月曜日6月1日 魔物の弱点(その1)


 丁度その日は月曜日だった。6月に入ったばかりのその日は梅雨空でもなく、かと言って晴天という訳でも無かったが、汗ばむ陽気ではあった。6月と言えば衣替えになる。凛太郎の高等学校も衣替えを迎え、男子生徒はブレザーを脱ぎ去りワイシャツにネクタイとなった。女子生徒もブレザーからセーラーカラーのブラウスにリボン、太目のつりがあるスカートに代わる。勿論女子生徒として制服を着用している凛太郎も。
 真っ白なブラウスにエンジ色の吊りスカート。それにリボン。凛太郎の高等学校の女子の制服は、近隣の学校でも可愛いと評判の制服だった。それを長めのショートカットの元男の子だった美少女が着ている。朝会った修一には眩しい位に思えていた。
「あんまりじろじろ見ないでよ。恥かしいじゃんか」
 通学途中の交差点で修一の視線を感じ、凛太郎は少しはにかんだ表情を見せていた。修一の視線はシャツとブラウスを通して少しだけ透けて見えるブラジャーのラインを見つめていた。
「いやぁ、なんか、冬服もあれはあれで可愛いけど、夏服はこう、ぐっと来るッつうかなんつうか……」
 修一がぽりぽりとほんのり紅く染まった頬を掻きながら答えた。
(なんだかあれからえっちな事しか考えてないみたいに見えるよなぁ……。男だからしょうがないのは解るけど)
 元男として凛太郎は、修一の性的な興味の対象となってしまう事は仕方がないと思っている。いくら凛太郎が男の時はそれ程性的に成熟していなかったと言っても、自分のペニスを握って扱いた事も有ったし、一応気になる女の子だっていた。だから女の子の身体に変化してしまった今、それを否定する気は起きない。それに凛太郎自身も興味は有ったし、修一に身体を弄られている時の気持ち良さはなんとも言えないものだ。しかし四六時中、性欲に満ち溢れた眼で見られるのは辛い。凛太郎の中では、もっと二人にとってセックスとは違った大切な何か、があるんじゃないだろうかと思っていた。ただとりあえずその場では何も言わなかった。その内修一もその辺に気が付くと思って思っていたから。
 対する修一は、キスもペッティングもしてしまって益々性欲が強くなって来ていた。とにかく二人きりになりたい、少しでも身体に触れたい。出来れば、やりたい。あれ程強い刺激だったにもかかわらず、何度も経験してしまうと鈍くなって、更に強い刺激を求めてしまう。そんな心理になっている時、自分の彼女(修一は既にそうだと思っている)が素肌を晒している。後姿を見ればブラジャーのラインが見え、手を上げれば袖ぐりからその奥にある下着が見える。勿論正面から見ても、うっすらと刺繍さえ見える。全く目の毒だった。自分の猛る獣がもっと大きくなってしまう。
「なぁ、リンタ。今日も部活ひけたら家寄ってかないか?」
 心持目じりを下げながら聞いて来る修一に、ふうと溜息を吐いた。
「どうせ帰り道だからいいけど……。土曜日も、したんだから今日はああいうの無しだよ?」
「わかってるって」
 登校途中だと言うのに妙にはしゃぎだし、自転車がふらふらしている修一を見て益々溜息が出てしまう。
(ああもうっ。きっと今日も出来る〜、とか思ってるんだろな。……キスだけならいいんだけどな)
 修一の部屋に入ったらまた身体弄られるんだなと思うと、途端に期待感が高まってしまった。心より身体の反応の方が早い自分に、少し嫌になりながらも学校の門をくぐっていた。

 * * * * * * * * *

 凛太郎が女性化してからほぼ一ヶ月が経っていた。この頃になると周囲の生徒も次第に違和感が無くなって来たようで、多くの生徒が凛太郎の今の姿を見ても何とも思わなくなっていた。しかし別の意味で注目を浴びていた。男の時でも一部女子生徒の間では色白で可愛いコと評判だった凛太郎。それが少女となれば、男女問わず誰でも見ていたいと思わないではいられなかった。
 幸か不幸か、凛太郎は全くその目に気づかずに学校生活を楽しめていた。フリーの美少女となれば当然アタックをかけるようとする輩が出てきそうだったが、いつもべったり修一が横にいるために声も掛けられない。これまで意思表明したのはたったの一名、阿部だけだった。その阿部も本人曰くフラレタとされていたので、他の男子生徒達は遠めに「愛でる」事だけとなっていた。尤もその目の中には、悪意を持って見ている生徒もいたが。
