三日目 最初のきっかけ(その2)


 剣道部室に着き扉を開けると、今日も脇田がいた。雑誌を片手にお弁当を食べている。凛太郎も修一も授業終了のチャイムが鳴って直ぐに合流しここへ来ているのに、既に脇田はお弁当にありついている。一体いつから来ているのか、二人とも不思議に思い、顔を見合わせた。
「……こんちはっす。部長、早いっすね」
 脇田は雑誌から目を話し顔をあげ二人を見た。
「おう。早く入って飯喰っちゃえよ」
 そう言うともう雑誌とお弁当に集中している。修一が先に入り、凛太郎が続いて入った。静かにお弁当を広げる二人。
「あの、脇田先輩……」
 おずおずと凛太郎が話しかける。修一は少し驚いて箸を止め、凛太郎を見た。引っ込み思案な性格故に、初対面の人間やそれに近い人間に対して、自分から話かける凛太郎はあまり見たことが無かった。
 脇田は顔をあげると、部員に向ける視線とは全く違う、優しい目つきで凛太郎を見る。
「うん? なんだ、山口、君」
 目を掛けている後輩の修一が連れてきた、この美少女の話。校内でも噂で持ちきりになっている。当然脇田も、詳しい事情は知らないが、元男だと言うことは知っている。しかし実際に目の前にいるのは、修一とは釣り合いのとれてなさそうな女の子だ。それに昨日の修一に見せた態度は、女の子のそれだった。故に、脇田は最初「山口さん」と言いそうになった。直ぐに間違いに気づき「山口君」と言ったけれど。  凛太郎は、脇田のこういう優しい目付きや物腰が修一に似ていると感じていた。顔つきや体つきなどは全く違うけれど、昨日ここで会ったときからそう感じていた。だからだろうか、比較的人見知りせずに話かけることが出来たのだった。
 修一はと言えば、二人の様子を見ながらも、ゆっくり箸を進めている。
「昨日は突然席を立ってすみませんでした。気に障ってたらごめんなさい」
 ぺこっと頭を下げる凛太郎に、脇田は笑いながら答えた。
「ああ、あれか、ははは、気にしてないよ。どっちかって言うと後で喧嘩してないか、そっちの方が気になったな。うん、今日も一緒に来たんだからそれも無かったって事か。取り越し苦労でよかったよ」
「すみません、変に気を使わせてしまって」
 凛太郎はすまなそうに視線を下げた。
「いや、部長、喧嘩はしたんですけど、仲直りしたんですよ。一件落着って奴です。あはは」
 修一が割って入って来た。
「……諸積ってデリカシーないからなあ。お互い苦労するよな、山口君」
「……そう、ですね」
 思わず凛太郎もつられて答えてしまっていた。
「ああっ、なんすかそれっ。リンタも。ひでえなぁ」
 三人で笑いあい、楽しい一時を味わえた。お弁当を食べ終わり昼休みもそろそろ終わりと言う時間になって、それまで雑誌に夢中になっていた脇田が、修一に改めて話しかけてきた。
「諸積、今度の大会用の選考会だけどな」
 脇田の目つきが急に鋭くなり、真っ直ぐに修一を見つめる。修一もその目つきに少し身体を緊張させた。
 凛太郎はそんな二人の様子にただならぬ気配を感じる。
