日曜日6月14日 プ〜ルにて(その2) 笑がシャワーを浴びてロッカールームに行くと、凛太郎は笑の方に背中を向けてバスタオルを身体に巻いて水着を脱いでいた。 「凛ちゃん、気にする事ないよ」 修一がきつい声を出した事で、凛太郎が気にしているかもと笑は思っていた。後ろ向きだから表情が見えない事で余計にそう感じてしまう。 「別に。気にしてないし。やっぱり泳ぎに来たんだからそれなりの格好しないとだめだよね。さて、こっちの水着に着替えたら今日はたくさん泳いじゃうぞ。笑ちゃんも泳げるよね。僕ね、スイミングスクール行ってたらから結構泳げるんだよ。意外でしょ」 気落ちしているというよりは、さっぱりした声色の凛太郎だけれど、動きが鈍い。いつになく明るく饒舌に自分を語っているのが平常心ではない証拠だろう。 話しながらもスク水を足に通して着ていく。バスタオルを外すと、白い肌にダークな色合いのコントラストで綺麗なプロポーションが強調されていた。笑でも見惚れてしまう後姿だ。うなじなんて擽ってしまいたくなる。 「あのさ、お兄ちゃん着替えるって言ったから怒ったんじゃないよ。怒ってないし」 「うん、気にしてないから。あ、笑ちゃんもキャップとゴーグル持って行かないと。さっき忘れてたでしょ」 脱いだ水着をタオルに包んで、ビニールに入れている。 「凛ちゃんっこっちちゃんと向いてよっ」 まともに聞こうとしてない凛太郎の頬を両手で掴んで自分の方に向ける。凛太郎が目を丸くしていた。 「お兄ちゃん、アレが、その、勃っちゃったみたいなの。だから誤魔化してたの」 「アレ? って、え? 何でっ?」 勃っちゃうアレ。一瞬何のことか解らなかった凛太郎だけれど、一瞬後には身体を朱色にしていた。頬に触れている笑の手に、その熱が伝わってくる。 「だから。凛ちゃんの水着姿見てだって。最初見た時だって可愛いって固まってたでしょ」 「そ、そうなんだ」 (修ちゃんてば、やっぱり我慢できないんじゃないのかな。こないだ折角手伝ってあげるって言ってあげたのに) 「落ち込んでたでしょ、今。ね、気にする事なんてないから。気分変えて泳ごうよ」 既に凛太郎の頭の中には修一が怒っていたと感じていなかった。それよりも、我慢しきれてない修一が心配になってしまう。そんな状態で果たして卒業まで持つのだろうかと。 「あ? あ、うん。泳ぎにいこ。またシャワー浴びなおさなきゃ」 笑の笑顔に答えるように凛太郎も笑顔を作るけれど、心の底からというのには程遠い。しかし一応、落ち込む必要などない事が解ってほっとしていた。 * * * * * * * * * 凛太郎と笑が再びプールへ姿を現すと、ジャグジーには既に修一はいなかった。どこだろうと辺りを見回すと、一般に開放されている二十メートルレーンのプールサイドでストレッチをしている。スポーツ全般に関しては、修一の取り組む姿勢は真面目だった。 「お兄ちゃん、お待たせ」 笑が修一の傍まで歩み寄ると、ストレッチを中断して修一が二人を見た。けれど、先程の件があるためか凛太郎の方はちらりとしか視線をやらなかった。 (修ちゃん、やっぱり怒ってるんじゃ……) ロッカールームでは納得した事だったけれど、若干の不安が残る。凛太郎は笑の後ろから窺うようにしていた。それに勿論、身体の線が全部出てしまうスク水だと恥かしさもある。水着を着るまでは修一の事が気になって不安な気持ちで一杯になっていたから、そんな事は考えもしなかったのだけれど。 「……お待たせしました」 キャップとゴーグルを身体の前で持って、少し俯き加減で修一に声を掛ける。何故か丁寧に言ってしまっていた。と、修一が凛太郎に言った。 「さっき悪かった。ちょっと、まずいことんなって……」 珍しく修一が口篭りながら言い訳をしている。