・・・はぁん・・・・」

有紗(志郎)は両手で博和の手首を握った。
しかし、それは止めようとして握ったのではない。
下半身がだんだんと疼いてくるのを感じる。

有紗:「ひ、博和・・・・あんっ・・・・なんか・・・すごく・・・んっ・・・きもちいい・・・」

博和:「有紗さんの胸、すごく柔らかいよ。指が吸い付く感じがする。」

有紗:「んんっ・・・・きもちいい・・・・」

その時、ドアを開ける音がした。

博和:「わっ!やばいっ!」

どうやらここの上司が入って来たらしい。
とっさに有紗のブラウスから手を抜いた博和。

有紗:「隠れろっ!」

博和:「隠れろって言ったって・・・・あ、テーブルの下!」

有紗:「早く早く!」

博和が急いでテーブルの下に潜り込む。
それが見えないようにテーブルに椅子を出来るだけ近づけて座る有紗(志郎)。
お腹をテーブルにくっつけてマウスを握り、作業を開始する。
コツコトと靴の音が近づき、有紗の後ろで止まった。

上司:「あれ、有紗君。今日は残業かい?」

有紗:「は、はい。少し残っていたもので・・・」

上司:「熱心だね。君の様な女性がこの会社を支えてるんだよ。」

有紗(志郎)は適当に話をあわせていた。

有紗:「今日は少し疲れていたんで、いつものようには進まなかっ・・・・あっ!」

有紗(志郎)は思わず話を詰まらせてしまった。
見えないのをいい事に、博和がストレートパンツのファスナーを下ろしたのだ。

上司:「どうしたんだい?」

有紗:「い、いいえ・・・なんでもありません。」

気付かれないように話を進める。
早く向こうに行ってくれればいいのに・・・

上司:「ところで有紗君。今月は何時間くらい残業してるんだ?」

有紗:「時間ですか。えっと・・・・だ・・・だい・・たい・・・」

うまく話をする事が出来ない。
博和がファスナーの中に指を入れて感じるところを刺激している。
パンストを穿いていないので、パンティの上からグニグニと押さえているのだ。

上司:「ん?」

有紗:「んふっ・・・・15時間・・・くらい・・・・ぅぅ・・・」

よく分からないので、適当な時間を言った。
左手を口に当てて喘ぎ声が漏れないように必死に我慢している。

上司:「へぇ、そんなにしてるのか。全部残業を付けてあげたいところだけどな。
        会社の業績が上がらないことにはなかなか・・・」

渋い顔をしながら上司が答える。

有紗:「ぁぁぁ・・・・やぁ・・・・んんん・・・・」

マウスを握る手が震えている。
今度は携帯電話のバイブレーション機能を使って刺激している。
ファスナーを開いて携帯を中に入れているのだ。
携帯の振動が股間に広がる。それがたまらなく気持ちいい。

上司:「まあ、あまり無理せずに頑張ってくれよ。体を壊したら何の意味もないんだから。」

有紗:「・・・・」

頭をコクンと下げるのが精一杯。
上司はそのまま部屋を出て行った。

有紗:「はぁぁぁん!」

有紗(志郎)は我慢していた声をやっと挙げることが出来た。

有紗:「あっ・・ああっ・・・ひ、博和・・・ダメだって・・・んあっ・・・」

博和:「よく我慢したな。二人のやり取りがたまらなく楽しかったよ。」

有紗:「も・・・もう・・・止めてくれよ・・・・あはっ・・・・気が狂いそうだ・・・。」

博和:「なあ、いいだろ。俺の相棒の相手をしてくれよ。」

テーブルの下から出てきた博和が、スーツのズボンとトランクスを一気に下ろす。
そこにははちきれんばかりの相棒が有紗(志郎)の方を向いている。
有紗(志郎)の代わりに椅子に座った博和。
その前に膝をついてしゃがみ込む有紗(志郎)。

