ここ数年、いじめが社会問題となっています。
いじめも低年齢化、また陰湿なものが多くなっており、殺人、または自殺にまで発展するケースが
後を絶ちません。

そんな社会とは無縁のすばらしい中学校、いや、クラスがここにあります。
詳しい中学校名は伏せますが、このクラスはこれまでいじめの問題など出た事が無く、
みんな中学生活をエンジョイしています。

いじめの無い学校というのは、やはりクラスを担任する先生が全ての生徒について
前向きに向き合い、性格を把握し、情報を収集する事です。
これらのことが出来ていれば、たいていのいじめを防ぐ事が出来るのです。

ただ、すべてのいじめを防ぐ事ができるというものではありません。
先生や親には言えないようないじめも潜んでいる事があるのです。

しかし、この「御堂先生」が担当する3年4組には、そのようないじめも全く無いのです。
もちろん、これまでに担当した全てのクラスについてです。
御堂先生には本当に恐れ入るところです。

どのように生徒達に接しているのか、他の先生も興味を示しているのですが、
特に変わった事をするわけでも無く、ただ平然と授業をし、職員室に戻るというだけです。
多くのことを生徒達に指導しているわけでありません。
また、生徒に好かれているかというと、別にそうでもありません。

しかも、月に2回は学校を休むという、学校側としても困り者の先生。
でも、なぜかいじめは全く起こらないのです。やはり、御堂先生の指導が行き届いているのでしょうか?
いや、先ほども言いましたけど、決して生徒の声に、常に耳を傾けているというわけでも
ないのです。本当に不思議な先生です・・・・
 
 

***いじめのないクラスって?***

御堂:「という事で、今日の授業はおしまい。」

生徒:「起立。礼。」

ざわざわと騒音を立てながら、生徒達が教室を後にする。
部活に行く者や帰る者。45人は一斉に教室から去っていった。

御堂:「相変わらずみんな早いなあ・・・」

俺がこの中学に来たのは4年前。
大学を卒業し、公務員試験を合格。教育期間を終え、初めて赴任した中学だ。

もともと先生になりたかったわけではないが、とりあえず子供を相手にするのは好きだし、
これからの社会を担う中学生をまともに育ててやりたいという気持ちもあった。
えらそうな事を考えているけれど、とりあえず出来る事は、生徒に授業を教えることと
のびのびと学校生活を過ごせるような環境を作る事。
うん、それだけなんだ。

楽しく中学校に来させるために、いじめは絶対禁物。
俺は出来るだけいじめが無いクラスを作ろうと、赴任当初から考えていた。
始めはいろいろ考えたよ。

俺もその頃は23歳くらいだったから、ほかの先生とは多少年齢は近いし、分かり合えると
思ってた。だから、出来るだけ生徒達に近づき、話を聞く事から始めよって。

でも、なかなか成果は上がらなかったんだ。やっぱり先生という対象には話せないことが
たくさんあるし、もし話したらいじめがエスカレートすることだってあるから。

いじめを見抜くのは容易な事じゃない。
どれだけ経験を積んできた先生にだって分からない事があるんだ。

だから、生徒の立場にたって物事を考えなくちゃいけない。
そう、生徒になって・・・・
 

俺は高校のときに、インターネットである薬を手に入れた。
もちろん今も定期的に購入している。
その薬とは、

「PPZ-4086」

幽体離脱ができるという、世にも不思議な薬さ。
あの頃は、親友の康司のために、愛しの女の子に憑依してやったり
綺麗なお姉さんに憑依して楽しい事したりして、
ほんと欲望のままにやってたもんだ。

もちろん今でもたまにはしてるけど、昔ほど遊んでるわけじゃない。
やっぱり仕事が第1だし、担当する生徒の事だって気になるし。

そういうことで、俺が定期的(月2回くらいね)に幽体離脱して、先生や親には言えない
ことを話している所をこそっと聞き、いじめの火種になる前に直接注意するんだ。
まあ、透明人間になって生徒達の話を聞いているのと同じだけど、なんせ実態が
無いから、思いっきり近寄っても大丈夫。

でも、この方法で解決できないときは、やはりこの能力をフルに活用するしかないんだ。
もちろん、生徒に乗り移って生徒同士で解決させる。
ま、ほんとは先生や親が出るよりこの方法が一番いいんだけどね。
ただ、生徒の本心じゃないからなんとも言えないけど。
 

