「優勝できるのか!(後編)」
 
 

ジリリリリリリーーーーー!

翌朝、夏子(悟)はお姉さんがセットしていた目覚し時計の音で目が覚めた。

夏子(悟):「うーん、うるさいなあ・・・」

夏子(悟)は音のなる方向に目を向け、時間を確認する。

夏子(悟):「・・・7時15分か・・・」

うるさい時計を止めたあと、寝ぼけ眼で隣を見るとそこには夏子のお姉さんの寝顔があった。

夏子(悟):「ん?あっ、そっか。俺、今小西さんなったんだった。」

改めて自分の体を見る。
いつも悟が着ているパジャマではない事は確かだ。
二つの胸の膨らみがパジャマを押し上げているのが分かる。

夏子(悟):「あ〜あ。なんか疲れたな。そういえば、夕べは頑張ったからなあ。」

そんなことを思いながら、しばらくしてベッドから起き上がった。
お姉さんは起きなくてもいいんだろうか・・・

夏子(悟):「お姉ちゃん、起きなくてもいいの?」

夏子(悟)は、お姉さんの体をゆすった。

姉:「うー、ふぁ〜、今何時〜?」

夏子(悟):「7時30分だけど。」

姉:「そう、7時30分・・・・えっ!」

お姉さんは、ガバッと布団から飛び上がった。

姉:「やだっ!遅刻しちゃう。どうしてもっと早く起こしてくれなかったのよぅ。
       今日は1時限目から受けないとまずいんだから。」

そう言うと、あわてて下に降りていった。

夏子(悟)はそのあと、頭を掻き毟りながらゆっくりと階段を降りた。
台所では、食パンを口にほおばり、ミルクで流し込んでいるお姉さんがいた。
お腹がすいている夏子(悟)は、

夏子(悟):「わたしのは?」

とたずねた。

姉:「時間が無いんだから自分でやりなさい。」

そっけない返事が返ってくる。

夏子(悟)は仕方なく、テーブルに置いてあった食パンをトースターに入れ、
冷蔵庫からミルクを取り出した。

姉:「戸締りは頼んだからね。あんた今日は文化祭なんでしょ。
       バンドのみんなに迷惑かけないようにしっかりやりなさいよ。」

と言い、パンを口にくわえながら部屋へ着替えに行った。
夏子(悟)は、焼きあがったトースターにマーガリンを塗り、ミルクにつけながら
食べ始めた。

夏子(悟):「さて、今日の運勢は・・・」

テレビでやっている星座占いを見ながら朝食を取り終える。
階段を降りる足音が聞こえたあと、お姉さんが着替えを済ませて
覗き込んだ。

姉:「じゃあ、行ってくるね。」

夏子(悟):「うん、行ってらっしゃい。」

姉:「あんたも頑張るのよ!」

玄関に向かいながら、お姉さんは応援の言葉を残していった。
お姉さんが玄関から出て行く音がする。
夏子(悟)は、歯磨きを済ませ髪の毛を整えたあと、2階の部屋に戻り、
パジャマから制服へと着替えた。

夏子(悟):「さて、そろそろ出かけるか。」

必要なものをカバンに詰めてから、鏡に向かってかわいくウィンクし、階段を下りた。
玄関にある靴を履き、玄関を出る。
朝のすがすがしい空気を吸い込んだ後、ドアの鍵をしめて表に出た。

