富雄と千紗の悪巧み3(いきなり生えてきたアレ)

作:Tira


「ただいま」

駅から歩いて15分ほど。
千紗は玄関のドアを開けると、靴を脱ぎ早足で二階にある自分の部屋へと向かった。
階段へ上る背中越しに母親の「おかえり」という声が聞こえる。

ガチャ

千紗は二階の一番手前にあったドアを開けると、「ふぅ」とため息をついてベッドの上に座った。


「ねえ、今ならバレないから私の身体から出てよ」


誰もいない部屋の中で千紗がしゃべると、フッと股間に感じていた違和感が無くなった。
そして勉強机の椅子がくるりと動いて、ギシッという音を立てる。
椅子には「重み」がかかっているようだ。


「いやあ、楽しかったなぁ」

「何が楽しかったよ。悪戯ばかりして」


勉強机の方から富雄の声がする。
もちろん本人の姿は見えず、まだ薬が効いている状態だ。


「どうだった?俺があの女の人のフリをしてたの。本人みたいだっただろ」


電車の中で入り込んで悪戯したジーパン姿の女性の事を言っているようだ。
富雄の表情は見えないが、声のトーンからすると嬉しそうに思える。


「どうだったじゃないわ、勝手に人の身体に入り込んで」

「別に千紗に迷惑かけてるわけじゃないんだからいいじゃないか」

「良くないわよ、全く。協力してくれるのはうれしいけど、変な事ばかりしないでよね。
 富雄だって、誰かにバレたらどうするのよ」

「そう言うなって。大丈夫だからさ、ははは」

「もうっ……」


千紗は膨れっ面をしながら椅子に座っている富雄を睨みつけた。
でも、その目線は富雄の目線とは合っていない。だって何処に富雄の顔があるのか分からないのだから。


「ねえ富雄、今から着替えるからこっちを見ないでよ」

「いいじゃないか。俺たち、もう恥らう仲じゃないだろ」

「バカッ!」

「おお怖っ!じゃあ部屋から出て行くよ。それならいいだろ」

「いいけど、どっちみち廊下に出たフリをして部屋の中にいるつもりなんでしょ」

「す、するどいな、千紗は」

「富雄の行動ぐらいお見通しなんだから。お願いだから私の着替え姿、見ないでよね」

「恥かしがりやだよな、千紗は。分かったよ、それじゃあ布団の中に潜ってる」

「……そうして」


千紗がそう言いながらベッドから立ち上がった。
すると、ベッドの布団が勝手に動き始め、掛け布団がもっこりとカメのように膨らんだ。
掛け布団の中に富雄が潜り込んだのだ。

布団の隙間が開いていないか確かめた千紗が、タンスの引き出しから普段着を取り出す。
そしてクローゼットを開き、セーラー服を脱ぎ始めた。
富雄に覗かれないよう、クローゼットの開き戸に隠れるようにしながら脱いでいる。
そんな着替え姿が見え隠れしているところがちょっとセクシーだなぁと、
密かに布団の隙間から覗いていた富雄は思ったのだった。




素早く着替えを済ませた千紗。
白いノースリーブのシャツと、淡いピンクのパジャマのズボン。
ちょっとアンバランスな服装だが、ダブついたパジャマのズボンを選んだのは、きっと富雄のムスコが生えてきたときに
目立たなくするための工夫だろう。
本当はお風呂に入ってから穿きたかったのに。


「いいわよ」

「ああ」


富雄が布団の中から出てくる。
と言っても見えないが。


「見てたんでしょ」

「ちょっとだけ」

「スケベ。変態っ。エロオヤジ」

「…………」


千紗は富雄を傷つける言葉を適当に並べたあと、先ほど富雄が座っていた勉強机の椅子に腰を下ろした。
そして、ベッドの布団がへこんでいるところを見ながら話を始めた。


「ねえ富雄。その薬っていつ効果が無くなるの?」

「さあ、でも元に戻る薬を飲まない限り、ずっと見えないんじゃないかな」

「じゃあ車に轢かれたら誰も気づかないんだ」

「そうさ。だからこの姿で外に出るときはよほど注意しなければならないんだ。この姿で学校に行ったときは
 かなり緊張したけどな」

「ふ〜ん。で、元に戻る薬とかも持って来てるんだ」

「ああ。学校で千紗に渡したカバンに全部入ってる」


富雄は、先ほど千紗が勉強杖の上に置いたカバンまで歩いていくと、そのカバンのファスナーを開けた。
その中には、富雄の下着や結構な量の小瓶が入っている。
数は多いが、薬の種類は二つだけのようだ。
今、富雄が飲んでいる薬と、元に戻る薬だろう。