今日は、この夏にあったいじめの火種を消したことついて話すよ。

あれは、体育会の2週間前くらいだったかな。
まあ、体育会でいじめに会うのはたいてい運動能力の低い生徒に決まっている。
俺も毎年の事だからその辺は注意してたんだ。
だから、学校を休んで幽体になり、体育会の練習をしているところに行ったよ。
そして、俺のクラスの生徒達がいるところにそっと近づく。
案の定、そこにはいじめの火種があったね。

勇馬:「文也ってほんとに足遅せーよな。」

小次郎:「ああ、あいつがいると絶対勝てないよ。」

勇馬:「何とかあいつを走らせないように出来ないかなあ。」

小次郎:「そんなの簡単じゃん。あいつの足に怪我させたらいいんだよ。」

勇馬:「なるほど。おまえ頭いいなあ。」

小次郎:「あたりまえだよ。あいつがいなかったら、クラス対抗リレーで得点アップ間違いなしだもん。」

勇馬:「よし、何とかして文也の足、怪我させようぜ。」

小次郎:「ああ。俺、いい事思いついた。後で話すよ。」

勇馬:「うん。分かった。」

ほらほら、普段俺に接しているときは絶対に見せない性格だな。
こういうのを見抜くのが難しいんだ。

小次郎:「あっ、久美だ。」

勇馬:「相変わらずスタイルいいよな。」

おまえらマセすぎなんだよ。

勇馬:「久美って絶対きれいだよな。」

小次郎:「ああ、運動神経はイマイチだけど、あの顔とスタイルを見せつけられちゃあ
             文句も言えないって。」

勇馬:「そうそう。あの胸とお尻に顔をうずめたいな。」

小次郎:「うんうん。うずめたいよ。」

まったく、最近のガキは・・・
ま、確かに彼女のスタイルは中学生離れしてるよな。
おまえらがよだれでるのは分からんでもないぞ。
しかし、おまえらのような性格の奴は相手されないって。

とりあえず今回はこいつらにきちっと言ってやらないといけないと思ったんだ。
だから次の日、休み時間に二人を職員室に呼び出してやった。

御堂:「あのな。おまえら体育会で勝ちたいか?」

勇馬:「はい、絶対勝ちたいです。」

小次郎:「ぼくも同じです。」

御堂:「そっか、そうだよな。みんなで力を合わせれば何とか優勝できるよな。」

勇馬:「・・・・それはわかりません。だって、やっぱり運動神経が鈍い人もいるし、
         そういう人がリレーとかで走ったらたぶん負けると思います。」

小次郎:「ぼくもそう思います。先生、早い人を2回走らせるのはダメなんですか?」

御堂:「そうだな。クラスによっては、人数が足りないところがあるから、そういうクラスは
          2回走る人も出てくるんじゃないのかな。」

勇馬:「それだったら、たまたま足の遅い人が走れなくなったら、俺が代わりに2回走る事も
          出来るんですよね。」

御堂:「そうだな。その場合は仕方ないから、おまえが走ってもいいぞ。」

小次郎:「やったな、勇馬。」

勇馬:「ああ。」

御堂:「何喜んでいるんだ。内のクラスは全員元気だからみんなで走るんだぞ。
          おまえが走るわけじゃないんだから。」

勇馬:「分かってますよ、先生。もしもの話をしただけですから。なあ小次郎。」

小次郎:「うん。」

御堂:「まさかとは思うが、おまえら足の遅い人が出られなくなったらいいと思ってないだろうな。」

勇馬:「そ、そんなことないです。」

御堂:「足の遅い人が怪我したらいいと思ってたりしないか?」

おお、こいつら俺の言葉に顔を青ざめ始めたぞ。

小次郎:「ぜ、絶対そんな事無いです。」

勇馬:「は、はい。そんな事思っていません。」

御堂:「そうか。それならいいんだ。先生はみんなで走リたいと思ってるだけなんだ。
          結果は後からついてくる。だから余計な事を考えないで、自分の事だけ考えて
          体調を整えておけよ。」

勇馬:「はい。」

小次郎:「はい。」

御堂:「うん。それじゃ、もう行ってもいいぞ。」

二人はそそくさと職員室を後にした。

一応釘をさしといたけど・・・ま、たぶんやるだろうな。あいつらの事だから。
こういうときが大変なんだよ。
だって、余分に学校を休まないといけないから。
急用だって言い訳して、ほかの先生に授業を代わりにやってもらわなければならないからなあ。
いい顔しないんだよな、やっぱり。