内容も笑が言ったとおり、アレが勃ってしまったようだ。しかし「まずいって、何が?」と追求する事も出来るが、いくらなんでもそれは可哀想だ。男として凛太郎もどうしようも無い状況だった事は理解できる。改めて気にする事が無いと解って、凛太郎は安心した。そして話題を切り替える事にした。 「ううん、気にしてないから。あ、僕たちもストレッチしなきゃね」 それまで暗めだった凛太郎の表情がパッと明るくなって、笑の手を引きストレッチを始めた。ぐいぐいと身体を伸ばして行く凛太郎に笑が悲鳴を上げている。そんな様子を修一は傍で眺めていた。 (……さっきの水着も良かったけど、スク水っていいんじゃねぇか?) 凛太郎のソリッドなダークブルーの水着は、真っ白な肌によく似合っている。キャミキニと違って大きく背中が開いたデザインだし、水着のVゾーンも結構切れ込みが深い。ぴったり身体にフィットした水着は、凛太郎の身体の線を綺麗に浮かび上がらせていた。 その水着を着て目の前でストレッチをしているのだ。むにむにと色々な部位が動くのは、目の毒と言うものだ。それでも見てしまうのは男の性としか言いようがないだろう。 (あ、やばい!) 「リンタ、笑っ。先泳いでるぞ」 熱を持ち始めた一物を冷やそうと、プールサイドから泳ぎ出してしまった。 「え? 修ちゃん、一緒に……なんだよ、もうっ」 声を掛ける間もあったものではない。いくら水泳が個人で行うものであっても、一緒に来ているのだから少しは協調性があっても良さそうだと思ってしまう。凛太郎は赤い可愛い唇を突き出して、「う〜」っと唸ってしまった。 「あれって、またなんじゃないの? うーん、確かに破壊力ありそう」 笑が意味深に凛太郎の身体をじーっと見つめる。特に胸と腰の辺りを。 「破壊力って……。僕たちも入っちゃおう」 (僕の身体ってそんなに興奮させちゃうのかな? なんかそれってえっちじゃない?) どれほどの魅力が自分にあるのか、全く理解していない凛太郎は、笑と一緒にプールに入って行った。 * * * * * * * * * ゆっくりと右手を前に出して水をしっかり掴む。それを後方へ押し出すと、凛太郎の身体はスーッと水に乗っていく。左腕も同様にすると、後頭部から首の後ろにかけて水が大きく抉れて行く。下手な人がすると、ばしゃばしゃとするだけで前に進まないものだ。ゆったりとした動きだけれど、凛太郎のストロークは正確だった。 二十メートルというちょっと中途半端な長さだけれど、自分のペースで泳げるのはいいものだ。スイミングスクールは、泳ぎを教えるというよりは、将来の選手を見つけ、育成する方が強いと凛太郎は思っている。実際、凛太郎のように、ゆっくりだけれどずっと泳ぎたい、そんな人には全く向かない。与えられたプログラムをこなし、月に一度タイムを計るのだから。 その意味では、フィットネスクラブは自分にあっているかもと思っていた。 (あー、水が気持ちいい……。身体も気持ちも水に溶けて、空っぽになってくみたい) この一月、色々な事があって、悩んで、考えて、それでも答えなど無かった。思う事はたくさんあるけれど、今日位は何も考えない時間があっても良さそうだ。現に、泳いでいると無心になれるのだから。 耳に入る音は、凛太郎自身が吐き出す空気と、流れていく水の音だけ。時折、隣のレーンで泳いでいる人の飛沫と音が聞こえるくらい。ゴーグル越しに見えるのは、青く見える水とコースのラインのみ。 コースの端まで来ると、凛太郎はクイックターンをしていった。そしてクロールから背泳へと変えていく。ただ、これは失敗だった。施設の天井を見ていても、目の端に自分の胸が見えてしまう。無心になるどころか、自分が今何者であるのかを思い知らされてしまった。