浮気調査事務所
第1話「婚約しているのに・・・」
 
 
 

「浮気調査、引き受けます。」

ここは駅前にある雑居ビルの4階。
古びたドアの奥には、10畳ほどの小奇麗なスペースがあり、テーブルの両端に
ソファーが並べてある。
そして、奥のテーブルには20代の若者が一人、タバコを吸いながら経済新聞を読んでいる。
彼の名は、「後藤 孝之」。
事務所の社長である。社長といっても社員がいるわけでもなく、ただ一人ですべての事をこなしている。
孝之は、ごく一般的なサラリーマン。気が向いたときにこの事務所に訪れ、来る当ても無い客を待っている。
頭脳明晰、引き受けた仕事は必ず最後までやりとげる実行力。
通常の人間からはおよそかけ離れた能力の持ち主は、更に奇怪な能力までも身につける。
それは、

「他人への憑依」

他人の体に侵入し、あたかもその人物であるかのように振舞う。
憑依した相手の意識を残すことも、封印することも可能なのだ。

この能力をフル活用するための事務所。それが、浮気調査事務所である。

今日も一人、浮気調査を依頼するため、古びたドアを開けた人物がいた。

「あの〜、すいません・・・」

「・・・はい?」

「こちらで浮気の調査をしていただけるんでしょうか。」

「ええ、どうぞ。中に入ってください。そこのソファーに座って。」

「あ、はい。」

孝之は、ポットのお湯を急須に注ぎ、お茶を入れた。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

孝之は、依頼者と対面になるように、テーブルを挟んだソファーに腰をおろした。

依頼者は、女性だ。
孝之と同い年くらいだろうか。ショートカットの彼女は、茶色のスーツに身を包み、背筋を伸ばして
姿勢よく座っている。

「・・・で、こちらにはどのような用件で。」

孝之はお茶をすすりながら彼女に問いかけた。

「私は七瀬 静江と申します。実は、婚約している男性がいるんですけど、
どうも同じ職場の女性と交際しているみたいなんです。うわさでも聞いたんですが・・・
本当のことはよく分からないんですけど、最近彼の行動がどうも怪しくて。」

「ほう、一体どのように怪しいんですか?」

「彼、携帯持っているんですけど、電話がかかってくるとわざわざ向こうに行って話しているんです。
  誰からか聞いてみると、会社の上司からだって・・・
  別に私の前で電話をしてもいいはずなのに、何か怪しいんですよ。
  上司の名前も言わないし・・・
  それに、この前の休みの日だって、私と買い物している最中に電話がかかってきて、
  表示を見たとたん、トイレに行ってくるってデパートの中に入っていったんです。
  私、どうも納得いかなくて、彼に黙って彼の携帯電話の着信履歴を調べたんです。
  そしたら、新人の久美ちゃんの名前があったんです。しかも何度も。」

「なるほど。その久美という女性が怪しと・・・」

「ええ、彼女はかわいくて愛想がいいから男性社員にはとても人気があるんです。彼も結構気にいっている
みたいで、楽しそうに話をしているのを見たことがあります。」

「で、私にどうしてほしいんですか?」

「彼と久美ちゃんが付き合っているか調べてほしいんです。」

「それだけでいいんですか?」

「・・・あの・・・もし付き合っているのなら・・・久美ちゃんと別れてほしいんです・・・」

「そうでしょうね。婚約している男性を取られたんじゃあ、あなたもつらいでしょう。世間体にも。」

「でも、会社の中であまり問題を起こしたくないんです。彼の出世にも影響するし、
  久美ちゃんともこのまま仲良くやっていきたいし。」

「そりゃあ七瀬さん、あなた、虫が良すぎるんじゃあないでしょうか。このようなケースだと、必ず誰かが
犠牲になるものです。それが、3人のうち誰になるかは分かりませんけどね。」

