ガタンという音がして、列車が動き始める。
長椅子に座っていた千紗の身体も、その慣性によって少し傾いた。
 

「何処に行ったのよ、富雄は」
 

列車内をキョロキョロと見回す千紗。
しかし、透明人間のようになっている富雄を見つけることなど不可能に近かった。
しかも、もし富雄が――
 
 
 
 

富雄と千紗の悪巧み2(いきなり生えてきたアレ)
 
 作:Tira
 
 

 

『次は中野神内〜、中野神内〜』
 

アナウンスが流れる。
まだ列車内にいるどの女性も慌てふためいている様子はない。
寝ている女性がいるか確かめたが、そういう女性もいないようだ。

「…………」
 

それでも千紗は、注意深く周りの女性達を見ていた。
こんなに見られては、周りの女性たちも迷惑だろうに。

そんな中、隣の車両から若い女性が千紗のいる女性専用車両に入って来た。
大学生くらいだろうか。
茶色に染めた長いストレートの髪。
身体に密着する黄色いTシャツにジーパン姿。
Tシャツとジーパンの隙間からおへそが見えていてセクシーだ。
そんな彼女は、ブランド物の30センチくらいの黒いショルダーバッグを肩から掛けていた。

さりげなく辺りを見渡し、空いている席がないか確かめている。
しかし、丁度、発車前に空いている席が無くなっていたため、座る事が出来ないようだ。
そのまま列車内の通路を歩いて、千紗の座っている長椅子の前で立ち止まる。
そして、また周りを見たあと、片手でつり革を持って窓の外を眺め始めた。

千紗はその女性の顔を見上げたが、女性は千紗の事なんて気にしていない様子。
肩にかけていたショルダーバッグの中に手を入れ、小説らしき文庫本を取り出すと
片手で持って文章に目を通し始めた。
 

「…………」
 

もしかして……と思っていたのだが、どうやら千紗の考えすぎのようだ。
ゆっくりと視線を落とし、目の前に立っているその女性の体つきを何気なく眺めた。
Tシャツの裾から見えているキュッと引き締まったウェストは、千紗から見ても綺麗だと思った。
そして紺色のジーパンに包まれたほっそりとした足。

私ももう少し歳を取れば、こんな風に女性らしい体つきになるのかなぁ?

そんな事を考えていた千紗だが、ふとおかしなことに気がついた。
 

「え……あれっ?」
 

声には出さないが、その部分をじっと見つめる。
目の前に立っている女性の股間。
ジーパンに包まれたその部分が、妙に膨れ上がっているように見える。
気のせいかと思ったが……どう見ても女性の股間だとは思えない。
縦長の何かが、そのジーパンの中に入っているような――
 

こ、これってまさかっ!?
 

千紗はハッとして、またその女性の顔を見上げた。
すると、千紗の視線を感じたのか、その女性はふと本から視線を外して千紗と目を合わせた。
 

「…………」
 

しかし、女性は特に気にすることもなく、また本を読み始めてしまった。
 

「え……ち、違うの?」
 

絶対富雄の仕業だと思っていたのだが、女性の反応からするとどうも違うような気がする。
でも、そのジーパンの膨らみは異常だ。
 

『中野神内〜、中野神内〜。お降りの方はお忘れ物の無い様にお気をつけ下さい〜』
 

徐々にスピードが弱まり、列車がホームに滑り込むとドアが左右に開く。
すると、千紗の隣に座っていたおばさんが立ち上がり、ドアの外へと出て行った。
その空いた席を見たTシャツとジーパン姿の女性がゆっくりと腰を下ろす。
そして、ショルダーバッグをジーパンの太ももの上に置くと、左手で本を持ってまた読み始めた。
その行動を横目で見ていた千紗。
どうしてもあのジーパンに包まれた股間が気になるようだ。
 

あまり見ていると変に思われるので、とりあえず目線をそらした千紗。
アナウンスが流れ、ドアが閉まるとまた列車が動き始める。


「…………」


どうも落ち着かない。
隣に座った女性に富雄が入っていないとすると、一体どの女性に入り込んでいるのだろう。
いや、もしかしたら女性の身体には、入り込んでいないのかもしれない。
透明人間状態をいい事に、女性のスカートの中を覗き込んだりしているとか。
そんな事まで考え始めた。


「んっ……」


千紗の耳に、とても小さな女性の吐息が聞こえてきた。列車内の雑音に紛れて殆ど聞こえないような声だ。
その声の聞こえた方を見た千紗。
その方向……隣には本を読んでいる女性が座っている。