コース途中で泳ぎを変えるのも変なので、次のターンでブレストへ移行する。そしてそのまま、バタフライと背泳を除いてターン毎に泳ぎを変えていった。 プールサイドでは先に上がっていた笑が、傍らにたった今あがって来た修一に感嘆の声を上げていた。 「すごい……凛ちゃんて、あんなに泳げるんだ。運動得意そうじゃないのに」 水泳素人の笑でも、凛太郎の泳ぎがスムーズである事が解る。 「リンタが出来るスポーツってアレぐらいだからなぁ。でもスピードとスタミナ無いんだよな。十五分位泳いでるだろ? もう『疲れたー』って上がってくるぞ」 普通に泳げば十五分で五百メートル位泳げる。一時間、ペースを変えないで泳げれば大体二キロメートル。水泳をしていればスタミナは付く筈だけれど、スイミングスクールで凛太郎の場合はとにかくゆっくり泳いでいるだけだった。それでも喘息のせいで泳ぎを中断せざるを得ない事もしばしばだったから、直ぐに上がってしまっていた。スタミナの付きようが無かった。 修一の言うとおり、暫くすると凛太郎がプールサイドに上がって二人のところにやってきた。 「ふぅ、疲れたぁ。でも気持ちよかったー」 若干疲れた表情をしながらも、満足そうな笑みをその愛らしい顔に浮かべ、笑の隣にちょこんと座る。 「あ、ほんとに言ってる」 「だろ。大体そうなんだよ」 真ん中に座っている笑が修一に感心したように言うと、凛太郎が不思議そうな顔を見せた。 「え? なになに? 僕変な事言ったかな?」 「お兄ちゃんが、凛ちゃんが来たら疲れたーって言うって言ってたから。そしたら凛ちゃんその通り言ったでしょ。その事。でもお兄ちゃんて意外と凛ちゃんの事詳しいよね」 心外だとばかり修一が笑の頬を指で引っ張った。 「意外ってなんだよ。その位知ってて当たり前だっての」 「いたぁい、もお、やめてよお。凛ちゃん助けてぇ〜」 「あ、ちょっ、笑ちゃんっ」 左隣に座っている凛太郎に助けを求めて、ついでに「きゅっ」と抱きついていく。胸と胸が薄い生地を通して触れ合うと、そのマシュマロみたいな感触に凛太郎はドキドキしてしまった。 「あ、笑っリンタから離れろよっ」 修一がかなり本気で怒った表情を見せる。しかし尚も笑が凛太郎を放さない。 「やーだ。凛ちゃんてすべすべで気持ちいいもん」 「だめってば、笑ちゃん。みんな見てるから」 周囲の視線を気にして凛太郎は焦ってしまった。純粋に身体を鍛えに来る人たちにはちょっと異様な光景に見えるかも知れない。若い女の子二人がじゃれあっているのを、迷惑そうに見ている人までいるのだ。 「ほらっ笑っ。リンタ困ってるだろ」 「お兄ちゃんが引っ張ったからじゃん。お兄ちゃんいなくなったら離れるもん」 凛太郎の笑に対する評価は、しっかりものだ。しかしこういう所はすごく子どもっぽく感じてしまう。 (普通、女の子の方が精神年齢高いって言うけどな。ちょっと意外な感じ) 抱きつく笑にそんな事を思う凛太郎だった。 「なんだよ、俺のせいかよ。あーあー、じゃ、泳いでくっかな。笑、その間に離れてろよ」 凛太郎に目配せしながら、修一はそのままプールへと入っていった。笑はその後ろから「ジェラシーだ」なんて言っている。 「笑ちゃん。離れて。修ちゃんもう泳ぎ始めてるから」 「気持ちいいのにな〜」 笑顔だけれど心残りがあるような顔をして笑が離れた。周囲を気にしながら凛太郎は正直ほっとしていた。これ以上抱きつかれていたら、違う世界が開けそうだ。 「もう、あんまり修ちゃんからかっちゃダメだよ。怒ってたもん」 「いいよ、あれ位。いつもの事だし」 修ちゃんも大変だ、なんて思いながら、凛太郎は修一の姿を目で追っていた。太い腕でぐいぐいと突き進んでいく泳ぎのスタイル。スムーズに水に乗る泳ぎの凛太郎にはけっして真似出来ない。 