「・・・わたし、彼と結婚して幸せになりたいんです。だから・・・お願いします。
 私を助けてください。」

静江は、目に涙を浮かべながら孝之にお願いしている。
そんな静江を見ながら、孝之はお茶をすすり、

「・・・分かりました。あなたの依頼、引き受けましょう。ただし、私の言うとおりに行動してくださいよ。
  でないと、あなたが不幸になるかもしれませんからね。」

と依頼を受けることにした。

「はい!ありがとうございます。ところで、費用はどのくらいかかるのでしょうか?」

「費用はお金じゃないんですよ。それにあなたの気付かないうちにいただきますから。」

「???そうなんですか。」

「ええ、そうです。では、具体的な話に入りましょうか・・・」

孝之は、静江と打ち合わせを行った。
何十分か話した末、

「要は、久美という女性が会社をクビになればいいのです。そうすればあなたと彼は心置きなく結婚できるでしょう。」

「そ、そんな。クビだなんて・・・それに彼女はクビになんてなりませんよ。仕事はそこそこやっているし男性社員にも
人気があるし。」

「それは大丈夫です。彼女はきっと会社を辞めることになりますよ。」

「どうしてそんな事分かるんですか?」

「私に任せてください。数日後には彼女は自分から会社を辞めることになりますよ。」

「・・・私、よく分かりませんけど・・・後藤さんがそうおっしゃるのならきっと・・・久美ちゃんにはかわいそうだけど、
 私たちの未来のために。後藤さん、よろしくお願いします。」

「ええ、任せておいてください。おっと、そうそう。あなた達の会社ってどこにあるのですか?それを聞いてなかった。」

「あ、すいません。地図を書きますね。」

七瀬さんは、名詞の裏に地図を走り書きをして後藤に渡した。

「それじゃあ、よろしくお願いします。」

「ええ、帰りはお気をつけて。」

後藤は静江を見送った後、お茶をグッと飲み干した。

「久しぶりだな。彼女の会社の新人か・・・19、20歳くらいだろう。明日は一暴れしてやるか。」

後藤は窓から走っている車を見下ろした。
すでに日は落ち、辺りはもう暗くなっていた・・・
 
 
 
 
 

次の日・・・

「西野さん!今日のお昼は一緒にお食事に行きませんか?」
かわいい声で彼に話し掛けているのは「東田 久美」。
今年入社した新人だ。

「あ、俺、今日は静江と約束しているから。また今度な!」

「ちぇーっ、つまんないの〜っ」

久美は、ほっぺたをプクッと膨らませて怒ったフリをしている。

「そんなに怒るなよ。ほかにも男性はいっぱいいるじゃないか。よりによって婚約している俺じゃなくたって。」

「だって、西野さんがいいんだもん。」

「はぁ、とにかく今日はダメだ。じゃあな。」

「ベーだっ!」

久美は、歩いて行った光一の背中に向かってベロを出した。

今、久美と話していたのが、七瀬静江と婚約している「西野 光一」。
会社ではエリート路線をひた走っている。
静江と仲良くなったのがちょうど1年前。たまたま同じプロジェクトでメンバーになり、仕事をしているうちに
だんだんと惹かれ合い、1ヶ月前に婚約した。
二人の婚約には、みんな賛成し応援してくれている。
しかし、この前入社した東田久美が、光一に目をつけてしまったのだ。
女性社員からはかなり顰蹙(ひんしゅく)だが、男性社員にはとても愛想がいいのでそれほど
やかましく言われることは無い。
なので、今は久美のやりたい放題といったところだ。
 
 

「はぁ、はぁ。遅くなってごめんね。仕事が忙しくて。」

光一は、受け付けのある広いロビーで待っていた静江に謝った。

「ううん、いいのよ。早く行きましょ!きっともう並んでいるわ。」

手を取り合いながら、二人は行列の出来る店に走った。
息を切らせながら行列に並び、10分ほどして店内に案内される。
出されたコップの水を飲みほした二人は、ようやく落ち着いた雰囲気になった。

「あー、もう疲れちゃったよ。」

「私も。お腹がすいているときに走ったら気分が悪くなっちゃうね。
 今日はあっさりしたのを食べようかな。」

「そうだね。それじゃあ和食定食なんかがいいんじゃないかな。」

「うーん、そうねぇ。どうしようかな。・・・えっ!」

一瞬静江の体が固まった。そして、頭をガクッと落としたあと、ビクッ、ビクッと小刻みに震えだした。

「んっ?静江、どうかしたのか?おい、静江。」

光一が心配そうに話し掛けると、静江の体の震えが止まり、スッと頭を上げた。

「大丈夫か、静江。」

「・・・ええ、大丈夫よ。」

静江は自分の両手を顔の前に出し、ゆっくりと確認したあと目線を下に向けてまじまじと体を見ている。
紺のスーツに膝上までしかないタイトスカート。自分の太ももを触りながらニヤけている静江を見て、