 クラスの中で変化があったとすれば、件の阿部がまた積極的に凛太郎に話し掛けるようになった事だ。但し、以前のように好きだから、というスタンスではなく、きちんと凛太郎と距離を置き普通にクラスメイトとして。
 凛太郎自身はあまり阿部が好きでは無かったけれど、相手が友好的になっているのに邪険にする事は出来ない。とりあえず薄い微笑みと相槌に徹していた。
 阿部も色恋の話は絶対に振って来なかった。しかし時々凛太郎の身体に粘りつくような視線に気づき、周囲を眺めると阿部の姿があったが、凛太郎も敢えて止めて欲しいと言うつもりは無かった。前からじっと見ているなら怒る事も出来ようが、後ろを向いているのだから白を切られたらお終いだし、第一好きではないけれど、排除する程嫌いな訳でもない。良好な関係ならば、凛太郎はそれを崩したいとは思わなかった。多少の未練が残るのも理解できたから。
 魔物は、試験前に来たのを最後に何故か姿を見せていない。男に戻る方法を聞き出すという凛太郎の当初の目的は、女の子として修一に告白してしまった事で意味をなさないのではないかと考えていた。確かに今の身体となってからどんどん修一に異性を感じ、惹かれていった。肉体が精神を凌駕してしまったのだと思っている。
 ただ、心のどこかに男としての意識があって、時々意味も無くそれが顔を覗かせる。学校で授業を受けている時や、修一と話をしている時、寝ようとしている時。その意識を感じた時、凛太郎は無性に悲しくなり、今の自分の姿を恨めしく思い、その姿でいる自分を責めてしまうのだった。

 * * * * * * * * *

「な、ここって穴場だろ」
 凛太郎は部活が終わった修一に連れられて、学校でも比較的人が来る事の無い作業棟の方へ来ていた。既に外は暗くなり始めており、ナイター設備のない野球部やサッカー部は早々に練習を切り上げていた。残ったのは室内競技のバスケ部やバレー部、道場を使用していた剣道部や柔道部だった。
 ここは部室棟から渡り廊下を通って来る場所なので、職員室からは最も遠い。しかもその一番端の部屋ともなれば、一部の生徒以外、必要の無い場所だった。そこで生徒同士、何をしているかという事については、余り人との付き合いの無い凛太郎には知り得ないものだった。
「……静かではあるけどね……。修ちゃん家に寄るんじゃないの?」
 暗くなった時の学校は、結構不気味だ。凛太郎は中学の時の文化祭で出し物をやる際、遅くまで残っていた事を思い出していた。明かりの無い廊下は、その闇の中から得体の知れない何かが迫ってくるように感じたものだった。今その感覚は、目の前にある部屋から漂ってくる。
「作業棟ってさ、剣道部でも時々壊れた竹刀の一時保管庫代わりとか、壊れた防具の避難場所にしてんだ。他の部も結構物置代わりに使ってんだよな。滅多に先生もこねーし」
 ガラッと引き戸を開け放つと、修一が暗い中に入っていく。少し埃っぽく、かび臭いような臭いに顔を顰めながら凛太郎も後に続いた。
「ねぇ、修ちゃん。ここに来た意味が解んないんだけど」
 暗闇に佇む修一に向かって凛太郎が問い掛ける。白い修一のワイシャツが薄っすらと見え、修一が振り向く気配がしていた。
「リンタ、ちょっとこっち来て見ろよ。面白いもんが見られるぞ」
「へ? どこ? 暗くて良く見えないよ」
 ほんの少し窓から入ってくる駐輪場を照らしている明かりが、凛太郎の銀の犬に反射している。修一からは凛太郎の位置がどこか、それでよくわかった。勿論ブラウスでも。
「そのまままっすぐだって。下、何も置いてないから大丈夫だぞ」
 凛太郎は修一に言われるがまま、恐る恐る声の方に近づいていく。次第に暗闇に目が慣れ、修一の姿がはっきりしだした、と。
「ひゃあっ?! なっなに? ちょっとっ修ちゃんっ?」
 いきなり抱き締める修一に凛太郎は驚きと戸惑いを隠せない。
(まっまさか? 学校で? ここで?)