(まさか、昨日部活遅れていったから選考会出さないって言うんじゃ……。そうなら、僕のせいだって言わないと)
 修一は中学の頃から県内でも十指に入る強者だった。今年の剣道部入部の一年生の中では実力はダントツだ。凛太郎も修一の事は知っていたから、遅刻で出場機会が無くなるのは妥当な判断では無いと思った。
「基本的にうちは一年生は出さない方針だが、ミシマがな、全然練習来ないだろ。あんのやろあれで勝てると思ってるんだ」
「ミシマさんですか……」
 心当たりがあるのか、修一の顔に憂鬱な陰が見えた。
「それでだ、来週末の選考会でな、お前とミシマに試合してもらう。拒否権はないぞ。勝った方を先鋒にすることにした」
「ええっ? 先鋒ですか? ……しかしミシマさんとですか……」
 驚いたのは修一だった。今年一年は試合に出られないと思っていた。うまく行っても補欠として登録だと思っていた。大チャンスだった。
 ただ一つだけ問題があるとすれば、それはミシマと試合をするという一点だ。修一は露骨に嫌な顔をした。その表情を見て取り、凛太郎は心配そうに修一の横顔を見つめる。
「はっきり言うとな、本当はミシマでもいいんだ。実力的には十分あるだろ。でもあれじゃ他の部員に示しが付かない。俺が甘やかせ過ぎた。お前が勝てば、ミシマも心を入れ替えて精進すると思うんだ。ま、練習は嘘を付かないから、お前が勝つと思ってるけどな」
 珍しく修一が言葉なく俯き難しい顔をしていた。凛太郎も益々心配そうな顔になっている。
「あ、山口君、そんなに心配しなくてもいいよ。今の諸積だったら選考会で勝てるから。な、諸積」
 コロッと表情を変えた脇田が、凛太郎に言った。不意に名前を呼ばれて凛太郎は少し慌ててしまった。
「あぅ、ぼ僕心配そうな顔してました? やだな、そんな事ないですよ。普通です、普通。修ちゃ、諸積君の事心配してもしょうがないですよ」
 手をぶんぶんと横に振りながら、慌てて取り繕う話をした。けれど心配している事を突かれた事で、頬を綺麗に朱に染めた事はごまかせなかった。
 修一はミシマの事を頭から追い出し、必死に取り繕おうとしている可愛い親友に表情を崩した。自分が結構な強さを持っているのは知っているだろうに、それでも表情を見て心配そうにしてくれる凛太郎の優しさに修一は胸がジンと来てしまった。
「なんだよリンタ、心配してくれねーのか。ま、俺の強いの知ってるもんな」
 そう言うと凛太郎の頭をがしがしと撫で、さらさらした髪の毛をくしゃくしゃにしてしまう。
「あ、なんだよ、毛玉作って遊ぶなってば。あ〜、もう。おもちゃじゃないぞ」
 恥ずかしさから赤くなった顔が、今度は違う意味で赤くなっていた。
 脇田はじゃれあう二人を眺めながら「くくっ」と笑った。
「おいおい、見せ付けてくれるなよ。昨日の続きに発展しちゃたまらんぞ」
 凛太郎も修一もハッとして脇田の方を向く。そして同時に。
「僕たち」
「俺たち」
「「そういう仲じゃないですよっ!」」
 完璧にハモってしまい、脇田は椅子から転げ落ちんばかりに大笑いしていた。凛太郎も修一も顔を見合わせ、脇田に釣られたようにくすくす笑っていた。