「ああいう風に泳げるといいよね」 「そうなの? 凛ちゃんの泳ぎの方が綺麗だったけど」 修一の泳ぎを見ながら各々の感想を述べるプールサイドの二人。当の修一は黙々と泳いでいる。 クロールで腕を回す度に僧房筋や背筋が盛り上がって見える。きらきらと光る水が修一の日焼けした肌をナメていく。濡れて光る修一の身体は一枚の絵のように格好良かった。 (あ、修ちゃんの身体……光って綺麗だな) 凛太郎はポーっと、その姿に見惚れてしまっていた。柔らかな自分の身体と違い、引き締まった筋肉で覆われた修一の身体。今、素肌同然の状態でもう一度抱きしめられたらと思うと、身体が火照ってくる。 「あっ」 修一がターンをしてそのまま背泳に移った時、凛太郎はソコを見てしまった。黒いビキニのパンツ。盛り上がった股間を。凛太郎はその瞬間、小さな声をあげていた。 (修ちゃんの……、見ちゃ、だめなのにっ) 昨日の事を思い出してしまった。火照った身体がもっと熱くなってくる。見ないように、考えないように、そう思うのだけれど、どうしても目が行ってしまう。見つめる程に、じわっと身体から溢れて来る気がしてしまう。 (違う違う、見てない、濡れてないっ。欲しくないからっ。淫乱なんかじゃないっ) ぎゅっと目を瞑り、首をぶんぶんと振ってみる。雑念を追い払うかのように。いきなりな行動に、横の笑が心配そうに聞いてきた。 「どうしたの?」 「見てないよっ。何にもないからっ。僕ちょっと」 すっくと立ち上がると、笑を残しそのままトイレの方へ早足で歩いていく。突然の行動に笑はあっけに取られてしまった。 「? 見てないって、なに? 変なの」 笑は凛太郎が立ち去った方と修一の泳いでいる姿を交互に見ながら、呟いていた。 * * * * * * * * * トイレに駆け込んだ凛太郎は、スク水を脱いでその場所を確認した。結果は、自分の身体を呪いたくなってしまうものだ。 (あ〜……、見ただけなのに。淫乱……じゃないよ) いくら修一の事を想いながらひとりえっちしたからと言って、股間を見ただけで濡れてしまうなんて、パブロフの犬のようだ。 (これじゃ修ちゃんが好きだから、じゃなくて、修ちゃんの身体が目当てみたいだよ。サカリのついたワンコと一緒じゃんか。はぁ) 深い溜息を吐きながらトイレットペーパーで拭っていく。 (修ちゃんはちゃんと我慢するって言ったのに。僕がこれじゃダメじゃんか。しっかりしないと。欲しくなるのは魔物のせい。魔物が悪い。僕じゃない) 条件反射的に身体が反応してしまうのは確かに魔物のせいではあるけれど、凛太郎は自分の内なる欲求も魔物のせいにしようとしていた。そうでなければ遣り切れない。自分が修一の肉体を「欲しい」と考えているなんて認めたくなかったから。凛太郎が欲しいのは、修一の一部分、ペニスとか逞しい身体とか、そんなものではない。心を含めた全部が欲しいのだから。 スク水を着ると、少し強めに両手で頬を叩いて気分を変えてから、凛太郎はトイレを後にした。 * * * * * * * * * 「あれ? リンタは?」 修一が戻ると凛太郎の姿がない。自分の華麗な泳ぎを見ているだろうと思っていた修一は、笑に尋ねていた。 「えーっとね。ちょっと、ね」 トイレ行ったよ、なんて言う事はちょっと憚られる。笑は言葉を濁していた。 「ああ、トイレか」 「そう言う事は思ってても口にしない方がいいと思うけど。嫌われるよ」 じとっとした目つきで笑が言うけれど、修一は全く堪えない。 「なんでだよ。リンタは元々男だろ。平気だっつーの。それよりも、ああいう事すんなよな。大体リンタは俺のなの」 「あー、それってセクハラ。女を馬鹿にしてる発言だ。