でも――

千紗はゴクンとツバを飲み込んだ。
本を持った左手は太ももに乗せたショルダーバッグに置いている。
しかし、右手が……右手がジーパンの股間の上に乗っているのだ。
ちょうどショルダーバッグで周りの女性からは見えないようにしているのだが、
隣に座っている千紗にはよく分かった。
股間の上に乗っている右手の指が、ゆっくりとジーパンの上を撫でている。
モッコリと膨れ上がっているその股間を優しく優しく。





「なっ……や、やっぱり……」


千紗はその女性の顔を見た。
しかし、女性は千紗を気にする事無く、目線は本に落としたまま。
本を読みながら股間を擦っているのだ。


「ちょ、ちょっと止めなさいよ富雄っ」


この女性に富雄が入り込んでいると確信した千紗は、周りにいる女性に気づかれないよう、
股間を擦っている女性の手首を掴んだ。
すると、女性はゆっくりと千紗と視線を合わせた。


「何よ」

「えっ、な、何って……富雄?」

「何か用なの?私の手を掴んで」

「え、あ……と、富雄なんでしょっ」

「はぁ?何言ってるの?あんた誰なのよ」

「えっ……富雄じゃないの?」

「何訳の分からない事を言ってるの?早くこの手を離してよ。痛いじゃない」

「あっ……ご、ごめんなさい」


千紗の問いかけに、訳が分からないと言った表情で返事をした女性。
その勢いに負けた千紗は、思わず手を離してしまった。
だって、もしかしたら富雄じゃないかもしれないから。

女性はちょっと千紗を睨み付けたあと、また本に目を通し始めた。
そして、今度は親指と人差し指でジーパンの上から中にある物を掴むように、
上下に擦り始めたのだ。


と、富雄じゃないの??


千紗はそう思いながら、横目で女性の行動を見ていた。
その間にも何駅か通り過ぎてゆく。

ジーパンの中には明らかに異物が存在しているようだった。
それを刺激するように擦っている女性は、何やら気持ちよさそうな表情で目もトロンとしていた。
でも、だからと言って本当に富雄が彼女の中に入っているとは言えないのだ。

富雄なんでしょ!!


千紗はそう言いたかった。
彼女の行動があまりにも怪しかったから。
しかし、彼女が自分から「富雄だ」と言わない限り、今の時点ではどうする事も出来ないのだ。
でも、列車内でこんな事をするような女性がいるだろうか?


そうよ、絶対富雄よ。そうに違いないわ。
勝手に女の人の身体に入り込んでっ!


そう思って、もう一度女性に声をかけようとした時、女性がバッグに本を仕舞い、急に立ち上がった。
そして、ドアの角で立っている一人の女子高生の後ろに立つと、何やら怪しい手の動きを始めたのだ。
女子高生はピクンと身体を震わせると恥かしそうに俯き、左手で持っていた通学用のカバンをギュッと握り締めているように見えた。

女子高生の後ろに立った女性は、ショルダーバッグでその行為を隠すようにしている。
だから千紗には何をしているのか見えなかった――





「気持ちいいでしょ」

「や、止めてください……」


女性は女子高生の後ろからそっと呟いた。
周りには見えないようにして、右手を女子高生のスカートの中に入れている。
モゾモゾと怪しい動きをしている女性の手。


「んっ……ぃやぁ……」

「ほんとは気持ちいい癖に」

「やぁ〜……んっ!」


女子高生の身体が、またビクンと震えた。
はぁはぁと肩で息をしている。
しばらくして女子高生のスカートの中から手を出した女性は、自分の目の前に何かで湿った指を持ってくると、
クスッと笑いながらペロンと舐めた。
そしてジーパンのファスナーを下げると、女子高生の空いている手を掴み、その開いたファスナーへと導いたのだ。
女子高生の身体がこわばる。
何かを握らされたのだ。

窮屈なところから解放された物を握らせた女性が、女子高生の手ごと上下に動かし始める。
手の中で固くなっている温かい棒のようなものは一体何なのだろう?
女子高生も、まさかこんな物が女性の股間に付いているとは思いもよらなかったようだ。

女性専用車両なのに――
女性しか乗っていないはずなのに――


「お……男?」

「さあ。どうかしら?」

「う、うそ……」

「私は女よ。何処から見ても男だなんて思わないでしょ」

「そ、そんな……じゃあどうして……」

「生えてきたのよ。男のアレがね、フフフ」

「や、やだっ……」

「あなたにもコレが生えてくるといいわね」


女性の方を振り向こうとはせず、驚いた表情でドアのガラス越しに外を見ている女子高生。
無理矢理握らされている女子高生の柔らかい手は、女性のそれを何度も何度も刺激した。
そして――