 * * * * * * * * *

 修一の部活も終わり、昨日と同じように二人で夕暮れ時を自転車で帰る。赤から紫、青に変わる空の色は、修一と並走する美少女の横顔を際立たせる。透けて見える髪や頬の産毛がきらきら光る様は、修一の心を虜にした。見惚れ過ぎて危うく電柱に激突する所だった。
 凛太郎は修一が自分の横顔に見惚れているのを知っているのかいないのか、時々横を見ては「なに?」とばかり小首を傾げる。その仕草も修一にとってはど真ん中ストライクで、改めて自分の気持ちを掻き乱されてしまう。
 もう少しで凛太郎の家に着く、という所で凛太郎が近くの公園に寄ろうと言い出した。二人で並んでベンチに座る。周りには犬を連れて散歩している人たちがいた。
「ミシマって人さ」
 昼間の部室での話しと修一の表情。特に修一の表情が曇った事に、凛太郎は気づいていた。そして図書館にいる間中、何か良くない事でもあるのか、とモヤモヤした気持ちになっていた。はっきり言って、心配だった。修一の表情があまり見た事が無いものだったから。だから意を決して聞いてみることにした。
「部活来ないって言うけど、嫌な先輩なの?」
 あまりにも突然で、直接的な凛太郎の問に修一は焦ってしまった。勿論凛太郎の横顔をじっと見すぎて、変な想像をしていた事も起因していたけれど。
「うーん、嫌っていうか、一言で言うとヤンキー?」
 軽く伝わるように、わざと語尾を上げてみる。しかし自分でも語尾上げるの似合わねぇな……、と感じてしまった。
「ヤンキー? 剣道って礼に始まり礼に終わるって言うのに? なんか以外だな」
 武道はすべからくそんなものなのだけれど、修一からの受け売りが刷り込まれている凛太郎には、特に剣道が特別礼儀にうるさいと言う認識があった。その部にヤンキーがいる。凛太郎の頭では対極にあるような気がした。
「高校入った頃からなんかそうだったらしいんだ。でも腕前は強い。真面目に稽古してれば部長と同じ位の腕だったかもな」
「へぇ〜。修ちゃんがそう言うなら相当なもんだね」
 凛太郎は本心からそう思った。修一はちょっと照れながら返す。
「……まぁ、部長も言ってたけど練習、稽古は嘘をつかないからな。勝てると思うけど、あの人性格がなあ……」
 明らかに嫌そうに言う修一に、凛太郎が和ませようと少しおちゃらけて言った。
「心優しい不良ってのじゃないの?」
「それなら良いんだって。あの人、勝つ為なら何でもやんだよ。鍔迫り合いの時に足踏むとか足掛けるとか、最初に籠手狙う振りしてひじとか腕とか防具無いとこ狙って動かなくするとか、わざと腋の下突いてくるとか。剣道以外のとこで勝負かけてくんだ」
 凛太郎はあきれてしまった。剣道をした事がない凛太郎でもしていい事と悪い事くらい見当がつく。どう考えても剣道をするタイプじゃない。
「ひどいな、その人。剣道するタイプじゃないよ」
「そう思うだろ? でも強いからな。学校側も実績欲しかったみたいだし。しょうがないから出してたらしいんだ」
 修一が一つ溜息をつく。
「それにあの人裏で色々してるみたいだし、学校外でも変なのと付き合ってるみたいな噂あるしなぁ。あんまり関わりたくねーってのが本音」
 凛太郎はちょっとショックだった。これまで肌の事で無視されたりいじめの対象になったりした事はあったけれど、いわゆるヤンキーとか不良の類は幸運なことに周りにいなかった。自分の通う学校にそういう人間がいるのがショックだった。しかし凛太郎がそれを知らないだけで、中学でも高校でも道から外れた人種は存在していた。ただ凛太郎が他者と壁を設けていた事で、視界に入らなかっただけだった。
「色々ってなにしてんの? たばことかシンナーとか吸ってる?」
 凛太郎のレベルでは、単純に悪い事というとそれぐらいしか思いつかない。
「まぁそれ位はしてるだろ」
 修一はちょっと迷った。言おうか言うまいか。あまり女の子に言うような事でもなかったから。
「他にもなんかあんの? あ、ゾクとかかな」
 なんだろう? とあれこれ考えている凛太郎。こうなると答えを言うまで放してくれないのは修一も知っている。少し凛太郎から目線を外して小声で言った。
「……あーっと、な。学校内外のコ集めて乱交、とか、無理やり、とか、してるらしい」
 ふぅ、っと溜息をつきながら凛太郎を見ると、きょとんとした表情から目がまん丸になってくる。そして少しづつ顔も朱に染まる。こうして変化を見るのも楽しいと感じてしまった。
「あ、そ、れって、ええぇ? みんなでえっちしてるって事お?! 無理やりってレイ……ぅぷっ」
 突然、住宅街に響き渡るような大声で、叫び始めてしまった。「レイ」まで聞いたところで修一が慌てて凛太郎の口を右手で塞ぐ。
「ちょっ、リンタ声デカイって。そういうのは小声で言うんだよ」
 コクコクと頷く凛太郎から、ゆっくり手を離す。
「はぁ、びっくりした。ちょっと苦しいよ、鼻まで覆ったら死んじゃうってば」
「ちょっとぐらいなら死にゃしないって。それよりももう帰ろうぜ。真っ暗になっちまう」
 修一はベンチから立ち上がると右手をポケットに突っ込んだ。凛太郎も立ち上がり自転車に跨る。
「あんまり嫌だったら試合しないのも手だと思うよ」
 急に真面目な顔をして、凛太郎が言った。
「それは出来ないって。部長の意向もあるし。俺にとってもチャンスだからな」
 薄暗がりの中、修一がグッと顔を引き締めた。凛太郎はその表情を見て胸がキュッと絞まったような気がした。
(あ、今の修ちゃん、ちょっとかっこいいかも。……!? またっ? 何考えてんだ、もう)
 またカーっと自分の顔が赤くなるのを感じた凛太郎だった。ただもう辺りは暗かったため、修一には気づかれる心配が殆ど無いのは幸運だった。
「……そっか、がんばってね、応援するよ。じゃ、帰ろっか」
「ああ」
 ドキドキしながら自転車を漕ぐ凛太郎には、修一が片手だけで器用に自転車に乗っているのが見えなかった。