「ちょっと!早く戻しなさいよっ!」

夏子(悟)は、いきなり大声で怒鳴られてビックリした。
横を見ると、そこには悟(夏子)が立っている。
目の下にクマが出来、顔はやせ細って見えた。

夏子(悟):「な、なんだよ。急に大声出しやがって。」

悟(夏子):「何言ってんのよ。早くわたしの体返してよっ。」

夏子(悟):「だから昨日話しただろ。今日は俺が演奏するんだって。」

悟(夏子):「そんなの許せるわけないじゃない。私じゃなきゃ優勝出来ないんだから。」

夏子(悟):「だから小西さんの体で演奏するんだよ。なっ!周りが見ても絶対分からないって。」

悟(夏子):「そう言う問題じゃないの。あなたの腕じゃ優勝は無理なの!何度も言わせないでよ。」

夏子(悟):「くそっ!いちいち腹の立つ奴だなあ。人が下手に出てやってるのに。自分の立場が
                分かってないのか?」

悟(夏子):「うるさいわね。何度でも言うわよっ。あなたでは優勝出来ないのっ。わかった?」

夏子(悟):「・・・もう話すのや〜めた。」

夏子(悟)は、そう言って歩き出した。

悟(夏子):「ちょ、ちょっと。待ちなさいよ。」

夏子(悟):「男の格好でそんな言葉使ってたら変に思われるぞ。」

夏子(悟)は振り向こうともせず、スタスタと駅に向かって歩いた。

悟(夏子):「ま、待ってよ・・・・待てよっ!」

ほんの少し男らしい言葉を使い、悟(夏子)は後を追った。

悟(夏子):「と、止まりなよ・・・止まれよ。」

無理に男言葉を使いながら、夏子(悟)に話し掛ける。

夏子(悟)はシカトしながら、駅の改札口をくぐった。

そのあと、高校の正門まで、夏子(悟)は一言も口を聞かなかった。

悟(夏子):「いいかげんにしろよっ!いつまでもシカトすんな!」

腹が立っているせいもあり、すっかり男らしい口調でしゃべっている悟(夏子)。

ずっとシカトしていた夏子(悟)がやっと口を開いた。

夏子(悟):「悟ったら、ほんとに男らしいわね。」

女らしさをかもしだしながら夏子(悟)が答えた。

その言葉に顔を赤らめた悟(夏子)は、

悟(夏子):「あ、あなたが悪いんじゃない。学校に着いたんだから、もう
                私の体返してよ。」

夏子(悟):「おっ、また女言葉に戻ったぞ。気持ちわり〜。」

悟(夏子):「もうっ、からかうのもいいかげんにしてっ!早く返してっ」

夏子(悟):「そんなに返してほしいのかよ。じゃあ、ここでキスするしかないなぁ。」

悟(夏子):「キ、キス?」

夏子(悟):「そうさ、だってキスしなければ元に戻れないんだから。」

悟(夏子)」:「そ、そんなこといったって・・・ここ、正門じゃないの。」

夏子(悟):「別にどこでもいいんだよ。ただ、俺がここでキスしたいって言ってるだけさ。」

悟(夏子):「じゃ、じゃあ人目の無いところでしましょ。それなら我慢できるから。」

夏子(悟):「なに?我慢できるってどういうことだよ。俺の体でキスするのがいやっていうのか?」

悟(夏子):「だって、何か気持ち悪いし・・・」

夏子(悟):「はぁん、俺は一生このままでもいいんだぜ。おまえのお姉さんとも楽しいこと出来るしな。」

悟(夏子):「お姉さんて・・・秋子姉ちゃんに何かしたのっ。」

夏子(悟):「べつに〜。」

悟(夏子):「何したのよっ!言いなさいよ。」

夏子(悟):「だから何もしてないって。」

悟(夏子):「うそっ。何かしたでしょ。」

夏子(悟):「ノーコメント」

悟(夏子):「し、信じられない。私の体を使って・・・」

夏子(悟):「そんなことはどうだっていいんだ。もう時間が無いから行くよ。」

悟(夏子):「・・・私の体で演奏なんかさせないから。」

夏子(悟):「あっそ、好きにすれば。早く着替えないとみんなが待ってるからな。」

夏子(悟)は、そう言い残して女子更衣室に歩いていった。

悟(夏子):「先にみんなに会って話せば分かってもらえるかも。」

悟(夏子)はメンバーが集まっている体育館に走った・・・
 
 
 

夏子(悟)は、女子更衣室の扉をゆっくりと開けた。
中には数人の女子高生が、思い思いの服装に着替えているところだった。
夏子(悟)は、ブラウスのボタンを外し、スカートを脱ぐ女子生徒達に目がくぎづけになっている。