「へぇ〜。この薬を飲むと、私も透明人間みたいになれるんだ」

「そうさ、そして他人の身体に入り込む事が出来るんだ。何なら試してみるか?」

身体に入り込む薬が入った小瓶が宙に浮く。
富雄が持っているのだ。


「え〜。今?」

「別に今じゃなくてもいいけどさ。俺が元の姿に戻るから、千紗はこの薬を飲んで俺の体に入り込めばいいんだ。
 明日の合宿までに練習しといたほうがいいだろ」

「それはそうだけど」

「まだ夕食まで時間があるんだろ。それなら……ほら」


千紗の前に小瓶が突き出される。


「う、うん……」


千紗は戸惑いながらも、空中に浮いているように見える小瓶を受け取った。


「じゃあ俺は元の身体に戻るよ」


そう言った富雄がカバンから元に戻る薬が入った小瓶を取り出すと、そのフタをあけてゴクンと飲んだ。
小瓶の中の液体が空中で無くなって行くのはとても不思議な感じ。


「はあ。もう少し美味しい味に出来たらよかったのにな」


そんなことを言いながら、殻になった小瓶をカバンの中に戻す。
その手がすでに色づき始めている。
そして、かなりの速度で身体全体が色がつき始め、あっという間に元の富雄の姿に戻ったのだ。


「や、やだっ!こっちに身体を向けないでよっ!」


目の前に現われた富雄の裸。
サッと横を向いて、その裸体を視線から避けた千紗だったが――




「…………」


千紗の顔が一瞬にしてこわばる。
彼女の視線は、いつの間にか開いていたドアに向けられていた。
その開いたドアに――


「お、お姉……ちゃん……」


なんとそこには、一つ下の妹、亜依(あい)が立っていたのだ。


「あ……亜依……」

「ゲッ……」


富雄も、亜依に裸を見られて目が点になっている。
それよりも驚いたのは亜依だったようだ。


「お、お姉ちゃんが……男を家に連れ込んで……お、お母さん……」

「あっ……ちょ、ちょっと……ち、違うのよ亜依」

「お……お母さん……お母さぁ〜んっ!


亜依がドアの前で叫んだ。


「や、やべっ!」

「待って亜依っ!」


1階に下りようとした亜依を引き止める千紗。
慌ててベッドの布団に潜り込む富雄。
とにかく、亜依を自分の部屋に押し込めた千紗は、階段の下から「どうしたの?」と言ったお母さんに


「な、なんでもないの。ごめんねお母さん」


と、階段の上から言った。


「何やってるの、姉妹で」

「何でもないって。亜依をちょっとからかってただけ」

「もう、いい年なんだから喧嘩なんてしないでよ」

「分かってるって、ごめんね、お母さん」




かなり強引にお母さんを丸め込んだ千紗は、慌てて自分の部屋に戻った。


「あ、亜依、あのね」

「まさかお姉ちゃんが男を連れ込むなんて……」

「ち、違うのよ。これには訳があって」

「……別にいいよ。驚いたけど気にしないから」

「え?」

「だって私もクラスメイトの榊原くんを部屋に連れ込んだことあるし」

「な……」

「これでお互い様だね。お姉ちゃんにバレたらお父さんやお母さんに告げ口されると思ってドキドキしてたんだ。
 でもお姉ちゃんもやるもんだね。お母さんがいるときに男を連れ込むなんて」

「ば、ばか言わないでよ。私はそんなつもりなんて全然無かったんだから。それより亜依。アンタ男を連れ込んでたの?
 それ、どういう事よっ」

「お姉ちゃんと同じだよ。お姉ちゃんだってあの布団に隠れている男とするつもりだったんでしょ」

「ち、違うわよっ」


亜依の行動が少し前から怪しいと思っていた千紗。
部屋も何となく男くさいときがあるし、片付け嫌いな亜依が綺麗に部屋を掃除する事があったり。
でも、まさか男を連れ込んでいたとは――

妹がそんな事をしていたなんて。

千紗はちょっとショックだったようだ。


「亜依、アンタまだ高1なのよ。それに私はそんなことするつもりで富雄を連れてきたんじゃないの」

「お姉ちゃんと1歳しか変らないよ。それに、布団の中にいる男はどうして裸だったの?」

「そ、それは……」


千紗は、布団の中に隠れて顔だけ出している富雄をチラッと見た。
すると富雄が「う〜ん」と、しかめっ面をしたあと、ポツリと口を開いた。


「えっと……それじゃあ全部話すよ。まず、俺の名前は藤山富雄で……」


富雄は布団に包まったまま、薬の事、そして明日の合宿で計画している事を亜依に話した。
亜依は「信じられな〜い」を連発しながらも、最後まで富雄の話を聞いていた。
そして最後に、