 凛太郎の家まで着くと、修一は早々に自宅への帰路についた。
 ポケットから右手を出し、じっと見つめると、凛太郎の柔らかい唇の感触が思い起こされた。
(リンタの唇、柔らかかったなあ。キスしたら気持ちいいんだろうなあ)
 自転車に乗りながら良からぬ事を考え始めてしまった。凛太郎の唇が触れた部分を自分の唇で軽く触れてみる。
(……これって間接キス、だよな? 俺、リンタとキスしてんだな。あ〜、ほんとにしてみてぇ。今日は手洗うのやめたっ)
 美少女とのファーストキス。それを思うと修一は背中がゾクゾクしてきた。
(リンタと付き合って、あーなって、こうなって、あの口でして、なーんて……。あ、やべっ勃ってきた)
 健常な男子の機能が働き、修一は漕ぎづらくなった下半身を早く開放したい欲求に駆られた。
(リンタでしてるって知ったら、あいつ絶対怒んだろうなぁ)
 修一は下半身のもやもやと、男同士というジレンマと、混ざり合った感情をなるべく気にしないように、全速力で家へ走った。

 * * * * * * * * *

「ふぅ」
 凛太郎は部屋に入り直ぐにブラジャーを外した。別にきついという感覚は最初だけだったけれど、やはりブラジャーは慣れない。まだ汗ばむ様な陽気ではないけれど、今日のように焦ってしまう状況になると汗が吹き出てくる。胸の谷間をつーっと汗が流れたり、背中から流れた汗がブラジャーの線で溜まってしまう。それは正直閉口ものだった。
 ただこれまでのアトピーの肌ならば、直ぐ汗を拭っても痒くなったが、今のすべすべの肌ではそれがないのは助かった。だからと言って汗を拭わない訳では無いのだけれど。
 洗面所で堅く絞ったタオルで身体を拭くと、ちょっとヒンヤリしたが気持が良かった。Tシャツを被りパーカーを羽織る。
(うーん、ブラしないとやっぱり見えちゃうよな。あ〜えっちいな。もう)
 胸を見るとその頂点にぽっちが見える。自分の身体を見ながらいやらしいと思ってしまう。
 女の子になってから、少しづつ自分が変化してる気がして嫌だった。最初あれだけ嫌だった下着も躊躇無く着けているし、なにより心情の変化が凛太郎自身にとっても意外だった。そう、修一に対する気持ちだ。
 僕は男だ、絶対男だと思っても、修一の事が気になってきてしまう。それまでの男同士の友情からくるものではない事も凛太郎には解り始めていた。女として男が気になる、そんな感じだった。
(朝、なんで修ちゃんのアソコ見ちゃったんだろう……。そりゃ、昨日のひとりえっちでも想像しちゃったけど……。やっぱり僕おかしいのかな。男なのに男が欲しいって、それってホ、違うよ。絶対違う。おちんちん無くなったからそれで見ただけだって。修ちゃんが好きって言うんじゃなくて。絶対そう)
 頻りに自分の心を、男の心を取り戻そうと考えを巡らす。しかしある事実を思い出してしまった。
(……でも、考えてたら濡れちゃってた……。なんで修ちゃんの欲しいって思っちゃったんだろう……。女の子になって淫乱になっちゃったのかな……。こんなの、やだな)
 自分には抑えきれない肉の欲望がある、それを認識してしまい激しい自己嫌悪と、欲望の対象にしてしまった修一に対して申し訳ない気持で一杯になってしまった。
 下を見てると段々鼻の奥と目頭が熱くなり、視界が歪んで来てしまった。長い睫毛に溜まった涙は、ぽたぽたと胸の上に落ちていった。
「僕、どうなっちゃうんだろう」
 そう呟いたけれど、心のどこかに修一の大きな手で塞がれた唇が熱くなるのを感じ、身体の奥から興奮が沸き上がるのを無視出来ない自分にも気が付いていた。