女子生徒:「ねえ夏子、早く扉を閉めてよ。」

一人の生徒が夏子(悟)に話し掛けた。

夏子(悟):「あっ、ご、ごめん」

夏子(悟)は、急いで扉を閉めた。

そして、空いているロッカーの下にカバンをおき、着替えを始めた。
しかし、どうしても目線は他の女子生徒に向いてしまう。

女子生徒:「どうしたの、夏子。さっきからジロジロとこっちを見て。」

視線が気になった女子生徒が話し掛けてきた。
夏子(悟)は、恥ずかしくなって思わずうつむいた。

夏子(悟):「な、なんでもないの。どんな服装に着替えるのかなって思って。」

女子生徒:「なんかずっと見られてると恥ずかしいよ。」

夏子(悟):「う、うん。もう見ないから。」

夏子(悟)は、急いで着替えた。

ブレザーを脱ぎ、スカートのファスナーを下げる。
そして、カバンの中からナイロン生地の短パンを取り出し、
両足に通した。
両手でキュッと引き上げ、お尻を包み込む。
夏子のお姉さんに比べると小さいので、案外すんなりと入った。
短パンに包まれたお尻は、プリッとしていてかわいらしい。
次に夏子(悟)は、ブラウスのボタンを外し、脱ぎ終えたあと
ブラジャーも取ってしまった。

女子生徒:「夏子、もしかしてノーブラ?」

夏子(悟)の着替えを見て、一人の女子生徒が問い掛ける。

夏子(悟):「うん、ブラジャーの紐がはみ出しちゃうから。」

そう言って、Tシャツに頭と腕を通し、胸を覆い隠した。
ナイロン生地が少し冷たく感じたが、すぐに暖かくなる。
夏子(悟)の体にフィットしたチビTと短パンは、まるで体の一部であるかのように
まったく気にならなかった。

夏子(悟):「さて、みんなのところに行くか。」

ロッカーに制服とカバンをしまった夏子(悟)は、メンバーの待つ体育館へと向かった・・・
 
 
 

そのころ・・・
 
 
 

体育館では、メンバー達が既に準備をしている最中だった。

拓巳:「さっきから何言ってんだよ。悟の言ってること、さっぱりわかんないよ。」

孝司:「そうだよ、今まで全くこなかったくせに、いきなりドラムやらせてくれって言ったってなぁ。」

悟(夏美):「だから違うのよ。私は夏子。小西夏子なの。悟君に体を入れ替えられちゃったの!」

修也:「なあ悟。おまえがドラムをやりたいって気持ちはよく分かる。俺が彼女をメンバーに迎え入れなければ
          今年もおまえがドラムを担当してたんだからな。しかし、今年は絶対に優勝したいんだ。
          だから今回はすまないがあきらめてくれ。」