有紗(志郎)は相棒の根元を持って、ゆっくりと口に含み始めた。
生暖かい感触が相棒を包み込む。

博和:「ううっ・・・」

その気持ちよさに思わず声が漏れる。

有紗:「ん・・・・ん・・・・んん・・・・」

髪を前後に揺らしながら有紗(志郎)は博和の相棒を刺激した。
ゆっくりと喉の置くまで咥える。
そして、吸い付きながら押し出す。
それを何度も繰り返した。

博和:「おおっ・・・すごい・・・すぐに出ちゃいそうだ・・・」

有紗さんが相棒と遊んでいる。
そう考えると今にも出してしまいそうになる。
博和は快感に酔いしれながら、別の事を考えて気を紛らわせた。

しかし、有紗(志郎)は先ほどより更に激しく刺激し始めた。

有紗:「んん・・・・ん・・・んん・・・」

髪の毛が規則正しく前後に揺れている。
口に咥えながら手で相棒を刺激する。
これをされると、いくら博和が気を紛らわそうとしても無意味だった。

博和:「ううっ・・・そんなにしたら・・・・も・・もうだめだ・・・・・あああああっ!」

その声に、有紗(志郎)は咥えるのを止め、横に置いてあったティッシュでうまい具合に受ける。

博和:「おおおっ・・・」

有紗(志郎)が手で刺激すると、何度か相棒から出てきた。
こぼれそうになったが、全てがティッシュに収まる。

そしてその後、有紗(志郎)はストレートパンツとパンティを脱いだ。
椅子に座っている博和の肩に両手を乗せる。
博和の足をまたぐようにして、相棒の上にゆっくりと腰を下ろす。
有紗(志郎)の中に相棒がゆっくりと入り始めた。

有紗:「んっ・・・・」

博和:「うっ・・・」

博和の上に完全に座り込んだ。
博和の相棒が有紗(志郎)の中にすっぽりと包まれる。
有紗(志郎)は博和の上でゆっくりを腰を動かし始めた。

有紗:「んっ・・・・あっ・・・・あっ・・・・あっ・・・あっ・・・」

有紗(志郎)が天井を見ながら喘ぎ声を漏らす。
博和は有紗の腰に手を当てながら、自分で腰を使って動き、悶えている有紗を見つめていた。

有紗:「んんっ・・・あんっ・・・・どう?・・・・きもちいい?」

有紗(志郎)は博和に問い掛けた。

博和:「くっ・・・いいよ・・・すごくいい・・・」

顔を歪めながら答える。

有紗:「こ・・・今度は・・・・あっ・・・博和が・・・・」

博和:「ああ・・・」

博和は有紗(志郎)の中に入れたまま椅子から立ち上がった。
そして有紗(志郎)をテーブルにもたれかけさせた後、激しく腰をふり始めた。

有紗:「ああああっ!」

その刺激に思わず声が大きくなる。

有紗:「ああっ・・・あんっ・・・すご・・・い・・・ああ・・・いいよぉ・・・」

有紗(志郎)は博和の首に両手を巻きつけた。
博和は有紗(志郎)の腰をしっかりと持ってガンガン攻め立てる。

博和:「はぁ、はぁ・・・うっ・・・す・・すごいだろ・・・」

有紗:「あんっ・・あんっ・・・そんなに・・・・やぁ・・・ん・・・はぁ・・・あっ・・あっ」

いったんギュ〜ッと奥まで挿入する。

有紗:「うううっ・・・」

そのままぐりぐりと相棒でかき回す。

有紗:「んあっ・・・ああん・・はあああ・・・」

そしてまた激しく腰を動かす。

有紗:「うあっ!・・・あっ・・あっ・・あっ・・」

博和は一度出しているのでいつもより更に元気だった。
ブラウスの中に手を入れて胸を鷲づかみにする。
体力の続く限り、何度も何度も腰を打ち突ける。

有紗:「だ・・・だめ・・・・・だ・・・・ああっ・・・あ・・・足が・・・・」

有紗(志郎)の足はもうガクガク。立っている事が出来なくなった。
しかし、博和はひょいと有紗(志郎)を抱きかかえると、テーブルに座らせた。
そしてそのまま腰を振り始めた。

有紗:「はあん・・・あうっ・・・あっ・・ああっ・・・」

有紗(志郎)は博和を抱きしめた。

博和:「はっ・・ラストスパートだ!」

そう言うと、なお激しく腰をふり始めた。

有紗:「はぁっ!・・・あ、あ、あ、んん・・・や・・やだ・・・だめだ・・・ったら・・・んあっ!」

博和:「はぁ、はぁ、はぁ」

有紗:「ん、ん、んん、ああっ・・も・・・もう・・・だ・・だめ・・・い・いいよ・・・・」

博和:「ううっ・・・そろそろ・・限界だ・・・・」

有紗:「うん・・・きて・・・あ、あ、あ、あああっ・・はああああああっ!」

博和:「うっ・・くっ・・あっ・・・あああっ!」

博和が有紗(志郎)のお腹の上にぶちまけた。

有紗:「んぐっ・・・ああっ・・・はっ・・はぁ・・」

博和:「ああ・・・・ううっ・・・・」

博和はそのまま床に座り込んだ。
有紗(志郎)はテーブルに座ったまま動けない。
 
 

そして二人しばらくの間、余韻を楽しんだ・・・・・
 
 