「すご〜い。そんな事が出来るのっ!」


と、目をキラキラと輝かせたのだった。


「じゃあ、明日は藤山さんも一緒に合宿に来るんだ」

「ふ、藤山さんか。富雄でいいよ、富雄で」

「亜依、この事は3人だけの秘密だからね。分かった?」

「うん。でもすごいなぁ、その薬でそんな事が出来るんだ」

「まあね」


富雄がちょっと自慢げに返事をする。


「それなら明日は合宿場までお姉ちゃんの身体に入り込んで行くの?」

「そうさ。なあ、千紗」

「ま、まあ……そうなんだけどね」

「ふ〜ん」


亜依は興味津々と言った感じで、富雄が持ってきたカバンの中を覗きこんでいる。


「さっき裸だったのは、丁度薬の効果を消してもとの姿に戻ったところだったんだ」

「そうだったの。内気なお姉ちゃんにしては大胆だと思ってたんだ」

「う、内気?千紗の何処が?」

「五月蝿いわねっ!」


ペシンと富雄の頭を叩いた千紗。
亜依から見れば、姉の千紗は内気なのだろう。


「ねえ、お姉ちゃんも、この薬を使った事あるの?」

「無いわよ」

「だから今から試そうと思ってたんだ」

「そうなの!じゃあ私も見てるっ」

「ええっ。ダメよ、亜依はもう自分の部屋に戻ってなさい」

「だって興味あるもん。富雄さんのアソコがお姉ちゃんのになるんでしょ」

「ダメダメ、恥かしいじゃないの。それに見世物じゃないんだから」

「いいじゃない。別に」

「ダメだって」

「それじゃあお母さんに言ってこようかな。お姉ちゃんが男連れ込んでるって。
 お父さんに告げ口されたら怖いよ〜」

「もうっ!亜依だって同じでしょ」

「私は証拠無いもん。お姉ちゃんは現行犯だけど」

「…………」


口では亜依に敵わないようだ。
千紗はふぅとため息をつくと、


「わ、分かったわよ」


と渋々答えた。
そんな姉妹の会話を聞いていた富雄は、千紗と同じくバレーボール部だった亜依が現れた事で
「これは面白くなってきたぞ」と心の中で呟いていたのだった。


「じゃあ千紗、薬を飲めよ」

「……ほ、ほんとに今するの?」

「仕方ないだろ。亜依ちゃんがそう言うんだから」

「もう、亜依のせいにして……それじゃあ富雄は廊下に出ててよ。二人がいる前で裸になるなんて出来ないわよ」

「別にいいじゃないか。見慣れてるんだし」

「見慣れてないっ!」

「うっ……そ、そりゃそうだけど、廊下に出てお母さんにバレたらどうするんだよ」

「……じゃあ私が亜依の部屋に行くわよ」


千紗は薬を一つ手に取ると、しぶしぶ亜依の部屋へと移動した。








「何だか変な感じよね。私が裸の男の人とお姉ちゃんの部屋にいるなんて」

「た、確かに……」

「ねえ、富雄さんてちょっとカッコいいよね」

「そ、そうかな。自分ではそう思わないんだけどさ」

「お姉ちゃんと付き合ってるんでしょ」

「う〜ん、付き合っているというか……そうだなぁ。付き合ってるんだよなぁ」

「ふ〜ん、そうなんだ。今まで何回くらいエッチしたの?」

「そうだな。大体……」


千紗の部屋で他愛も無い(?)話をしている二人。
すると、部屋のドアがゆっくりと開いた。
先ほど千紗が着ていた服が中に浮いている。


「お、お姉ちゃん?」

「……うん」

「すっご〜い。ほんとに透明人間みたいになってる〜!」

「身体の感じはどうだ?」

「べ、別に何とも無いけど」

「そっか、それじゃあ早速試してみようぜ」

「ど、どうすればいいのよ」

「俺の身体に千紗の身体を重ねればいいだけさ」

「か、重ねるって言ったって……」

「大丈夫だって」


そう言うと、富雄はベッドの布団から出てきた。
もちろん亜依に見えないよう、前を両手で押えて。


「とりあえずその服を下に置けよ」

「う、うん」


透明になった千紗がしゃがみ込んで、絨毯の上に服を置く。
すると富雄が前を押えたままその服に近づいてきた。

そして、


「こうやって重ねればいいんだよ」


と言って、絨毯の上に置かれた服を跨いで、更に前に身体を進めた。
そこにはしゃがんだ状態の千紗がいる。


「きゃっ」


非常に短い声が聞こえた。
しかし、それ以降、千紗の声は聞こえなかった。
富雄の身体が透明になった千紗の身体を、無理矢理自分の身体の中に押し込めた形になったのだ。


(えっ!?えっ!?)


訳が分からない千紗。
自分の意思とは無関係に身体が動いている。
しかし、その身体は自分のものではない。富雄の身体だったのだ。


(うそ……これって私、富雄の身体に入り込んじゃったってこと!?)