「なにやってんだよ静江。早くメニューを決めろよ。」

光一は、静江の行動を不思議そうに見ながらそう言った。

「あ、私ステーキ定食にするわ。」

「ス、ステーキ定食?おまえ、さっき気分が悪いからあっさりしたものを食べるって言ってたじゃないか。」

「もう気分が良くなったの。ねえ、あなたは何にするの。」

「俺は和食定食にするよ。まだ気分が悪いから。」

「そう、じゃあ頼むわね。」

静江はウェイトレスを呼び止め、ステーキ定食と和食定食を注文した。

「早く来ないかな。」

「今注文したばかりじゃないか。」

「そうね。へへっ」

しばらくして、それぞれの定食がテーブルに並んだ。

「じゃあ食べよっか。」

「うん。いただきます。」

「いただきま〜す。」

静江はステーキを勢いよく食べ始めた。

「ビールも飲みたいわね。」

「えっ、昼間から何いってんだよ。まだ会社があるんだぜ。」

「あ、そうだった。会社っていえば、光一、久美ちゃんのことどう思ってるの?」

いきなりの質問に、光一は食べ物が喉につかえてしまった。

「ゴホッ、なっ、急に何でそんな事聞くんだよ。」

「なんかうわさで聞いたんだけど、あなたと仲がいいそうじゃない。私は別の部屋だから
分からないけど、結構二人でイチャイチャしてるんじゃないの?」

「バ、バカだなあ。そんなことするわけ無いだろう。俺達婚約してるんだぜ。」

「ふーん、それならいいけど。まあ、どっちみち彼女は今日か明日には会社辞めちゃうけどね。」

「えっ、そうなのか?」

「うん、そうだよ。」

「何で辞めるんだ?彼女は仕事もこなすし、みんなに嫌われているわけでもないし。結婚でもするのか?」

「さあ、どうしてでしょうね。私にはわからないけど。」

「そうか、彼女、辞めちゃうのか。」

「何?さびしいの?私がいるのに。」

「い、いや、そう言うわけじゃないんだ。明るい子だったし、結構存在感あったからな。急に辞めたら
  職場の雰囲気も変わるかなって思っただけだよ。」

「そんな事言って、ほんとは付き合ってるんじゃないでしょうね。」

「だからそんな事無いって!」

「まあいいわ。辞める子の事なんかどうだっていいし。」

「静江、彼女と仲良かったんじゃないのか。それなのに、そんな言い方して。」

「いいのいいの。私は私だから・・・」

定食を食べ終わり、勘定を済ませた二人は会社へ向かって歩き始めた。

「あーおいしかった。やっぱりあそこのステーキは最高ね。」

「よく食べたよな。おまえはいっつも残してたのにな。」

「そうだっけ。さてと、それじゃあ、そろそろ・・・」

静江はそう言うと、足を止めた。一点を見つめ、先ほどと同じように小刻みに震えている。

「んっ?静江?」

静江は、その場に倒れそうになった。しかし、光一が彼女をしっかりと支える。
ふと我に返り、きょろきょろと周りを見たあと、光一と目が合った。

「あ、あれ?光一?今、私にごちそう様って言った?」

「いや、俺は言ってないけど。」

「おかしいなあ。確かにごちそう様って聞こえたんだけど・・・そう言えば私・・・
 あれ、もうご飯食べたの?」

「はぁ?何言ってんだよ。今食べたばかりじゃないか。大きなステーキ丸ごと1枚。」

「??そうなの。そういえば、お腹がくるしいよ。」

「今日は何かおかしいぞ。どうしたんだよ。」

「・・・・私、ご飯食べた記憶が無いの。何でだろう。」

「記憶が無いって・・・忘れたのか?」

「んー、忘れたって言うか、全く食べた覚えが無いのよ。」

「はぁ?静江、一度病院に行こうか。」

「ううん、大丈夫、大丈夫だから・・・」

訳が分からないまま、静江は会社に戻った。
 
 
 
 
 