 どきどきはするけれど、それはいつもの興奮とは違ったものだ。滅多に人が来ない、とは言っても時々は来る。それが今かも知れないと思うと緊張と恐怖が襲ってくる。
「しっ。いくら何でも大声出したらダメだって。人が来ちまうだろ」
 上から覆い被さり、凛太郎の頭の真上から声が聞こえてくる。凛太郎は身を縮み込ませ修一の甘い縛めを解こうと腰を引いた。
「学校でなんてダメだよっ。見つかったら大変だってば。もう行こうよ。……するなら修ちゃんの部屋行ってからにしよ。ね?」
 なんでこんな譲歩案を出してるんだろう? と自分でもちょっと不思議に思ってしまうが、凛太郎はとにかくここから離れようと考えていた。あまりにもえっちな事をし過ぎて、修一はどうかしてしまったのだろうかとさえ思ってしまう。
 凛太郎の不安を余所に、修一は右手で無造作に凛太郎のお尻を掴むと、そのまま引けた腰を自分の股間へと押し付けてきた。
「やっ、ちょっとっ。あ?!」
 熱く硬い棍棒のようなものが、凛太郎の丁度下腹部に押し付けられる。何か、などと考える事も無く、それが何か解ってしまう。
(うあぁ、すごっ。さっきまで平気で話ししてたのに……。なんでこんなに……?)
 怒張と呼ぶに相応しい「修一」。凛太郎は魔物が扱き、自分の膣内に迎え入れた姿を思い出していた。暗闇のお陰か、目を開いているのに目の前にその色も形も浮かんでしまう。そして凛太郎は自分の体温が急カーブを描いて上がっていくのが分った。
「リンタ、試験前なら誰も部屋に入ってこねーけど、もう終わったからな。母さんも笑も茶々入れに来ちまうだろ。二人っきりになれねぇから」
 なれないから? だからここで? 凛太郎は思わず大声で聞き返したくなったが、少し冷静に静かに聞いた。
「二人でいられたら良いって、それ分るけど、いくらなんでも……」
 身勝手だよ、と言いたいけれど言えない。凛太郎はもう一度譲歩案を出した。もう、清水の舞台から飛び降りる心境だ。
「じゃ、じゃあさ。僕ん家なら? お母さん遅いし、だ誰もいないよ?」
(ああっ? 僕バカだっ。これじゃ誘ってるみたいじゃんか?!)
 そんな事を考えている間に、修一は無言のまま首筋にキスし始めていた。時々強めに吸っている気がする。
「あっぅんッ。ちょっ、ここじゃやだってば。修ちゃん! あンッ……」
 じゃれ付くように修一が股間を擦り付けてくる。その熱さに凛太郎はお腹の方から蕩けていくようだった。あくまでももっと良い譲歩案を引き出そうと言うのか、修一は唇にキスして来ない。凛太郎はキスを待ち侘びているように、咽喉を仰け反らせ顔を上に上げていた。
「リンタん家だって、千鶴さんいつ帰ってくるかわかんねぇだろ? ここは扉閉めちまえば誰にもわかんねぇって」
 凛太郎は今気づいた。扉が開いている。外からは凛太郎の後姿が見える筈だ。ここですれば安全、どころの話ではない。今ここで抱き合っている事自体が危険なのだ。
「修ちゃっ、まずい、よっ。ああっ?! そっそんなとこ手入れちゃやだよっ!」
 修一のいやらしい手がもう一本、お尻に回された。そしてスカートの裾から中に手を入れ、ショーツの下から手を差し込み双方の尻肉を直に掴み、捏ねた。
 凛太郎の下半身は前からは硬く大きくなった「修一」が攻め立て、後ろからは淫らな動きをする両手で弄り回されていた。熱く火照った凛太郎の身体は、気を抜くと修一の愛撫に負けそうになってしまう。じわり、と熱くなり始めたワレメから恥かしい粘液が染み出してきた。
 痴漢のような動きで修一の手がじりじりとお尻から女の子の部分に近づいてくる。このままもし触られたら、感じている事が物理的にばれてしまう。
「ねっ、修ちゃん、僕ん家いこっ? やっちょっ待ってよ、そこから先ダメだってばっ!」
 咄嗟に身を捩るけれど、がっちりとお尻を掴まれ抱きかかえられている身体は大きく動く事は出来なかった。凛太郎のその動きは、かえって修一のペニスを刺激しただけだった。
「うぁっ、リンタっ。俺、もうやばいかも……」
 やばい、と言いつつも修一は自分から凛太郎の下腹部に猛り狂った熱い棒を擦り付けてくる。しかも両手の指先は容赦なく大陰唇まで到着してしまった。
「やばいって、その指の方がやばいよっ。それ以上動かさ、やあっ」
 蜜を内側に湛えた小陰唇が修一の指に捕らえられてしまった。ヌルつくそこを修一の指が探るように蠢くと、凛太郎の身体は益々熱く燃えてきてしまった。
