三日目 戸惑い


 目が覚めると目の前にはやはり真っ白な肌があった。ひじの裏を触るとでこぼこではない滑らかさが味わえた。あれ程恋焦がれたものではあったが、今は憂鬱の種になっているような気がした。
 ぼうっとしながら、トイレに入ると徐にパジャマのズボンとトランクスを下げ、あるはずのないものを掴もうとする。
「あ!? しまっ……」
 いつもの癖で既に下腹の力を抜いてしまっていたため、ちょろちょろと立ったまま股間からおしっこが流れ出してしまっていた。
(あ〜……、ちょちょっと、ンん、なんでぇ?)
 下腹部に力を込め洩れ出るおしっこを止めようとしたけれど、うまく止まってくれなかった。どうしようもないので、凛太郎はもう、出るに任せてしまった。
 排尿も排便も昨日の段階で経験はしていたけれど、寝起きの頭では今の自分の身体が「女の子」である事を忘れてしまっていた。勿論15年間に培ってきた男の子としての習慣を、おいそれと忘れることなども出来ない。
(なんか不便……)
「ふ、ううぅ」
 不意に口から嗚咽が洩れた。情けない、と思った。それが、今自分が置かれた状況の為なのか、それとも15歳にもなりおしっこを垂れ流してしまったことに対してなのか、凛太郎にも解らなかった。
 床を濡らしたままにしておく訳にもいかず、濡れたズボンとトランクスを脱ぎ、下半身丸出しの滑稽な自分の姿はなるべく考えないようにしながら、後始末をした。

 * * * * * * * * *

 母と静かな朝食の後、凛太郎は何時に先生に会いに行くのか、母に尋ねた。既に千鶴は担任教師に連絡をしており、これから支度したら出かけるという。
「お母さん、今日、修ちゃんとこ行く約束してたんだ……。夕べ思い出したんだけど……」
「あら、そうだったの? ん、じゃぁこれから電話して、予定が変わったことを伝えないとね。修一君、もう起きてるんじゃない?」
「……お母さん……この声じゃ僕だってわかんないよ……」
 上目遣いで不安げな表情の息子を見て、千鶴は言いたいことを理解した。
「お母さんが連絡してあげるから、修一君には悪いけど風邪ってことにしておきましょ」
 凛太郎の頭の中では、近しい、ただ一人といってもいい友人に、自分の状況を知ってもらいたいと思う反面、知られたくないという気持ちも少なからずあった。今日に関して言えば、女の子になった自分を気持ち悪がられたり、避けられたりしたくない方が強かった。彼なら、以前のアトピーの肌を見ていても嫌な顔をしなかった彼なら、この苦しさも不安も理解してくれるんじゃないだろうか、でももし……。いずれは話さなくてはならないと思ったが、今日はその勇気が持てなかった。そして勇気の持てない自分が、嫌だった。
 ぐるぐると渦を巻くような、出口のない思考が停止すると、既に母は修一に電話をしていた。
「……そうなの、凛太郎風邪引いたみたいで……いいえ、それは大丈夫だから。熱が下がったらまた遊んでやってね。……はい、ありがとう」
 千鶴は電話が終わると携帯を置き、くるっと凛太郎の方向いた。
「お大事にって、修一君。お見舞いに行きますなんて言ってたけど、断っておいたから。いい友達ね。大事にしないとね」
 そのいい友達に、うそをついた後ろめたさはあったものの、見舞いに来なくて良かったとほっとする凛太郎だった。

 * * * * * * * * *

 凛太郎の担任は、谷山恵子といい30歳前の女教師だった。基本的には面倒見がよく大らかな教師で、高い背丈と宝塚バリの容姿のため特に女生徒には人気があった。ただ時々男子生徒に対しヒステリックになることもあったから、修一などは「30手前で結婚できないからヒスが出るんだ」と、とても失礼なことを言ったりしていた。
 凛太郎が持っている谷山先生の印象は、背が自分より高い女性、位であった。確かに見た目はキリッとしてきれいな部類に入る女性ではあったが、年齢よりいく分衰えの見える肌の谷山に対して、女の子になる前の凛太郎は女性としての憧れを持つに至らなかった。
 谷山はまず第一声で「山口君、ですか?」と言ったきり、凛太郎の頭からつま先まで3往復くらい視線を動かしていた。とても信じられない、と言った風であったが、千鶴の話を注意深く真剣に聞く姿に、凛太郎は好感が持てた。
「信用しない訳ではないのですが、あたしの一存で男子生徒を女子生徒としては扱えませんし……周りの生徒の影響も考えませんと……」
 申し訳なさそうに、けれどはっきりと谷山は言った。
「それはこちらも重々解っているつもりです。ですが、むす、凛太郎もそちらで勉学に励みたいと申しておりますし、是非とも受け入れていただきたいんです。お願いいたします」
「お願いします」
「あぁ、山口さん、そんなことなさらないで下さい。お顔上げてください。お願いします。凛太郎君も」
 ふかぶかと千鶴と凛太郎が頭を下げるのを見、谷山も困惑していた。
(確かに雰囲気は山口君だけど、声も姿ももう、全く女の子だし……。まさか隠し子が出てきて、山口君の変わりに?! って、そんなの意味ないしあるわけないなぁ)
 谷山は三文小説のような考えを振り払い、おずおずとすがるような目で谷山を見つめる凛太郎の顔を見た。
(うぅ、そんな目で見ないでよ……一介の教師には限界あるんだよ。あたしの力なんてたかが知れてるんだってば。あぁもう、そんなに見ないでよ、もう、もう、もう、もう、もう!)
「ぅ解りました。あたしに出来る範囲では努力させていただきます。ですから……」
もう、そんなに見つめないで、という言葉は飲み込んだ。