会社に戻った二人は、別の部屋に入り、それぞれの仕事をこなし始める。

「あ〜、光一さん、今帰ったんですか。」

「おいおい、下の名前で呼ぶなよ。」

「いいじゃないですか。私と光一さんの仲なんだから。」

「久美ちゃん、頼むからよしてくれよ。」

「だって光一さんも私の事、久美ちゃんて呼んでるじゃないですか。これってセクハラになるんですよ。
 知ってました?」

「し、知らないよ、そんなの。下の名前呼んだだけでセクハラになるのかい?」

「そうですよ。でも、光一さんだったらOKですから。いつでも久美って呼んでくださいね。」

「はぁ・・・」

光一は自分の椅子に、ドサッと座り込んだ。

「何か疲れるなあ。彼女と話していると。」

そう思いながら彼女とチラッと見た。
久美は、自分の机で書き物をしている。しかし、光一は、ふと彼女の異変に気づいた。
彼女はシャーペンを持ったまま1点をずっと見つめている。

「んっ?」

光一は不思議に思い、彼女をずっと見ていた。
よく見ると、彼女の体がビクッ、ビクッと振るえている。
そして、それが10秒ほど続いた後、また元通り書き物を始めた。

不審に思った光一は、彼女の元まで歩み寄った。

「ねえ久美ちゃん、今、体が震えてなかった?体調でも悪いのか?」

「えっ?私は大丈夫ですよ。」

笑顔で答えた久美だが、左手はなぜか胸を揉んでいる。

「く、久美ちゃん。ここは会社なんだからそんな事しちゃまずいよ。」

「はい?そんなことって?」

「左手だよ。左手。」

「左手って、私の?」

そう言って久美は、自分の左手のある場所を見た。
そこには、自分の意志とは無関係に動いている左手がある。
紺のスーツの上から胸をゆっくりとやさしく揉んでいるのだ。

「ええっ!なんでっ?」

彼女は驚いてパッと胸から左手を離した。

「私、今何してたの?」

「何してたって・・・自分でやってて分からなかったのかい?」

「だって、知らない間に左手が・・・」

そう話しているときに、

プルプルプルプル・・・・

彼女の前に置いている電話が鳴り始めた。

「あ、電話。」

彼女は急いで受話器を取った。

「お待たせいたしました。○○商事でございます。」

久美が電話の対応を始めたので、光一は自分の席に戻り、仕事を始めた。

「はい、その件につきましては・・・」

彼女は、難なく電話の対応をこなしている。

「そうです。この前お話した通りの見積もりで・・・あっ・・・」

久美の口からは、なぜか吐息まじりの切ない声が漏れた。

「んんっ・・・す、すいません。あっ・・それは・・・明日の10時に・・・んっ」

しきりに下を向き、右手の動きを見ている。
久美は左手に受話器を持ち、右手は捲り上げたタイトスカートの中にあった。
右手が久美の意思とは無関係に動いている。なぜか、自然に両足が開き、
右手を導いている。

・・・な、なんで・・・右手が勝手に・・・

「ああ、お、お客様・・・おまちくださ・・はあっ・・・す、すいません・・・あんっ・・・」

右手は激しく久美の股間を刺激していた。電話の相手は怒って途中で電話を切ってしまったようだ。
久美は悶えながら受話器を元に戻した。すると、スッと右手が股間から離れ、両足も
自分の意志で動くようになった。