「……リンタ、凄ぇ、ぬ濡れてる……」
 興奮しきって修一の声が少し震えていた。凛太郎の耳元に聞こえてくる修一の呼吸が、犬のように速く大きくなっている。
「リ、リンタツ、俺もうダメだっ。最後までっ頼むよっ」
 そう言いつつ修一の指は、ふっくらした凛太郎の大陰唇を広げ、それに釣られて小陰唇も広げていた。ショーツにたっぷりと秘蜜がたれたが、修一の指が膣の周りをネットリと責めるのに十分過ぎる粘液が後から後から溢れてくる。
「ひっあぁ。やッ、はぁんんッ。そんなにぃ、そこしないでよぉ……。ダメってッばあぁんっ!」
 無骨な指使いだったけれど、修一が弄っていると思うと凛太郎の身体は自分でもどうしようも無い位反応してしまう。膣口の周りをくにくにと指で押されると、凛太郎の抱えられた身体はガクガクと動いてしまう。腰を少し引き加減にした時、修一の右手がお尻から離れ前に移動してきた。
「頼むよ、リンタ!」
「そんなっのっダメッて……。あ、やだっ、触っちゃああぁぁッ…………んああっ!」
 後ろからショーツに入っている左手の手助けでショーツが浮いていた。前に回した右手はその部分からあっさりと侵入し、簡単に凛太郎の欲情のボタンに到達してしまう。ぷっくりと膨れた肉真珠に、大量の愛液を指先で塗りつけながら優しく、そしてゆっくりと転がしていく。
「ひっ、あああ、やあっ、しゅうっちゃ、もっ、おねが、いいああんんッ」
 修一の指先が肉芽を軽く摩るだけでピクピクと凛太郎の身体が面白いように跳ねる。それに乗じて修一の左手の中指が軽く膣口に潜り込むと、凛太郎は腰が砕け落ちそうな位の快美感に襲われた。
 凛太郎の腰が少し落ちると、丁度よい具合に修一の指先がくッと入ってしまう。その刺激に慌てて何とか体勢を前に戻すと、そこには修一の右手が丸く膨れた芽を嬲ってくる。どちらに行っても快楽の縛めは解けなかった。
「あふっ、ん、ちから……はいんない、よお。はぁあん……」
 拒否しようとしても力がまるで入らない。凛太郎は次第に甘い声が出てしまう。身体は既にトロトロに溶けきってしまって、それが頭にまで浸透してくるようだった。修一の胸を押し戻していた両手は、今や快感に耐えるように打ち震えながらギュッと修一のワイシャツの前身ごろを掴んでいる。
 修一は凛太郎の崩れ落ちそうな身体を股間にやった手で支えていた。指先には凛太郎の柔らかな粘膜の感触が心地好い。軽く指を出し入れすると「くちゅっ」と音がする。その耳からの刺激は修一の興奮度を否応にも押し上げてしまう。そしてそこに入っている指が自分のペニスだったらと考えていた。
(すげぇ、柔らかくって中熱くて……。クリ触るとぎゅって絞まって来る。この中入れたらいきなりイっちまうよ)
 自分の想像で益々興奮し、執拗に凛太郎の股間を責めて行く。その度に凛太郎の身体はかわいそうな程びくびくと腰を動かしていた。
「んっあぁ、修ちゃん、もう、ダメっ、やっあっ、ん、ぅんんん!」
 二箇所を責められ、凛太郎も限界が近くなっていた。学校で、制服を着たまま、しかも立ったまま。こんな風に修一にイかされたくは無いのに、身体はこの快感を享受してしまっている。抗おうにも頭の先から痺れてしまってどうしようもない。それでも何とかイかないように我慢していた。
「……リンタ、イキそうか? 遠慮しないでイッちゃえ。口塞いでやるから」
 悪魔のように修一が囁いていた。イクのやだと言おうと思った途端に口が塞がれてしまう。
「んぅ、んああ! あああっ!」
(舌、入れないでっ。噛んじゃうよっ)
 赤く充血した肉芽と肉穴からもたらされる刺激に耐えながら、必死に口中を蠢く修一の舌を押し戻そうとする。しかしその動きは修一を悦ばせるだけだった。舌の動きは更に激しくなって、ついに凛太郎はなすがままにしてしまった。上の口と下の口からくちくちと似た音が聞こえてくる。
 修一の右手人差し指と薬指が凛太郎のクリトリスを包皮ごと器用に軽く力を入れて挟み込んだ。その上から覗いた快楽の芽をくりくりと刺激してくる。左手の中指は膣への出し入れの速度を速めていく。激しさを増した濡れた卑猥な音が、二人の激しい息遣いと一緒に聞こえていた。
 凛太郎はもう、臨界点まで来てしまっていた。修一の手はもう止まらない。選択肢は一つしか無かった。頭の中では修一の声で「イッちゃえ」とこだましている。
(アンッ、もうっいっちゃうぅ、やなのにっ、いいくっ、イクっ、あひっ、しゅうちゃんんっ!)