どれ位かしたあと、元どおりに着替えを済ませた二人。


博和:「最高だったよ。」

有紗(志郎):「ああ。俺もさ。」

博和:「なんか有紗さんとこんな事できるなんてな・・・やっぱり志郎のおかげだよ。」

有紗(志郎):「まあ、俺にでも出来そうな仕事を見つけてくれたからな。そのお礼だと思ってくれよ。」

博和:「そっか。じゃあこの仕事ならやっていけそうなのか?」

有紗(志郎):「たぶんな。このくらいの仕事なら何とかなるさ。」

博和:「それを聞いて安心したよ。」

有紗(志郎):「後は中途採用を待つだけさ。」

博和:「そうだな。絶対あるから心配しないで待っててくれ。」

有紗(志郎):「ああ・・・・」

 

博和は先に家に帰ることにした。
有紗(志郎)は残っていた仕事を最後までやりとげ、彼女の身体から抜け出た。
そしてそのまま家に戻ったのだった。
いつもどおり有紗さんは、志郎に乗り移られていたことを覚えておらず、なぜこんな時間まで
会社にいるのか分かっていなかった。しかし、自分の仕事がいつの間にか片付いている事を知り、
何事もなかったかのように帰ってしまった・・・
 
 


 

そして3ヵ月後・・・・


 

博和:「おはよう。」

志郎:「ああ、おはよう。」

二人は会社の門をくぐった。

博和:「緊張している?」

志郎:「いや、ぜんぜん。」

博和:「そうか。まあ前に来たときと全然変わってないし、一度やった仕事だもんな。」

志郎:「ああ。すぐに覚えて仕事をこなして見せるさ。」

そう言いながらビルの中に入っていった。

中途採用が決まった志郎は、今日から新しい人生が始まる。
やっとみんなと同じ土俵に立つ事が出来たんだ。
これからは頑張って追いつこうと思っている。
志郎の未来は希望の満ちているのだ!
 
 
 
 
 
 

裕香:「まさかお兄ちゃんが就職するなんてね。」

母親:「またそんな事言って。裕香もうれしいんだろ。」

裕香:「まあね。これでクラスの友達にも堂々と話せるし。」

母親:「そうだよ。お母さんも近所の人に話せるからね。」

裕香:「お父さんも喜んでるかな?」

母親:「そりゃそうに決まってるよ。わざわざ外国の港からマグロを送ってくるくらいだもの。」

裕香:「へへっ。ほんとだね。」

母親:「まったくだよ。やっとお母さんもゆっくりできるわ。」

裕香:「良かったね。お母さん。」

母親:「良かったよ、ほんとっ!」
 
 
 
 

その後、志郎は博和とともに仕事に専念し、管理する立場に昇格したそうだ。
スピード出世なのだろう。

博和は有紗さんと結婚し、子供をもうけた。
志郎は相変わらずの独身だが、のんびりと相手を見つけるらしい。

そして、もう他人に乗り移ることはなくなったようだが・・・
真相は誰も知らない・・・・
 
 
 
 
 

ソフト会社に行こう!・・・・終わり

「行こう!」シリーズ・・・・完結
 
 
 
 
 

あとがき

ダークローゼスに初めて「フィットネスに行こう!」を投稿してから
約10作目となりました。
数ヶ月にわたり、書き上げた「行こう!」シリーズも、今回をもって完結といたしました。
これまでに多くの方に読んでいただき、意見や感想をいただきました。
どの時点で完結させようかと悩んでいたのですが、今回志郎の就職が決まったので
ちょうどキリがいいと思いました。
ネタ的に尽きてしまったという問題もありますし、ワンパターン化しつつあるという
点も終了させる一つの要因でした。

私としては、十分満足がいく作品達です。
読者の方々にも愛されていると思っています。
だから、志郎と博和の名コンビ、忘れないで下さいね!

それでは最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
そして「行こう!」シリーズを応援してくださった皆様、ありがとうございました!
 

・・・そうそう、書き忘れるところでした。
なんかさっき、志郎と妹の裕香が変な会話してたんですよ。

裕香:「・・・・やった・・・これが女性になるってことか・・・」

志郎:「お〜い、裕香ぁ。風呂が空いたぞ。」

裕香:「あっ・・・これが胸の感触か・・・」

志郎:「お、おい。お前何やってるんだよ。」

裕香:「あ、しろぅ・・・じゃなくてお兄ちゃん。」

志郎:「??」

裕香:「ねえ、お兄ちゃん。私の胸って大きいでしょ。あんっ!」

志郎:「な、なにしてるんだよ。」

裕香:「何って。お前も妹の身体で遊んだんだろ。なっ、志郎!」

志郎:「なって・・・お前・・・もしかして」

裕香:「そうなんだ、俺もなんか知らないけどお前と同じことができるようになったんだよ!」

・・・・これって一体?
 
 
 
 

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