でも、そんな事を言ってる場合じゃないんだ。
あいつらの話では、明日の放課後に文也を体育館裏に呼び出して、一人が目を押さえてもう一人が
バットで足を殴るって言ってたからな。

これだけはやらせてはならないんだ。
だから、無理矢理学校を休んだ俺は、放課後前に幽体になり、学校に行ったんだ。
そしたら案の定、勇馬が文也に手紙を渡している。

勇馬:「文也。あのさ、この手紙をおまえに渡してくれって頼まれたからさ。」

文也:「え、誰に?」

勇馬:「かわいい女の子だったけどな。たぶん別のクラスじゃないか。」

文也:「そうなの。」

勇馬:「ああ、なんでも絶対内緒にしてくれって話さ。良かったなあ文也。」

文也:「そっか。ありがとう、勇馬。」

勇馬:「おやすい御用さ、それじゃ、俺は帰るから。」

文也:「うん。また明日。」

勇馬:「ああ。」

文也がうれしそうに教室の外に出たあと、勇馬と小次郎は顔を見合わせてケレケラと笑っている。

やっぱり実行するのか・・・仕方が無いな。
俺は少しの期待をもっていたんだけど、あっけなく崩されてしまった。
あいつらを止めるのはやっぱり彼女しかいないんだ。
 
 
 

放課後になり、俺は久美のいるサッカー部の練習場に行った。
前にも話が出たけど、久美は俺のクラスで一番かわいい生徒だ。
ショートカットで大きな瞳をした彼女は、スタイルも下手すると大学生並か。
たぶん、居酒屋に行ってもそのまま通ってしまうだろう。

そんな彼女は、サッカー部のマネージャーをしている。
自分の運動神経に自信の無い彼女は、自分から無理に運動部に入ろうとは
思わなかったようだ。

赤いジャージに身を包んだ彼女は、籠に入ったサッカーボールをタオルで綺麗に磨いていた。

俺は彼女にゆっくりと近づき、そっと幽体を彼女の体に潜り込ませる。

久美:「えっ!!」

自分の身に何が起こっているのか分からない彼女は、サッカーボールを拭いている手を
止めた。

御堂:「ゴメンな久美。ちょっとだけおまえの体、使わせてもらうから。」

俺はそうつぶやきながら、彼女の体に幽体を全て溶け込ませた。

久美:「くぅっ・・・・はぁ・・・」

目の前に開ける新しい視界。
手にはサッカーボールとタオルを持っている。
そして、視界を降ろすと、そこには赤いジャージに包まれた久美の体があった。

久美:「うん。よし、これでいい。」

俺は久美の声でそうつぶやいた後、

久美:「ちょっとトイレに行ってきます。」

と言って、その場から離れた。

女性に乗り移っていつも思う事。
それは、目線が低い事と胸の重さを肩に感じる事。
そして何より、自分が発する声が女性の声になっている事だ。

前に女子学生に乗り移り、そのまま一人でカラオケボックスに行った事がある。
あの時はほんとに感動したもんだ。
出ない声域がものの見事に出るんだから。
あたらめて女性の声って高いんだなって思い知らされた経験があった。
自分の声に酔いしれながら、女性の曲をえんえん3時間も歌いつづけたっけ。
あのあと彼女、声がかすれちゃって申し訳ない事したなあ。

と、それはさておき、体育館裏に急がないと!

ちょっと走ると、すぐに息が切れるこの体は、やっぱり運動不足気味だなあ。
俺がしばらく憑依して、無理矢理運動させてやろうか。
そんな事を思いながら、体育館裏についた。