悟(夏美):「まってよ。私が夏子なのよ。分からないの?悟君がこんなしゃべり方しないでしょ。」

修也:「そうだな。悟はそんなしゃべり方しないな。だからもう普通にしゃべったらどうだ。」

悟(夏美):「違うの。もうっ、何度言ったら分かるのよっ!」

夏子(悟):「みんな。おまたせっ!」

そこに、夏子(悟)が現れた。

孝司:「おおっ、夏子。なかなかセクシーだなあ。」

夏子(悟):「そうでしょ!ブラジャーがはみ出ちゃうから着けてないの。」

そう言って、悟(夏子)がいることをよそに、両手で胸を持ち上げて
ゆすった。Tシャツの上から胸の突起がよく分かる。

悟(夏子):「み、みんなの前で何てことするのよっ!」

悟(夏子)は、慌てて夏子(悟)の手を掴み胸から遠ざけた。

真治:「なんで悟が止めに入るんだよ。」

悟(夏子):「だからさっきから言ってるでしょ。わたしが夏子だって。」

夏子(悟):「あれ、悟君じゃない。こんなところに来てどうしたの?」

悟(夏子):「な、何言ってんのよ。あなたが悪いんじゃない。」

夏子(悟):「どうしたの?女言葉なんか使って。悟君、気持ち悪いよ。ねえみんな。」

拓巳:「そうだよ。なんか知らないけど、おまえちょっとおかしいぞ。」

孝司:「おとなしくあきらめろよ。今年優勝したらまた一緒にバンドやればいいじゃないか。」

修也:「そうだ。孝司の言うとおりだよ。」

悟(夏子):「そんな・・・・」

悟(夏子)の目から涙が零れ落ちた。

夏子(悟):「あれ、悟君泣いちゃったよ。そんなに出たかったの?」

悟(夏子):「ヒック・・・ヒック・・・・」

肩を揺らしながらうつむいている。

修也:「悟。すまないが客席で俺たちのことを見ていてくれ。おまえの分まで頑張るからな。」

真治:「そうそう。僕達に任せていてよ。」

夏子(悟):「そう言うことだから、客席に行って応援しててね。」

夏子(悟)は泣いている悟(夏子)の背中を押して体育館の客席に向かわせた。
悟(夏子)は何も言わないまま客席に向かう。

夏子(悟):「さあ、今日は張り切って優勝するわよ!」

孝司:「おおっ!」

修也:「少し時間があるな。ちょっとだけリズムを合わせてみようか。」

真治:「そうだね。」

夏子(悟):「あ、いいっていいって。大丈夫だから。わたしに任せてよ。」

修也:「そうは言ってもいきなり本番はちょっと厳しいんじゃないか?」

夏子(悟):「ううん、大丈夫だから。」

孝司:「でもやっぱり合わせとくほうがよくないか?」

拓巳:「そうだよな。合わせとこうぜ。」

夏子(悟)は今、演奏すると、もしかしたらばれるかもしれないと思ったので、
出来るだけ避けたかった。

夏子(悟):「わ、わたしちょっとお腹の調子が悪いからトイレに行ってくるね。
                その間に4人で合わせといてよ。わたしは大丈夫だから。」

拓巳:「そうは言ってもドラムがいないとなぁ。」

孝司:「そうだよ。リズムを決めるのはドラムなんだから。」

夏子(悟):「あいたたたた。ゴメン、ちょっと行って来るからあわせといてね。
                わたし、いきなり本番でいいから。」

そう言うと、トイレに向かって走り出した。

修也:「お、おいっ、夏美っ!」

修也の制止も聞かずに、夏子(悟)はトイレに行ってしまった。

孝司:「大丈夫かよ、夏子は。」

真治:「さあ、分からないね。」

修也:「まあ、夏子が大丈夫と言ってるんだから。とりあえず俺たちだけでも
         あわせておこうか。」

孝司:「そうだな。」
 

4人はそれぞれの楽器を持ち、演奏を始めた。
ドラムのリズムがないと、少しぎこちない感じもするが
それなりにあわせることが出来た。
 

修也:「これで夏子のリズムがそろえば大丈夫だろう。」

孝司:「ああ、もう時間が無いからとりあえず楽器を横に移動しようぜ。次のバンドと交代する時間だから。」

今年参加するのは10チーム。
去年の優勝チームももちろん参加していた。
ちょうど修也達が3番目、去年優勝したチームは4番目なので自分達が演奏したあとにゆっくり聞く事が出来る。

夏子(悟):「おまたせ。」

楽器の移動が終わった頃に、トイレで時間をつぶしていた夏子(悟)が戻ってきた。

拓巳:「大丈夫?」

夏子(悟):「うん、大丈夫。わたし達は何番目だっけ。」

修也:「3番目だ。もうすぐ最初のバンドが演奏を始めるからな。」

孝司:「おお、なんか俺、緊張してきたぞ。」

真治:「僕もだよ。」

夏子(悟):「だ、大丈夫だって。なんかなるよ。」

修也:「そうだな。演奏を始めれば緊張なんて吹っ飛ぶさ。」

5人はステージの横で他のチームの演奏を聞きながら自分達の出番を待った。
 

そして・・・
 

アナウンス:「次のチームの方、準備をお願いします。」

拓巳:「そらきたっ!」

修也:「さあ、準備をしよう。」

みんな:「おおっ!」

すばやく楽器を並べる5人。
修也が合図をすると、ステージ前の暗幕が徐々に上がってゆく。
だんだんと客席が見えるにつれ、メンバーは緊張に顔をこわばらせる。

修也:「よし、みんな。気合を入れていくぞ!」

修也の言葉に、4人は静かにうなずいた。

一番前の客席に悟(夏子)の姿が見える。
悟(夏子)は、夏子(悟)の方をじっと見つめていた。

・・・そんなに見つめるなよ・・・

夏子(悟)はそう思いながら、バチを4回ならしてリズムを取った。
そのあと、3人が演奏を始める。
夏子(悟)は必死にドラムを叩き始めた。
前奏のあと、修也がボーカルとして歌い始める。