「ンッンン〜!」
 くぐもった唸りが凛太郎の咽喉から発せられると、修一のワイシャツを引き千切らんばかりに自分の方へ引き寄せる。身体全体が硬直してしまったかのように、筋肉が強張りびくっびくっと痙攣しだした。痙攣する度に秘裂に進入している指を強く感じてしまう。凛太郎のぎゅっと瞑った目の前は暗闇でも瞼に浮かぶ修一の顔でもなく、ただチカチカと光が見えるだけ。それも次第に真っ白くなっていく。
 修一の指にも凛太郎の様子が変わった事が解った。ピンクの真珠はこれまで以上にシコってはち切れそうになっていた。そして柔らかだった膣肉は、修一を離すまいとしているように「きゅうっ」と絞まって来る。先ほどの絞め方よりずっときつく、そして凛太郎が痙攣する度に指を凛太郎の身体の中に誘い入れるように襞が蠢き間歇的に収縮と弛緩を繰り返していた。
 痙攣を繰り返しながらゆっくりと力が抜けていく凛太郎の身体。それを股間に置いた手だけで支える修一。漸く修一は口を離す。凛太郎は酸欠の魚のように大きく口をあけて「はぁはぁ」と深く早く呼吸をしていた。
 開いた扉からは、捲り上がった凛太郎のスカートから白い肌と薄いグリーンのショーツが見える。ショーツは殆どTバックのようにお尻の割目に嵌り込んでしまっていた。
「……あ、ぼく……、いっちゃった……の……?」
 まだ息が荒かったけれど、ぼうっと霞がかかったような頭で修一に聞いた。考えてみれば自慰以外で現実世界で性の頂上を味わったのはコレが始めてだった。それが修一の指だったのだから、堪らない。
「そう、凄かったぞ。気持ち良くって堪らないって顔してた。リンタって結構スケベだよな」
 クスっと修一が笑った。凛太郎は身体中から火が出そうなくらい恥かしくなってしまう。反らしていた首を縮め、真下を向いて視線を外した。しかし。
(あ、まだ……)
 凛太郎の身体を支えるため、修一の手は未だに凛太郎の股間を捕らえている。それを見ると恥かしさと、こんな場所で達してしまった自分の浅ましさにクラクラしてしまった。凛太郎はもう一度顔を上げた。
「……スケベって、そんなの……。修ちゃんが……触るからだろ……。もう、手離してよ……」
 凛太郎の股間から熱く熟れた女の匂いが漂っている。ふわっと香るそれが、修一の鼻腔を擽り、彼にとって最高の媚薬となっていた。
「リンタ、俺もう……。いいだろ? リンタ一回イッてるし。俺も」
 既に臨界まで来ている股間のマグマを何とか抑え、凛太郎をイかせた修一は、今度は自分が気持ちよくなる番だと言わんばかりに凛太郎に迫ってくる。
「一回って、修ちゃんが勝手に……。それに僕まだ……」
 フルフルと首を振る凛太郎に、修一は非情な手段に出た。一度イッて敏感になっている凛太郎自身に刺さっている指を強めに動かした。
「い? やぁあっ、お願いだからっ、もうっ、ひあッ、ああ〜っ!」
 過剰な反応を示す凛太郎に修一がもう一度囁いた。
「ここに、入れさせてくれよっ。頼むよ。リンタっ?!」
 修一はちゅぽちゅぽとわざと音を立てるように指を使う。凛太郎はその堪らない刺激につい言葉を出してしまっていた。
「しゅっちゃ、わかったっからっ。もうやめてよぉっ」
 涙目になりながら哀願する凛太郎に、やっと修一は指を止めた。凛太郎は「はああぁ……」と大きく息をついて額を修一の胸につけた。修一は凛太郎の様子に構わず、手をずらしてそのままショーツの上端を掴む。
「あ」
 と言うまもなく、ショーツがずらされてしまった。丁度スカートから出て見えるか見えないかの位置まで。尚も下ろそうとする修一の手を、凛太郎がガッチリと掴んだ。