・・・どういうこと・・・

久美はだんだん不安になってきた。

・・・あんたはもうじき会社を辞めるんだよ・・・

頭の中で声が聞こえる。

「えっ、何?今の。」

・・・俺はおまえの体に憑依しているのさ。だからおまえの体は俺の思うままだ。さっきは気持ちよかっただろ。・・・

久美の頭は混乱している。

「どういうことなの。」

・・・おまえは他人の幸せを壊そうとしている。だから罰を受けなければならない・・・

「私が幸せを壊そうとしている?一体誰の幸せを壊そうとしているっていうの。」

・・・どうやら自分が取っている行動が分かっていないようだな。仕方ない、やはり会社を辞めてもらうとするか・・・

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうしてよっ。」

それっきり声は聞こえなくなった。

そこに、また電話が鳴り始める。

久美は恐る恐る電話を取った。

「はい、○○商事でございますが。」

どうやら先ほどかかってきていた会社らしい。

「あの、先ほどは申し訳ありませんでした・・・あうっ・・・なーんちゃってね。
おまえの会社なんかと契約するかよ。このスケベ親父が。二度と電話してくんなよっ!」

そう言って、電話を切ってしまった。

「ああ・・・わたし・・どうして・・・」

思わず両手で口を押さえる。

隣で聞いていた女子社員が目を点にしていた。

「ねえ、久美。今のって大事なお客さんなんじゃないの。」

何もいわず首と縦に振る久美。

「どうしてあんな事言ったの?やばいよ。」

「・・・ど、どうしよう・・・」

「どうしようって、あなたが言ったんじゃないの。」

「わ、私じゃないの。誰かが勝手に私の・・・あうっ・・・ううん、なんでもないの。気にしないで。
 大したことじゃないから。」

急に口調が変わった久美は、ニコニコしながら立ち上がった。

「わたし、ちょっと化粧室に行ってくるね。」

そう言いながら、机の引出しから化粧道具を取り出し、化粧室に向かって歩き出した。

「あの子、ほんとに大丈夫かしら。」

女子社員は久美の後姿を見つめていた。

・・・・いやだ。どうして勝手に歩いているの・・・

「こんにちは。」

すれ違う社員に笑顔で挨拶をしながら化粧室に向かう。
自分の口から勝手に言葉が出ている。

・・・ああ、誰か。助けて・・・

久美は頭の中で叫んでいた。

久美の体は、化粧室のドアを開け、大きな鏡の前で止まった。
ニヤニヤしながら自分を見つめている。

「どうだ、自分の体が使われているってのは。」

独り言を言っているかのように、鏡に向かって話し掛けている。
その後、スッと久美の表情が引きつった。

「わ、私の体を勝手に動かさないでよ。」

頭の中で、声が聞こえる。

・・・・首から上だけおまえの意思で動かせるようにしてやったんだ。楽しいだろ。・・・・

「もう止めてよ。私の体から出て行って!」

必死で話しかけるが、首から下は全く動こうとはしない。

・・・楽しいことしようぜ。なあ、じっくりと鏡を見ていろよ。・・・

それきり声は聞こえなくなった。
しかし、その代わりに両手が勝手に動き始めた。
久美の両手は、タイトスカートの裾を掴むと、ゆっくりと上に捲り上げ始めた。

「い、いや・・・やめて・・・」

久美は顔を引きつらせて両手の行動を見ている。
しかし、両手はそのまま上に移動し、パンストに包まれたピンクのパンティを鏡に映し出した。

「ああ・・・おねがい・・・ゆるして・・・あうっ!・・・どう、私のパンティ、かわいいでしょ。」

また自分の意志とは無関係に声が出る。

・・・い、いやよ・・・こんなの・・・

「ふふっ、私って結構プロポーションいいわね。」

今度は、スーツを脱ぎ始めた。前に付いているボタンをひとつづつ外し始める。

「この会社は暖房きかせすぎなのよね。結構暑いのよ、スーツって。」

そう言いながらすべてのボタンを外し終わった久美は、白いブラウスと紺のタイトスカート姿になった。
タイトスカートがめくれ上がり、とてもいやらしい格好に見える。

・・・おねがい、もうやめて・・・

「さて、次はどうしよっかなあ。やっぱり次は・・・」

久美はニヤッと笑いながら、ブラウスの二つの膨らむを両手で揉み始めた。指で突起を摘みながら
優しく揉んでいる。

・・・うっ・・・いやだぁ・・・・ほんとにもう・・ゆるして・・・

泣きたい気持ちでいっぱいになっているのに、鏡に映る久美の顔はニヤニヤと笑っている。

「いいよねえ。心で泣いて、顔で笑ってるってのも。まだまだこれからだからね。」

そう言うと、パンティに右手を忍ばせ、一番感じるところを触り始めた。

「んんっ、ここがいいよぅ。すごくきもちいいわ・・・ねえ、久美ちゃん・・・」

・・・あうっ・・・そ・・そんな・・・・んんっ・・・や・・・やだ・・・

「ねえ、感じるだろう。まるで他人に触られているような感覚だよね。もっと気持ちよくしてあげるから。んあっ!」