観客達は立ち上がり、リズムに合わせて手拍子を叩いている。
しかし、悟(夏子)だけは座ったまま、腕を組んでじっと演奏を聞いていた。

悟(夏子):「やっぱり・・・前と全然変わってない・・・」

悟(夏子)の胸は、失望感でいっぱいになった。
そして、いつもとは違うリズムを4人は感じ取っていた。

・・・夏子、どうしたんだ・・・
・・・いつもの夏子とはちがうぞ・・・・
・・・やっぱり調子悪かったのか・・・

メンバー4人は、演奏しながら心の中でそうつぶやいていた・・・

夏子(悟)は、ほとんど余裕も無く必死にドラムを叩いている。
自分では十分リズムに乗れていると思っていた。

2曲演奏したあと、ステージの暗幕がゆっくりと下がる。
5人は汗をかきながら、観客が見えなくなるまで手を振りつづけた。
完全に見えなくなった後、4人が一斉に夏子(悟)の方を見て話し掛ける。

孝司:「どうしたんだよ。いつものキレが全然無かったじゃないか。」

拓巳:「なんかリズムもずれていたような気がするし。」

真治:「そうだよ。夏子らしくなかったと思うよ。」

修也:「やっぱり調子悪かったのか?」

夏子(悟):「み、みんな何言ってるの?完璧だったじゃない。あれ以上は
                 無理よ。」

拓巳:「なんでだよ。いつもならもっといい演奏してたじゃないか。」

夏子(悟):「こ、これ以上うまく演奏するなんて・・・」
 

「すいませーん。楽器を移動してもらえますか。次のチームが待ってるんで。」
 

修也:「すいません。話は後だ。とりあえず楽器を移動しよう。」

暗い雰囲気の中、みんなで楽器を移動する。
夏子(悟)には何が悪かったのかさっぱり分からなかった。
とりあえず楽器の移動を終えた5人は、ステージ横に集まった。

悟(夏子):「だからあなただったら優勝できないって言ったじゃない。」

みんなの前に悟(夏子)が現れた。

夏子(悟):「な、なによ。あんたはあっちに行ってなさいよ。」

悟(夏子):「分かってないんでしょ。自分でどこが悪かったのか。」

夏子(悟):「か、完璧だったじゃないか。あ、完璧だったわよ。」

悟(夏子):「もういいでしょ。演奏も終わったんだから、悟君。」

夏子(悟):「・・・・な、何が悪かったんだよ。」

夏子(悟)は男口調で話始めた。

二人の会話を聞いていた4人は、なんのことだかよく分からなかった。

修也:「おい、二人ともなに訳の分からない事を言ってるんだ?」

悟(夏子):「だから演奏する前から言ってたじゃない。わたしが夏子で、
                その夏子の体でいるのは悟君なの。」

拓巳:「・・・ほ、ほんとの話しかよ。」

夏子(悟):「・・・・ああ。俺は悟だよ。昨日小西さんの体と入れ替わったんだ。」

孝司:「う、うそだろ。そんな事。」

夏子(悟):「ほんとだよ。今年こそ絶対に優勝したいと思ってたんだ。もちろん俺のドラムで。
                だから無理矢理小西さんと入れ替わったんだ。」

真治:「そんなことって・・・現実離れしてる話だよ。」

夏子(悟):「そうさ。いつのまにかこの能力が身についてたんだ。おれも始めは知らなかったんだよ。
                でも、いつしか自分にはこんな能力があることに気付いたんだ。」

修也:「それじゃあ、今ドラムを叩いていたのは悟ということか・・・」

夏子(悟):「ああ。おまえたちが1年間練習していたように、俺だってずっと練習してたんだ。
                だから完璧だと思っていた。でも、おまえたちから出た言葉は俺を否定するものばかり・・・
                一体何が悪かったって言うんだよっ!」

悟(夏子):「そんな事も分からないんじゃあドラムを叩く資格なんて無いわよ。
                 今日限りで止めた方が言いと思うけど。」

夏子(悟):「な、なんだよっ、その言い方は!そこまで言うならおまえをドラムを叩けない体にしてやるっ!」

夏子(悟)はそう言うと、自分の両腕をパイプ椅子にぶつけようとした。

悟(夏子):「あっ!やめてっ!」

夏子(悟)の腕を修也が押さえ込む。

夏子(悟):「いたたたたたっ!」

修也:「なにくだらない事やっているんだ。それでも男かっ!」

孝司:「そうだよ。俺、夏子の言うほうが正しいと思うぜ。」

真治:「うん。くやしかったらがむしゃらに練習すればいいじゃない。
          なんなら夏子に教えてもらうとかさ。」

悟(夏子):「あなたが教えてほしいって言うなら教えてあげてもいいわよ。」

夏子(悟):「くっ・・・・そ、そんなに俺は下手なのか・・・」

悟(夏子):「下手って言うか・・・まあ、とりあえずわたしが教えてあげるからさ。
                次の機会があればそのときは正々堂々とあなたがドラムを叩けばいいじゃない。
                 わたし、なんか今日演奏できなかったから熱が冷めちゃった。」