「修ちゃんっ、ちょっと待って、お願いだからっ、ねっ、ここじゃやだよ、もっと違うとこでしよ? ね? こんなのひどいよ。なんで僕の事考えてくれないの? こんなトコで僕達初めてしちゃうの? やめようよ。また違うとこでしよ、お願いしますっ」
 凛太郎からすれば、いくら好きだからと言ってこれではレイプ同然だった。嫌だと言っているのに自分の欲望だけを解き放とうとしているように見える。とにかくこんな所で初体験なんてゴメンだったし、凛太郎の中ではまだセックスは早いのだ。それを必死に訴える。
「……な?! 今わかったって言ったじゃねーか。俺このままじゃ帰れねぇよっ。頭ん中もこっちもどうにかなっちゃいそうだよ」
 暗い中で、修一の情けない顔が見える。修一にしても限界ぎりぎりだった。もうパンツの中はトンでもないほどカウパーで溢れてしまっている。もしかしたら制服に染み出しているかも知れなかった。思わず自分も女になったんじゃないかと思うほどだ。
「それは……言ったけど……じゃじゃあ、僕、てっ手伝ってあげるから……。しゅ修ちゃん好きなだけイっていいから……。それで我慢してよ、ね?」
 凛太郎は殆ど泣きそうな表情で言っていた。恥かしい提案だと自分でも思っている。自分から「手伝う」なんて。しかしいくら約束したからと言って、それは快楽を楯にいわば強制的に言わされた言葉だ。こんな扉も閉めていない倉庫然とした埃っぽい場所で、最後まで出来るわけが無い。とにかく時間が欲しかった。修一の考える時間、そして自分も考える時間が。
「……手伝うってどうやって?」
 少し憮然とした雰囲気を漂わせ修一が問うてくる。凛太郎の表情は見えているのかいないのか、解らない物言いだ。
「あ、っと、手で……」
 僕も自分でした事あるから、とは流石に言えなかった。たった今目の前の好きな人にイカされた恥かしさと、男だった頃の性的欲求の処理行為を告白する恥かしさ。それは同等かと思っていたが、修一に半ば強制的にされた事と自らがした事では全く違った。そしてかつては自分を扱いた手で、夢で扱いたのと恐らく同じモノと思われる「修一」を扱く。何かとんでもない事をするんだと、言葉に出すと凛太郎には余計に感じられた。
「手……か……、しょうがない解った。今日は、な」
 暗闇の中で薄く見える修一の落胆の表情。それとは裏腹に将来的な不安を匂わせる言葉。凛太郎はホッと胸を撫で下ろすと同時に、修一にある種の憤りを感じてしまった。
(しょうがないって……修ちゃんが僕の事カッテに、しただけなのに。何でそんな事言われなくちゃいけないのさ? 今日はって次は最後までするって事? まだ僕の事考えてないじゃんか)
 とりあえず、今日は大丈夫、と修一の手が愛液で濡れてしまったショーツから離れる。凛太郎は多少気持ち悪いと思いながらも、修一の気が変わらない内にとショーツを引き上げ穿いた。そして踵を返し扉へと動いた。
「あ、おいっ、リンタっ!」
 ベルトを外しジッパーを下げ始めていた修一が、凛太郎が逃げ出したと思い声を上げた。
「しっ、静かにっ」
 扉まで小走りに凛太郎が行くと、パッと修一に振り返り、唇に人差し指をやり静かにとジェスチャーする。実際には扉から入る光で凛太郎の姿は逆光になり修一からは見えなかったが。修一は凛太郎を追いかけようとしていたが止めていた。
 凛太郎はゆっくりと扉から顔を出し、左右を確かめ、扉を閉めた。一応これで人目にはつかない。尤もその前に見られていたらアウトだけれど、その可能性は敢えて考えないようにした。
 扉からの光が入らなくなったために、室内は先程より暗くなり余程近づかないとディテールが解らない。凛太郎は最初に入室した時のようにゆっくりと、修一がいたはずの場所まで戻っていった。
「リンタこっち、早く!」