富雄の中で驚きを隠せない千紗。
しかし富雄は、千紗が身体に入り込んだことを実感していた。
今まで押えていた股間の膨らみが急激に無くなり、のっぺりとしたものに変わってしまったからだ。

富雄は俯きながら、股間に添えていた両手をそっと離した。
すると、そこには今まで見慣れていたムスコは存在せず、うっすらとした毛に覆われた女性の股間が
付いていたのだ。


「おお!すげぇ。これが千紗のアソコなんだ」

「わあ!すご〜い。本当に無くなってる!これ、お姉ちゃんのなんだ」


(ちょ、ちょっと!勝手に見ないでよっ!)


そう叫んだ千紗だったが、その声は富雄には届かない。
富雄が足を蟹股に開いて、千紗のアソコをマジマジと見ている。
それが恥かしくてたまらない。

男の身体に女のアソコ――

その異様な光景に、妙な興奮を覚える富雄と亜依。


「へぇ〜。お姉ちゃんのココって、私よりも毛が濃いんだ」

「そ、そうなのか?」

「うん。私のほうが薄いもん」

(な、何言ってるのよっ亜依っ!)

「ふ〜ん。へへ、触っちゃおっかな」


富雄の手が、ゆっくりと千紗の股間に近づいていく。


(だ、だめっ!触っちゃだめぇっ!)


千紗はそう叫びながら……とっさに富雄の身体から抜け出た。
すると、今まで無かった富雄のムスコがムクムクと生えてくる。


「あれっ……お姉ちゃんのが……」

「あ……元に戻った。抜け出たのか」

「いやんっ!」


急に目の前にムスコが現われたので、亜依も少し恥かしそうだ。
富雄の身体から抜け出た千紗は、透明な身体のまま急いで服を着るとカバンの中から元に戻る薬の入った小瓶を取り出し、
すぐに飲んでしまった。


「ちょっと!何触ろうとしてるのよ。それにじっと観察したりして。信じられないわ」

「いいだろ別に。俺と千紗の仲なんだからさ。それに千紗だって俺のムスコが生えたときは楽しんだろ」

「だ、だからって亜依の前で」

「それは……まあ悪かったよ。と、とりあえず分かっただろ。どうすれば入り込めるか、そして抜け出せるかが」

「話をごまかさないっ!」


ペシン


また富雄の頭を叩いた千紗。
すると、1階からお母さんの声が聞こえた。


「二人ともご飯の用意が出来たわよ」


その声に「分かった、すぐ行くわ」と答えた千紗。


「そう言えば富雄。富雄はご飯食べるの?」

「た、食べるに決まってるじゃないか。もしかして俺を餓死させるつもり?」

「だ、だって……」

「ねえ富雄さん。もしかしてお姉ちゃんの身体に入っていたら一緒に食べた事になるんじゃないの?」

「た、多分……。俺にもよく分からないんだけど」

「それならお姉ちゃんの身体に入ってたら?」

「ええ〜。お母さんの前でそんな事するのいやよ。後でコンビニに行って買ってきてあげるわよ」

「わあ、富雄さん、かわいそ〜」

「だったら亜依が代わりに食べさせればいいじゃないの」

「え、私が?別にいいよ」

「あっ……」


「しまった」と思った千紗。
亜依にそんな事させるわけには行かない。
千紗は、思わず口にしてしまった言葉を後悔した。


「じょ、冗談よ亜依。富雄は絶対ダメだからね。後で買ってきてあげるからここで待ってて。行くよ、亜依」

「あ、お姉ちゃんっ」


千紗が亜依の手を引っ張って部屋から連れ出す。


「あ……ちょ、ちょっと……」


強引に亜依を連れて行ってしまった千紗。
二人がいなくなると、部屋の中が急に静かになる。


「あ〜あ。俺も千紗のお母さんが作る手料理、食べたかったなぁ」


そう呟きながら、ベッドにゴロンと横になる富雄だったが……




「う〜。食えないとなると余計に腹が減ってきたぞっ!」


今、ベッドに横になったところなのに、勢いよく起き上がった富雄は、


「ダメだ。やっぱり我慢できないっ!」


と言って、薬を手にしたのだった――






富雄と千紗の悪巧み3(いきなり生えてきたアレ)…おわり






あとがき

今回は、一つ下の妹、亜依が登場しました。
彼女は千紗とは違い、何かと積極的です(笑
まあ、いろいろな事に興味がある年頃なんでしょうね。
千紗も同じだと思うのですが、基本的に性格が違うようです。
亜依自身は富雄の薬にとても興味があり、自分でも試してみたいと
思っているのでしょう。
目の前で起きた不思議な現象。
う〜ん、千紗よりも亜依のほうが使いやすいなぁ(笑

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
Tiraより

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