彼女を意のままに・・・(前編)
 
 

研究所の玄関前。
今までなかったアンテナのようなものが屋根の上に付いているのを
不思議に思いながら研究所の中に入る少年が一人。
 

陽一:「ねえ博士。屋根の上に付いているアンテナ、どうしたの?」

博士:「んん。あれはな、今度新しく開発した機械の一部じゃよ」

陽一:「新しく開発した?またへんな物作ったんじゃないの?」

博士:「何を言うか陽一。わしはいつでも画期的な発明しかしておらんじゃろ」

陽一:「そうかな。今までまともな物がなかったような気がするけど」

博士:「まあよいわ。せっかくおぬしに使わせてやろうと思っとったのに。
          残念じゃのう」

陽一:「何だよそれ、教えてよ」

博士:「小学生のおぬしに教えても分からんじゃろうがな・・・」

陽一:「もったいぶらずに早く教えてよっ」

博士:「仕方ないのう・・・うむ。これはのう。自分の意識を相手の潜在意識に送り込む
          装置なんじゃよ。」
 

部屋の中央に置かれている装置に手を置きながら話す博士。
 

陽一:「意識を相手の潜在意識の中に送り込むって?」

博士:「うむ。言い方を変えれば、わしの意識をおぬしが気付かない意識の中に
          潜り込ませるということじゃ」

陽一:「う〜ん・・・それがどうしたの?」

博士:「例をあげて説明するとしようかのう。
          例えばじゃ、わしがおぬしの潜在意識に潜り込むとするぞ。
          しかし、おぬしはわしの事をまったく意識しないんじゃ。
          それは、わしが潜在意識の中にいるからじゃ。」

陽一:「うん」

博士:「ここからなんじゃが、おぬしの潜在意識に潜り込んだわしは、おぬしの目を
          通して色々な所を見ることが出来る。おぬしと身体の感覚を共にする事が出来るんじゃな」

陽一:「へぇ・・・」

博士:「もちろんわしが陽一の身体を動かす事は出来ん。あくまでおぬしが自分の意思で
          動く事を共有するだけじゃからのう」

陽一:「ふ〜ん・・・」

博士:「しかしじゃ、全く何も出来ないというわけじゃないんじゃ」

陽一「どういうこと?」

博士:「おぬしの意識に働きかける事は出来るということじゃ。そうじゃな、例えば
          おぬしがテレビアニメを見ているしよう。しかし、わしはニュースが見たい。
          そういうときには、おぬしの意識に働きかけるんじゃ。ニュースが見たいと」

陽一:「どうなるの?」

博士:「おぬしはそのうちニュースが見たくなると考えるようになるんじゃよ。
          そして、何気なくニュース番組をみてしまう。結果として、わしが見たい
          ニュースが見れるというわけじゃな」

陽一:「へぇ〜、そうなんだ」

博士:「わしがジュースを飲みたいと思えば、おぬしの意思でジュースを飲む事になる。
          潜在意識の中に隠れているわしが命令しているとも知らずにのう」

陽一:「なるほどね。そんなことまで出来るんだ」

博士:「すごいじゃろ」

陽一:「すごいね。今までで最高の発明だよ」

博士:「褒め言葉として受け取っておくぞ」

陽一:「その機械を使えば相手の潜在意識に潜り込めるんだ」

博士:「そのとおり。屋根の上についていたアンテナはな、この機械を頭につけた人の意識を
          飛ばすための物なんじゃよ。アンテナで照準を合わせて、意識を飛ばすというわけじゃな」

陽一:「そっか・・・」

博士:「これを使えば、おぬしの言っておった事が実現できるじゃろ」

陽一:「ああ、そうだね!これなら使えるよ」

博士:「学校の帰りにここに立ち寄るように言っておいてやったからのう。
          そろそろこのモニターに映る頃じゃろ」

機械の横に付いているモニタには、アンテナの左記につけられたカメラからの映像が
映っている。アンテナの向きを変えると、カメラの映像も同じように変わっている。
 

博士:「さきにこの機械を頭に付けておくんじゃ」

陽一:「うん」
 

陽一はコードの付いた柔らかい帽子のようなものを頭にかぶった。
そして、機械の近くにあるソファーに座り込んだ。
 

陽一:「これから僕はどうすればいいの?」

博士:「そのまま座っていればいいんじゃよ・・・・おお、モニターの範囲に映り始めたぞ」

陽一:「ほんと?」

博士:「ああ、おぬしはそのままにしておれ。わしが照準をあわせて意識を飛ばしてやるからの」

陽一:「うん」
 

陽一はソファーに深く腰を沈めると、モニターに映る人物を眺めていた。
 

博士:「よし、今じゃ!」
 

博士がボタンを押すと、機械がグワンッと音を立てて動いた。
 

陽一:「わっ!」
 

頭を締め付けられるような気がしたかと思うと、一瞬にして目の前が真っ暗になる。
陽一は、全身の力が抜けたように、ソファーで眠りについてしまった・・・
 

博士:「うむ。どうやら成功したようじゃな」
 

白いあごひげを撫でながら、しばらくモニターを眺めている。
モニターに映っていた人物が、研究所に入ってきたところで
機械のスイッチを切り、陽一の頭からコードの付いた帽子を取りはずした。
 