そっと覗くと、そこには手紙で呼び出された文也が立っている。
そして、その後ろから気付かれないように勇馬と小次郎が歩み寄っているところだった。

でも、まだ俺の出るところじゃない。
二人が文也に襲い掛かってからだ。

俺はじっと二人の行動を見ていた。

1メートルほどに近づいたとき、勢いよく小次郎が両手で文也の目を後ろから目隠しした。
そして、前に回りこんだ勇馬がバットで殴りかかろうとした。

よし、ここだ!
俺はとっさに声を上げた。

久美:「ああっ!あなた達、こんなところで何やってるのよっ!」

俺は絶妙のタイミングで声を上げる。

その声に驚いた勇馬は、振り上げたバットを落としてしまった。
小次郎も目隠ししていた手を外している。

勇馬:「あっ!久美・・・さん。」

目の前に現れた久美の姿を見て、勇馬と小次郎は最悪のパターンだと悟った。

小次郎:「ど、どうしたの、久美さん。こんなところに。」

久美:「ちょっと用事があってこっちにきたら、二人で文也君を殴ろうとしてたから。
         御堂先生に言いつけるからね。」

勇馬:「ちょ、ちょっとまってよ。違うんだよ、なあ文也。俺たち3人で遊んでただけだよな。」

文也:「え、そ、それは・・・」

小次郎:「そうだろ。なっ、ちゃんと返事しないと久美さんに変に思われるじゃないか。」

文也:「だ、だって・・・」

久美:「文也君。大丈夫だった?もう心配ないからね。」

俺は文也に近づいて、やさしく介抱してやる。
そんな姿をうらやましそうに見ている二人。

久美:「ねえ。わたし先生には言わないから、今後絶対にこんなことしないって約束してくれる?」

勇馬:「あ、ああ。分かったよ。な、小次郎。」

小次郎:「うん。分かった。」

久美:「そう、良かった。でも、どうしてこんな事したの。」

小次郎:「それは・・・文也の足が遅いから・・・俺たち、今度の体育会で優勝したいんだよ。
             だから足の遅い文也が出れなくなったら代わりに勇馬が走れると思って・・・。」

久美:「ひどいわ。それならわたしも怪我を負わされることになってたの?」

勇馬:「いや、久美さんにはそんなことするつもり、全く無かったんだ。」

久美:「どうして?わたしだって文也君とおんなじくらい遅いんだよ。」

小次郎:「久美さんはいいんだよ。女の子に手を出すほど俺たち落ちぶれてないからさ。」

久美:「ううん。いじめを考えた時点で落ちぶれてるの。ほんとにお願いだから、もうこんな事は止めてね。」

勇馬:「分かってるって。久美さんに言われていや何ていわないよ。悪かったな、文也。」

小次郎:「俺も悪かったよ。もともと俺が考えたんだ、この計画。あやまるからさ、先生には言わないでくれよ。」

文也:「・・・・うん。分かったよ。今の事は無かった事にする。」

小次郎:「そっか。助かったよ。あの先生めちゃくちゃ鋭いからな。俺たちの行動がすぐにばれちゃう気がしてさ。
             おまえと久美さんが言わなければ絶対ばれないと思うから。」
 

既にバレてんだよ・・・
 

久美:「それじゃあわたし、部活に戻るから。」

小次郎:「うん。」

勇馬:「それじゃあ。」

文也:「あ、ありがとう。久美さん。」

俺は3人と別れ、元のサッカー部の練習場に戻った。

久美:「これであいつらもいじめはしないだろう。
         しかし疲れるよな。教師ってのは・・・」

そうつぶやきながら、久美の体から抜け出る。
久美はビクッと体を震わせて目を覚ました。

久美:「あ、あれっ?わたし・・・・もしかして寝てた?」

事情がわからない久美は、少し混乱していたようだが、また何事も無かったかのようにサッカーボールを
拭き始めた。ほんの20分くらいの間だけだからな、乗り移ってた時間。

この数日後に開かれた体育祭で、うちのクラスは見事優勝を飾ったんだ。
文也もがむしゃらに走ってたし、なんせ勇馬が異常に速かった。
あれには驚いたな。やっぱり文也の分を取り返そうと思ったのだろうか。
まあ、良い結果になった事は間違いないし。
 
 
 

・・・・ってな具合で、いじめの火種を消す事が出来たんだ。

どうだった?俺の話、納得してくれたかな。

えっ?いじめは悪い事だってわかったの?

そりゃ良かった。

何?いつものあれが無かった?

そりゃ、まじめな話だからな。もとからいやらしい話を期待してるのは間違いってもんだよ。

なになに。それでも見たかったって?

そんなの作者に聞いてくれよ。俺は自分の体験談を話しただけさ。

はい?ほんとは伏線があったんだろって?

だからそういうことは作者に聞いてくれって。なあ、Tiraさんよ。読者があんな事言ってるぜ。
何とかならないのか?
 
 

ということで作者の登場です。
Tiraです。
まじめな話で申し訳ありませんでした。
わたしの子供はまだ幼いですが、ゆくゆくは小学、中学と進むのです。
そんなときに頼りに出来る先生がいればなあっておもったのが
この作品を書くきっかけでした。
だからちょっとまじめな話。
エッチな内容は抜きでした。
でも・・・

見たいとおっしゃるのなら、それもいいでしょう。
伏線として次の話で書きましょう。
でもほんの少しだけです。

だからちょっとだけ期待してください。

それではまた・・・
 
 
 
 
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