夏子(悟):「・・・ご、ごめん・・・・」
 
 
 
 

・・・・10チームの演奏が終わり、順位が発表される。

修也達の順位は・・・・・2位だった。
優勝は昨年と同じチーム。
ごたごたしていて演奏を聞いていなかったが、かなりよかったらしい。
夏子が演奏していれば優勝できていたかもしれないが、
悟の演奏でも去年よりは一つ順位が上がったのだ。
 
 

修也:「まあ、去年よりは順位が上がったことだし。これでよしとするか。」

孝司:「ああ、悪くなるよりはましだからな。」

拓巳:「でも優勝したかったよなあ。なんたって俺たち、最後の文化祭だったからなあ。」

真治:「仕方ないよ。またみんなで演奏する機会もあると思うよ。」

悟(夏子):「そうそう。演奏したかったらわたしに言ってよ。知り合いの店とかで
                演奏できると思うし。それだったらギャラももらえるかもよ。」

夏子(悟):「そりゃいいな。俺ももっと腕を磨いて小西さんのようにうまくなるよ。」

悟(夏子):「小西さんてあなただけよ。夏子でいいって。」

夏子(悟):「そ、そう。じゃあこれからは夏子って言うよ。」

悟(夏子):「うん。わたしも悟っていうから。」

夏子(悟):「うん、夏子。」

孝司:「話はまとまったようだけど、おまえらどうやって元に戻るんだ?」

夏子(悟):「教えてほしいか?こうやって戻るんだよっ!」

夏子(悟)は孝司に抱きついていきなりキスをした。

孝司:「んんっ!」

まわりのメンバーは唖然としている。

悟(夏子):「う、うそ・・・」

夏子(孝司):「な、何だよ急に。キスなんかして!・・・・えっ!」

自分の声に驚いたが、更には目の前に自分の姿がある。

夏子(孝司):「あ、あれ?ど、どうなってるの?」

体を見下ろすと、テカテカと光る銀のTシャツに身を包んだ女性の姿がある。

夏子(孝司):「こ、これってもしかして・・・夏子の体・・・」

孝司(悟):「そうさっ!どうだ?女の体になった気分は。」

夏子(孝司):「ほ、ほんとに夏子の体なのか。」

夏子(孝司)は、お決まりの胸もみを始めた。

夏子(孝司):「あっ、あんっ!」

その姿に食い入る男子メンバー達。

悟(夏子):「や、やめさいって!」

悟(夏子)の言葉に、我に返った夏子(孝司)。

孝司(悟):「こうやってキスをすれば相手の体と入れ替わる事が出来るんだよ。」

拓巳:「おまえってすごいやつだなぁ。俺も夏子の体にしてくれよ。」

悟(夏子):「何言ってんのよ。わたしの体で遊ばないでっ!」

拓巳:「そんな事言わないでさ。こんなチャンスめったに無いんだから。」

悟(夏子):「もうっ!何考えてるのよっ!」

みんなの会話をよそに、夏子(孝司)は胸を揉みまくっている。

悟(夏子):「コラッ!やめなさいって・・・」

真治:「まあまあ。」

修也:「・・・オッホン・・・いいな・・・・」
 
 
 

・・・・・夏子が自分の体に戻れたのは、数日後の事だった・・・・
 

みんな高校生活の良い思いでが出来た・・・はずである・・・
 
 

優勝できるのか!(後編)・・・おわり
 
 
 

あとがき

修也、孝司、拓巳、真治、悟、夏子・・・・
お姉さんを含めると、全部で7人が登場する話でした。
だから、読む側にとっては非常に理解しづらいところもあったと思います。
でも、何とかボツ作品を最後まで買い上げる事が出来てよかったです。
これもひとえに「dark Roses秘書室」の企画のおかげ。
感謝しております。
あと、夏子のお姉さんの名前である「秋子」は
たかしんにさんの続編からそのまま併用させていただきました。
たかしんにさん、ゴメンナサイッ!そのまま使っちゃいました。

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

Tiraより
 
 
 
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