久美の右手は、パンティの中で、更に激しく動き出した。
久美は、鏡に映る自分の姿を強制的に見せられている。

・・・・ああっ・・・私が・・こんなこと・・・んんっ・・鏡の前で・・・し、しんじられない・・・

「んんっ・・そうだろう・・・鏡の前でやってるんだぜ・・・ああんっ・・だ、だいぶ出来上がってきたな・・・はんっ・・・」

喘ぎ声を漏らしながら、久美は右手をパンティの中から抜いた。指にはネチャネチャとした液体がついている。

・・・・はあ・・はあ・・もう・・私の体・・・返して頂戴・・・

「まだまだ、確か化粧道具の中には・・・あったぞ。」

久美は、化粧箱から携帯用の小さな歯ブラシを取り出した。

「この歯ブラシの先端がいいんだよな」

そう言うと、歯ブラシをパンティの中に入れ始めた。

・・・ちょ・・ちょっと・・一体何を・・・あんっ!・・・

「あんっ・・・これこれ・・・この無数の毛先がここに当たって・・・ああっ・・・いいだろー」

久美は歯ブラシの突起が一番感じるところに当たるよう、パンティの中にセットした。

そして、周りから気付かれないように、タイトスカートを下ろた。

「あとはスーツを着て・・・」

鏡に映る久美の姿は、化粧室に入ってきたときと全く同じだった。
ただ、パンティに潜ませている小さな歯ブラシを除いて・・・・

「よし、また首から上はおまえの意思で動くようにしてやる。せいぜい他人に悟られないようにするんだな。
  こんな事ばれたら、会社にいられないからな。」

そう言ったあと、首から上だけが久美の意思で動かせるようになった。

「ねえ、お願いだからゆるして。もうすぐ会議があるの。大事な会議だから抜けられないの。
 頼むから。ねっ。

また頭の中から声がする。

・・・どこで会議があるんだよ。俺が動かしてやるよ。・・・

「・・・先に私の机まで行って資料を取らなければならないの。その後は204会議室へ。」

・・・へへっ。任せとけよ。表情変えるなよ。・・・

そう言った後、声が聞こえなくなった。
そして体が勝手に歩き出す。

「ええっ!あああっ!や・・や・・だめっ!・・・止まって・・・ああん・・」

歩き始めると歯ブラシの毛先が感じるところに擦れて、なんともいえない快感が押し寄せてくる。
しかし、久美の願いも空しく、勝手に化粧室を出て机に向かって歩き始めた。

「うあん・・・はぁ・・く・・・・くうん・・・」

久美は、眉を歪めながらも必死に表情を変えないようにしている。
首から下は、何事も無いかのようにスタスタと歩いていた。

何とか机の前まで来ると、急に両手の自由が利くようになった。
久美は必要な資料をあつめ、左脇に抱えた。
すると、また両手の自由が利かなくなり、自然に歩き始めた。

「うっ・・・はやく会議室に・・・おねが・・い・・・くぅっ・・」

廊下をすれ違う人たちと目をあわさないように、ずっと俯いている。

・・・おいおい、そんなに下を向いてたら周りが全然見えないぜ。どの会議室か分からないじゃないか・・・

頭の中で声が聞こえた。

・・・そんなに下を向いているんだったら、こんなことするからな・・・

歩きながら久美の右手が、タイトスカートの前を触り始めた。
タイトスカート越しに歯ブラシの柄を掴むと、それを上下に動かし始める。

「ひやっ!」

思わず大きな喘ぎ声が出てしまう。

「あああ・・・あっ・・・あっ・・・・いや・・・やっ・・・・やだ・・・て・・・てを・・とめ・・・て・・・・ん・・んんっ・・・」

・・・おとなしく前を見てればいいんだよ・・・

「んあっ・・やっ・・・わ・・・分かったから・・・んぐっ・・・お・・おねがいっ!・・・はぁっ・・・」

そう言うと、右手の動きが止まった。

「はあ、はあ、はあ・・・」

久美の意識は朦朧(もうろう)としている。ただでさえ感じているのに、
こんなことをされたらもう我慢できなくなる。

「こ・・ここよ。」

目の前に会議室のドアがある。

ゆっくりとドアを開けると、円卓にみんなそろって座っていた。

「東田君、ここに座りなさい。」

「は、はい・・・」

久美は、最後に椅子に腰掛けた。
全部で10人ほどいる。

「これで全員そろったな。それでは定例会議を行う。まずは竹下君から。」

「はい、私の担当しているエリアの・・・・」

会議が始まった。一人ずつ担当している地区の状況を話すようだ。

・・・おい、ヒマだろ。またいい事してやるからな・・・

そういうと、久美の両足が開閉を始めた。

「んっ・・・・」

久美は歯を食いしばり、声が出るの我慢した。

足を開閉するとパンストのゴムが締まったり緩んだりして、その度、歯ブラシが感じるところに
押さえつけられたり離れたりする。

「ぁ・・・ぁ・・・ぁ・・・」

その気持ちよさに、小さく喘ぎ声が漏れる。
しかし、久美は既にそれを拒んではいなかった。
体を好きなように操られ、強制的に快感を感じさせられた久美は、理性と欲望が葛藤していた。
・・・このままずっと気持ちよくなりたい・・・
そんな思いが頭によぎる。