「うっ……ううぅ……」


女性が身体を震わせて、低いうめき声をあげた。
それと同時に、女子高生のスカートに白い物が付着する。


「や、やだ……」

「うう……ふぅ……」

「い、いやぁっ!」


女子高生はいきなり大きな声を上げると、その場にしゃがみ込んでしまった。
周りにいた女性たちが、一斉に女子高生の後ろに立っている女性を見る。
その視線を浴びた女性は慌ててファスナーを上げると、何事も無かったかのように通路を歩き、千紗の隣に座ったのだった。

そして、知らん振りをするかのように眠りに着いてしまった。


「あ、あの人、男です!い、今、痴漢されましたっ」


しゃがみ込んでいた女子高生が泣きべそをかきながら立ち上がり、
千紗の隣に座って眠っている女性を指差した。


「やっぱり!」


千紗は隣で寝てしまった女性を起こそうとした。
しかし……その股間には、もう富雄のムスコは無くなっていたのだ。
女性特有ののっぺりとしたジーパンの股間。


「ど、何処に行ったのよっ」


そう思って周りを見たとき、女子高生が「えっ!?」と驚いた表情をして、スカートの上から股間を押えた。


「な、何??こ、これ……何なの??」


女子高生はその股間にある物をスカートの上から触り、感触を確かめた。
その感触に顔がこわばり、血の気が引いてゆく。


「ま、まさか……あ、ああ……」


そして、一瞬間を空けたあと、


「…………」


白目をむいて、その場にバタンと倒れこんでしまったのだ。
近くにいた中年女性が慌てて女子高生を起こす。


「あなた、だ、大丈夫?」

「う、ううん……うん……フフ。もう大丈夫。心配しないでっ!」


一瞬気を失っていた女子高生は、何故か急に笑顔になって元気な声を出すと、何事も無かったかのように立ち上がった。
そして、「騒いじゃってごめんなさい。ちょっと気が動転してたの」と言って、ぺこりと頭を下げたのだった。


「そ、そう……それならいいんだけど……」


中年女性は首を傾げながら、女子高生から離れていった。
他の女性たちも女子高生から視線を外す。
すると、足元に落ちていたカバンを拾い上げた女子高生が、先ほどいたドアの角に移動した。
そして、一瞬周りの様子を伺った後、紺のスカートに付いているポケットの中に右手を忍ばせたのだ。


「ニヒッ!」


嬉しそうな表情をしながら、俯いてスカートを眺めている女子高生。
ポケットの中でゴソゴソと手を動かしている。
そして、少し足を開きながらクスッと笑った後、カバンを足元に置いて左手を制服の白いブラウスの胸に宛がった。
その胸に当てた手を動かそうとした女子高生だったが……
背後には、ピクピクと眉毛を震わせる千紗の姿があったのだ。


「いいかげんにしないと怒るわよ」

「あっ……ち、千紗……じゃなくて、誰、あなたは?」


さっとスカートのポケットから手を抜いた女子高生。


「そろそろ止めないと、コレをねじ切るわよ」

「ひいっ!?‘*△¥○@」


声にならない声を出した女子高生。
千紗がスカートごと、股間に付いている物を握り締めたのだ。
その痛さに、女子高生は腰を屈めた。


「わ、悪かった……もうしないから離してくれ。い、いたい……」

「絶対にしない?」

「いててて……絶対にしないから……」

「次にこんな事したら分かってるでしょうね」

「わ、分かってる分かってるって。だから早く……」


千紗は顔をしかめて痛そうにしている女子高生を見ながら手を離した。


「いってぇ〜」


スカートの上から股間を押えている女子高生。
どうやらその強烈な痛さに、女子高生が目を覚ましたようだ。


「……あ、あれ?わ、私……」


気づいた時には、既に女子高生の身体から出ていた富雄。
透明な身体で「べぇ〜っ!」と舌を出したあと、千紗の身体に入り込む。


「あっ……い、いたい……」


今度は千紗がスカートの上から股間を押えた。
富雄の痛みがそのまま千紗にも伝わっているようだ。
これじゃあ自分で自分の首をしめたようなもの。


「もうっ……富雄ったら……」


少し腰を屈めながら先ほど座っていた席に腰を下ろした千紗は、ムスッとした表情で
目的の駅まで電車に乗っていたのだった――







富雄と千紗の悪巧み2(いきなり生えてきたアレ)……おわり





あとがき

今回は電車の中のお話でした。
書いていて訳が分からなくなってしまいました(笑
でもまあ、富雄は十分楽しみましたから(^^
千紗、怒っているようですね。

次は千紗の家に帰ったところからです。
さて、千紗の家ではどんな出来事が待っているのでしょうか?

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
Tiraでした。

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