凛ちゃんは誰のものでもないじゃん」 「お前だってこの前、『あたしの大事な凛ちゃん』とか言ってたろ」 「それはっ……」 言ったけれど、笑が自分の気持ちに気づき始めた時の話だ。今では一区切りついている。それに、修一が凛太郎に酷い事をしないように釘を刺したかったから口をついて出た言葉だ。 「……お兄ちゃんが凛ちゃん泣かせたから言ったんだもん」 「なんにしてもお前のじゃないの。俺たち付き合ってんだからな」 何とも良く解らない理屈を言う修一に、笑ももう一言位は言い返したかった。 「あーあ、こんな事言われるなら連名なんてしないで、自分でプレゼント用意すればよかったぁ」 「おいっ、リンタに聞こえたら拙いだろっ」 修一が慌てて声を荒げる。その声の方が笑より余程凛太郎に聞こえそうだ。 笑の言う連名のプレゼントとは、この後山口家で開かれるサプライズパーティーの為に、修一と笑が買ったプリザーブドフラワーのバラの花。赤と白をおりまぜたものだ。ドーム型のガラス容器に入っていて、数年は持つ。永遠では無いにしろ、凛太郎の傍で美しいバラの花が咲いている訳だ。 バラを選んだのは修一で、わざわざ花言葉まで調べていた。赤いバラの花言葉は「熱烈な恋・情熱」、白いバラの花言葉は「純粋・清らかな愛」。修一曰く「純粋に熱烈に恋してる」事をあらわしたものだと、笑は聞いている。しかし純粋かどうかは怪しいものだが。それに凛太郎が花言葉を知っているとは限らない。 知らない場合には修一が説明するのだろうか。その状況を考えると、笑はおかしくて仕方が無い。 大体、凛太郎の誕生日は六月十日だ。もう過ぎている。笑がその事を修一に問いただしたら「リンタ、鈍いから大丈夫だろ」という返答だった。そういう問題じゃないでしょうと笑は言いたかったけれど、過ぎてしまっているのだから仕方ない。サプライズはサプライズだが、修一もずれている。 「結構高かったもんねぇ。一人じゃ払えないとか泣きついて来たから連名にしたのに」 「それとこれとは別だろうがっ。こないだのデートで金が無くなっちゃったって言ったろっ」 そんな事を言い合っていると、凛太郎がトコトコと歩いて来た。 「お待たせ。二人とも泳いでれば良かったのに」 気合を入れる為に叩いた頬が少し赤くなっていたけれど、室内の温度も少し高めに設定してあるせいか違和感が無い。修一も笑も凛太郎の頬については何も気づかない様子だった。それに今話していた内容を聞かれていないか、その方に気を取られていた。 修一が一つ咳払いをしてから、凛太郎に話し掛ける。 「せっかく三人で来てんだ。一人欠けてたら待つだろ、普通」 言葉だけだときつい感じだけれど、修一は口元に笑みを絶やす事無く言葉を紡いでいた。それが凛太郎には安心できる。今日の凛太郎は気にし過ぎなのかも知れないが、修一の言葉と態度が気になってしまうのだ。どんな反応なのか、どう思っているのか。自分なりに考えるには、相手の言葉と表情しか手掛かりが無い。 「うん、ありがと。だいぶ疲れも取れたからもうちょっと泳ごうね。笑ちゃん、どう?」 水泳でなければ心配される立場の凛太郎だけれど、過去の経験からもう少し泳いでも体力は持ちそうだと思っている。三人の中で修一は日頃から鍛えているのだから心配ないとして、問題は笑だ。全身運動の水泳はかなり体力を消耗するから、笑に声を掛けるのは正当だった。 「うーんと、もうちょっとだけ、かな」 多少疲労の色が見える笑だったが、笑顔を絶やさず言う。凛太郎は後十分位かなと大体の目安を考えていた。 「じゃ、もうひと泳ぎだね。でも、疲れたかなって思ったら直ぐ言ってね。明日学校で寝ちゃうと拙いでしょ」 「うん、わかった」 よっこいしょと修一が最初に立ちあがり、プールへと入って行く。その後ろから笑と凛太郎が続いて入って行った。 (その3へ) |