「・・・君」
「東田君!」

久美はハッと気づいた。いつの間にか自分の番が回ってきていたようだ。しかも、勝手に体が立ち上がっていた。

「す、すいません。」

また両手だけが自由に動くようになっているので、資料を持って話し始める。

「私が担当していたエリアでは、□□サービスの契約がと・・ああっ・・とりあえず・・・はぁ・・・順調に・・・んっ」

「どうしたんだね。調子が悪いのか?」

 「あっ・・いいえ。大丈夫です・・・んんっ・・・」

資料を左手で持ち、右手は口を押さえている。

・・・気持ちいいだろ〜。早く話さないとうたがわれるぞ〜・・・

久美の体は、ちょうどテーブルがタイトスカートを押さえるようになる位置に立っている。
ゆっくりと体を前後に揺らしている。
そのたびに歯ブラシが感じるところを刺激しているのだ。

「ですから・・・・この・・・はあ・・・も・・・もう・・・・」

「ん?どうした。」

「ああ・・・わたし・・・もう・・・もう絶えられない!・・ああっ・・んんっ・・もっと・・・もっと動かして・・あっ・・・あっ」

ついに久美の理性が崩壊した。

両手でタイトスカートをめくり上げ、パンティの中に手を入れ、歯ブラシを上下に動かし始めた。

「あっ・・あっ・・・きもちいい・・・んっ・・んっ・・・んっ・・・あうっ・・・いい・・いいよぅ・・・」

その姿に、全員があっけに取られている。

「す・・・すごい・・・・いい・・・くっ・・・た・・・たまらない・・・ああっ・・・あっ・・」

「ひ、東田君。会議中に何をしているんだ!」

「だ・・だって・・・すごくいいんだもん・・・うはっ・・やんっ・・・あんっ、あんっ」

「お、おい!誰か彼女をつまみ出せっ!」

「は、はい。」

狂ったようにもがきつづける久美を、社員が外へ連れ出した。このとき、既に久美の体は
すべてが自由に動くようになっていた・・・
 
 
 
 
 
 

数日後・・・

「辞めちゃったね。久美ちゃん。」
「あの子がねえ、まさかあんな事するなんて。」
「光一ったら・・・残念なの?」
「いや、そうじゃないんだ。電話の対応で会社に多大な損害を与えて、しかも会議中に変なことするなんて・・・
 いままでの久美ちゃんには考えられないことだよ。」
「そうね。一体どうしちゃったのかしら。」
「わからない。でもさ、彼女がああなる前におかしな行動を取ってたんだよ。」
「おかしな行動って?」
「ああ、何かさ、彼女の体が固まったようになって・・・小刻みに震えだしたんだ。
  それからだよ。彼女がおかしくなったのは。」
「ふーん、そうなんだ。」
「まあ、関係ないだろうけどね。」
「うん、そうね。私たちには関係ないね。」
「ああ、そうさ・・・・」
 
 
 
 
 

コンコンッ!
 
 

「はい。」
「あの、この前依頼をお願いした七瀬です。」
「ああ、どうぞ、開いてますよ。」
「失礼します。」
「まあそちらにおかけになってください。」
前に静江が来た時のように、二人ともソファーに腰掛けた。

「どうですか。あなたの思惑通りになったでしょ。」
「ええ、まさか彼女があんな風に辞めるなんて思いませんでした。」
「そうですか、世の中何があるか分かりませんからね。」
「はあ、ところで後藤さん。依頼料のほうはどうなったんでしょうか?」
「ああ、そのことですか。すでにちゃんといただきましたよ。おいしいステーキをねっ・・・」
 
 
 

・・・おわり
 
 

本作品の著作権等について

    ・本作品はフィクションであり、登場する人物・団体名等は、すべて架空のものです
    ・本作品についての、あらゆる著作権は、すべて作者が有するものとします。
    ・よって、本作品を無断で転載、公開することは御遠慮願います。
  inserted by FC2 system