「こんにちはぁ」
 

明るい元気な声と共に、一人の女子高生が部屋の中に入ってきた。
 

博士:「おお、待っておったよ。」
 

梨帆(りほ):「ふう、今日はつかれたぁ」
 

カバンをテーブルの上に置き、椅子に座る梨帆。
 

梨帆:「あれ、陽一君も来てたの」

博士:「おお、そうなんじゃ。少し前に来ていたんじゃがな、疲れているようで
          すぐに寝てしもうたんじゃよ」

梨帆:「そっか。かわいい寝顔だね、陽一君って」

博士:「まあのう」

梨帆:「ところで博士、急に呼び出したりなんかしてどうしたの?」
 

梨帆が椅子から立ち上がり、近くに置いてある冷蔵庫からミルクを取り出す。
 

博士:「うむ。大したようでな無いんじゃがのう・・・」
 

梨帆がコップにミルクを入れ、テーブルまで持ってくるのをじっと見ている博士。
 

博士:「どうしたんじゃ?今日はミルクなんぞ飲んだりして。いつもはアップルジュースじゃろ」

梨帆:「う〜ん・・・何となく飲みたくなっちゃった。ほんとはミルク、嫌いなんだけどね」

博士:「ここでミルクを飲むのは陽一くらいのもんじゃからな」

梨帆:「いいでしょ、飲んだって」

博士:「別に構わんよ。しかし、早速やりおるのう・・・」

梨帆:「なにが?」

博士:「いや、なんでもないんじゃよ」

梨帆:「ふ〜ん・・・」
 

そう言いながら、ミルクを二口ほど飲む。
 

梨帆:「・・・美味しい気がする・・・」

博士:「そうか」

梨帆:「うん。美味しいよ、このミルク」

博士:「なるほどのう」

梨帆:「あ、博士。ハンガーある?」

博士:「ハンガー?」

梨帆:「うん。ブレザーを掛けとこうと思って」

博士:「おお、そのハンガーか。そこにあるじゃろ」
 

博士が指差した方向には大きめの棚がある。
梨帆が椅子から立ち上がり、棚の中からハンガーを取り出した。

おもむろに紺色のブレザーを脱ぎ、ハンガーに掛ける梨帆。
 

梨帆:「今日の部活、すごくきつかったんだ」
 

そう言いながら、今度は白いブラウスのボタンを外し始める。
 

博士:「おいおい梨帆ちゃん、どうしてブラウスまで脱いどるんじゃ」

梨帆:「えっ・・・・あ、うん」
 

返事をしながらもブラウスのボタンを最後まで外し、ブレザーと
同じようにハンガーに掛ける。

白いブラジャーに紺色のスカート姿になった梨帆は、
そのままテーブルの椅子に腰掛けた。
 

博士:「やりすぎじゃよ、陽一は」

梨帆:「陽一君がどうしたの?」
 

ソファーの上で深く腰掛けて眠っている陽一を見ながら梨帆が答えた。
 

博士:「わしはどこを見て梨帆ちゃんと話せばいいんじゃ」
 

ブラジャーしか付けていない梨帆の上半身を目の前にしながら
何とも申し訳なさそうに目線をそらす博士。

テーブルの上に置いてあったミルクを一気に飲み干した梨帆。
 

梨帆:「ところで博士、さっきの用って?」

博士:「ん・・・・ああ、もういいんじゃ。成功している事が良く分かったからのう」

梨帆:「成功している事って?」

博士:「まあ大した事じゃないんじゃよ。部活も大変だったんじゃろ。
         話はまた明日にして、今日はもう帰ったほうがいいだろう」

梨帆:「ふ〜ん・・・別にいいけど。ま、それならまた明日来るわ」
 

そう言うと、また椅子から立ち上がり、ハンガーに掛けてあった
ブラウスとブレザーを着込んだ。
 

博士:「気をつけて帰るんじゃぞ」

梨帆:「うん、分かった。えっと・・・・・博士」

博士:「ん?なんじゃ」

梨帆:「うん・・・・なんか完璧みたいだよ」

博士:「何がじゃ?」

梨帆:「よくわからないけど。何となくそう言いたくなっちゃった」

博士:「・・・・そうか」

梨帆:「じゃあね」

博士:「ああ」
 

梨帆がカバンを持って帰っていく。
研究所を出て、まっすぐに家路へと向かう梨帆をアンテナにつけてあった
カメラを通して見届ける。
 

博士:「う〜む・・・・知らず知らずのうちに陽一の思いどおりに
          動かされているようじゃな・・・」
 

モニターの範囲から消えた梨帆を見ながら、一体梨帆に何をするのか
少し心配になった博士。
 

博士:「梨帆ちゃんの部屋を見たいというだけじゃったのにのう。
          あの様子じゃ、それだけではなさそうか・・・」
 

右手であごひげを擦りながら、不安の色を隠しきれない博士だった・・・
 
 
 

彼女を意のままに・・・(前編)     おわり
 
 
 
 

あとがき

以前「独り言」で書いていた構想を作品化したものがこのお話です。
設定が曖昧なので結構フラフラとするかもしれませんが、
そこがまた面白いのです(いいわけ・・・)

梨帆姉ちゃんの潜在意識の中に自分の意識を忍び込ませた陽一君。
さて、彼女の潜在意識に何を命令するのでしょうか。
あくまでも、梨帆姉ちゃんが「自分で」行う行為。
最近の小学生は「マセて」ますよ!

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

Tiraでした。
 


 
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