 声のする方へ凛太郎は近づいて行く。若干右に寄って行ってしまったようだった。更に近づくと薄っすらと修一のシルエットが見える。座っているようだった。
「あっ……」
 窓の隙間から差し込む明かり。そのお陰で次第に目が慣れて来ていた。その凛太郎の目に映ったのは、床に腰を下ろす修一と、何故かそこだけはっきりと解る修一の股間。ぴんと真上を向き屹立しているペニスだった。その大きさは魔物に生えていた「修一」と同じように見える。思わず凛太郎の咽喉が鳴った。
「リンタぁ、頼むよ……」
 段々情けない声を出してくる修一に、少し複雑な心境になりながらも凛太郎はおずおずと彼の足の間に膝を着いた。
 凛太郎の周囲に発情したオスの臭いが漂ってくる。男だった時には気づかなかった臭いに、凛太郎は自分の性別を改めて思い知ってしまった。鼻腔を擽る臭いに頭の芯がクラクラしている。一度醒めた身体が再度熱を帯びてくるようだった。
「あの、触っていいの?」
 修一自身に触れない限り、イかせる事は出来なのは解っているけれど、それでも一瞬躊躇してしまう。魔物に生えた「修一」に触れた時には、それなりに自分を納得させる材料があった。今は、自分ですると言ったものの、何となくさせられている気分だ。
 修一が無言で凛太郎の手を掴むと、そのまま自分の肉槍へ導いていく。震える凛太郎の手が「修一」に触れた。
(すごく熱い……、固い……。魔物の時と一緒だ……)
「はぁぁ……、リンタぁ……」
 修一が歓喜の吐息を吐く。凛太郎にはその音は聞こえていたが、全く別の事を考えていた。魔物の「修一」と本物が同じだと知り、改めて魔物が怖くなっていたのだ。
(あぁ、じゃぁ、あの時ってやっぱり僕、修ちゃんのコレで……コレが僕の中に……)
 修一に対する興奮なのか、魔物に対する恐怖なのか、凛太郎の咽喉はカラカラに渇いていた。修一の方はと言えば、凛太郎に触れられた快感を味わっているのか何も言ってこない。
(すっげ、他人に触られるだけで、こんなにいいのか。リンタの手、ひゃっこくて気持ちいい……)
 明かりがあったら百年の恋も一気に冷めてしまいそうな、そんな間抜けな恍惚とした表情を見せている修一。しかし触れられただけでも気持ちいいと思っていたのはほんの一瞬だった。直ぐにもっと違う刺激を求めていた。
「リンタっ、触ってるだけじゃイケねーって。早くっ」
 修一の強い口調に、思わず凛太郎の手がピクっと動く。
「あ、ごめん……」
 何も考えないように、と凛太郎は手を動かしだした。小さな掌、細い指で「修一」をキュッと握り締める。強からず弱からず。ゆっくりと上下に。手が動く度に修一は軽くうめき声を上げている。
 既に先端からは大量の粘液が湧き出していた。修一が凛太郎の秘裂を嬲る度に、湧き出した汁。凛太郎は一旦扱くのを中断すると、左手で少し余った皮を下ろし、亀頭を剥き出しにした。ぬるぬるの粘液を指先で亀頭全体に塗りつけながら、自分の手全体も濡らして行く。その手でつるつるの亀頭をやんわりと包み愛撫した。鈴口の部分とカリの部分を多少強めに扱くと、欲情の詰まった肉の棒はびくびくと凛太郎の手の中で跳ね回る。
「……修ちゃん、気持ち、いい?」
 次第に興奮状態に入っていた凛太郎は、上目遣いで修一を見た。はぁはぁと荒い息遣いをしている修一が感じているのは解ったが、さっきのお返しとばかり意地悪く聞いてみた。
「う、んっ、気持ちいいっ。凄くっ」
 少し顎を上げていた修一は、ちらちらと自分のペニスを扱く凛太郎を見ていた。自分の足の間にいる美少女が、自分のペニスを扱いている。なんと甘美な光景なのか。視覚によって修一の性感はいやがおうにも高まっていった。


(その2へ)

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