 * * * * * * * * *

「あ、リンタ……」
 夕方の凛太郎の唇の感触が忘れられない。柔らかで甘いような魅惑的な赤。それが修一の掌に当たった。自分のまめだらけの掌に。硬く黄色に変色したところが、柔らかな肌に当たって痛くなかったか、気になった。
 帰り道でしたように、また自分の唇と合わせてみると、硬い掌が柔らかな凛太郎の唇だと思えるから不思議だった。今している行為を見たら、凛太郎は自分を軽蔑するかも知れない。もう二度と信用してくれないかも知れない。でも、止められなかった。「リンタとしてる」、そう思うと下半身は熱く固くなり、先端からはずっと汁が垂れてしまう。
 凛太郎の唇を、上から覗けてしまった白い胸を、そしてまだ見たこともないアソコを思うと、まだ触れてもいないというのにそれだけで暴発しそうになる。
 涙目で見上げる凛太郎。赤く頬を膨らませた凛太郎。期待に満ち自分に頼り切っている凛太郎を思うと、胸が熱くなる。そして彼が、今は彼女になっている事実が、修一の男を滾らせる。あいつが欲しい。全部、欲しい。何もかも。そんな感情が沸き立ってくるのだ。
(リンタ、好きになっちゃったんだ。男じゃない、女のお前がっ)
 真っ白い肌の凛太郎を想像し、赤黒く固く張りきったモノを、右手で扱く。あの身体に触れている自分。あの柔らかそうな胸を揉んでいる自分。凛太郎のアソコを弄り喘がせている自分。
(アソコに、リンタのアソコに、これを、俺を、入れたいっ。ああっ、リンタっ)
 徐々に激しく扱いていく。はぁはぁと自分の吐息が聞こえる。そして頭の中では凛太郎の喘ぎ声が。修一の手でほぐされた凛太郎の身体が開いていく姿が見えた。
(あぁん、修ちゃん、きもちいいよ、いいよ、もっときて、もっとお)
 ぐちゃぐちゃと自分のペニスで凛太郎のアソコを掻き回している、そう想像しているだけだと言うのに、身震いがするほど気持いい。そして今扱いている手が、凛太郎の唇が触れた手だと思うと、余計に興奮した。凛太郎の唇がペニスに触れている、そんな錯覚があった。
(あ、リンタ、もっとしゃぶってくれよ、もっと気持ちよくしてくれよ)
(……あむ、ぅうん、しゅう、ちゃん、このまま口でイッていいからっ、いっぱいだしてっ、僕で気持ちよくなって!)
 小さな口をいっぱいに開け、じゅぽじゅぽと自分のペニスに快感を与える凛太郎の姿。不意に修一の性感が高まった。
(ああっ、リンタ、イクっ!)
 修一はびくびくと身体を痙攣させ、大量の白い粘液を吹き出していた。びゅびゅっと出たそれは、修一の妄想では凛太郎の口の中へ吐き出され、凛太郎に嚥下されている。実際には修一の腹の上に降りかかったが。
「はあぁぁぁ……」
 頭の中が凛太郎で一色になっていた修一だったが、徐々に興奮も冷めてくるとティッシュで飛沫を掃除した。
 そうするといつもの様に、重い罪悪感が修一の心を支配していく。
(また、やっちまった……)
 凛太郎が男だった事も、男に戻りたいことも、自分を信じてくれている事も知っているけれど、修一が凛太郎を好きで、抱きたいという想いは返られなかった。伝えられない想いなら、こうして昇華させるしかなかった。
(リンタ、阿部よりも俺の方が変だわ。気持、止めらんねぇよ……)
 がっくりと肩を落とす修一だった。


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