 * * * * * * * * *

 谷山が勤め、凛太郎が通う高等学校では、生徒のIDに生体認証が使用されていた。理事の中にユビキタス関連の事業を行っている人物がおり、実験と称して色々な機械が学内に設置されていた。生体認証もその一つだった。このためメインサーバには生徒の顔写真以外にも、虹彩の情報が蓄えられていた。
 今回、谷山は凛太郎の件で、学校側の説得材料としてこの虹彩情報を使おうと提案した。外観どころか性別が正反対に変わってしまっているため、本人と理解させるにはこれしかないとの主張であった。
「ですので、連休明けに山口君を連れて学校にいらして欲しいのです。本人を目の前にして、そして認証することで『山口凛太郎君』であることが確認されれば、頭の固い上の人たちも熟考してくれると思うので」
「……解りました。では連休明けに普通に登校させればいいですね」
「ええ、ただ……、休み明けはジャージでいらした方がいいと思うんです。やはり他の生徒の目もありますし……」
 谷山は凛太郎を見ながらすまなそうに言った。千鶴も、そうだろうな、と思い、凛太郎を見やった。確かに女の子然とした姿で学生服を着ている姿は奇異な感じがした。
 凛太郎にしても、こんな身体をじろじろ見られるのは、覚悟をしているとは言えなるべくなら避けたかった。
 谷山は再び口を開いた。
「では、登校したら職員室までいらしてください。すぐに会議を開くようにこれから連絡もしておきますので」

 * * * * * * * * *

 凛太郎、千鶴、谷山の三者面談が終わったのは、お昼過ぎだった。
 これからどうなるのか、どうしていくべきか、覚悟はしているものの、クラスメイトや学校全体から好奇な目で見られることに、自分が耐えられるか、凛太郎にはまだ自信はなかった。
「あのね、凛ちゃん、これから買い物しないといけないから、一緒に来てね」
 え? と、凛太郎は不安そうな顔を千鶴に向けた。
「今は女の子の身体だから、なるべくそういう下着とか服とか着ていた方がいいでしょう。その方が身体も楽だし。外に出るのはまだつらいかも知れないけど、これから学校にも通うんだから、少しでも慣れておかないと。大丈夫、お母さんがそばにいるから、ね」
 自分の母から「女の子になれ」と言われているようで、凛太郎の思考は混乱した。しかしあの夢の中で言われた「もう戻れない」という一言が、凛太郎から反論する意思を奪っていた。
 近づいたり離れたりしている親子を乗せた車は、駅前のデパートへと走っていった。

 * * * * * * * * *

 連休中のデパートと言うことで、店内は人で溢れていた。アトピーだった時も凛太郎は自意識過剰なくらい、人の目が気になる性格だった。ちらり、と凛太郎を見る他人の目線は、常に自分の「汚い」肌に向けられていると感じていた。ただ今日に限っては、道行く人々全てが、(男だったのに女になったやつだ)と、心の中で言っているのが聞こえて来るようだった。理性的に考えれば、誰もそんな目では見ていないし、目の前を歩くボーイッシュな格好をした可愛らしい女の子が、「山口凛太郎」という男の子だったなど解るはずもないのだが。それでも凛太郎はその想像を払拭できないでいた。
 買い物は緊張と恥ずかしさの連続だった。母と一緒に女性下着売り場へ行き、ブラジャーとショーツをいくつか購入した。洗濯物として干してある母の下着は見たことはあったが、いざ自分が身につけるものとして見ると、エロさが三十倍増しのような気がした。
 服も何着か購入した。女性のブラウスやパンツが中心だった。母はスカートも買おうと主張したが、凛太郎は最初頑強にそれを嫌がった。いくらなんでも恥ずかしいと思ったからだった。
「でもね、学校でもし女子の制服着用って話になったら、スカート履かないと行けないでしょう?」
 そんな無理矢理な理屈を付けられ、結局買う事になってしまった。
 そんな風に初めてがたくさんあったデパートだったので、凛太郎は激しく緊張し周りを見る余裕も無くなっていた。デパートを後にする時間になっても緊張が続いていたから、自分の姿を「そのとき最も見られたくなかった人」に見られたことも気づいていなかった。

 * * * * * * * * *

 諸積修一は、今日、凛太郎と買い物に出ようと思っていた。剣道部に所属する修一は、中学から使ってきた二振りの竹刀の内一振りが、ささくれ立ち、剣先と中結の間が縦に大きく割れてしまったため、スポーツ用品店で一振り新調しようと思っていた。ついでに見たい映画もあったので、凛太郎も付き合わせようと思っていたのだが。千鶴からの電話で、予定が狂ったことで溜息をついていた。
(なんだよ、風邪かよ、しょうがねぇなぁ。……千鶴さん、見舞いはいいって言ってたけど、大丈夫かなあいつ)
 アトピーのせいで孤独になりがちだった小さな友人を心配したりもした。
(ま、今日は朝から千鶴さんと話せたし、いい日だなっ)
 実際にはお気楽な性格ゆえに、すぐになどと考え始めていたが。
「笑ぃ、兄ちゃん出かけるからぁ。リンタいかねぇってから、お前くるかぁ?」
「お兄ちゃんと行っても楽しくないから行かなーい。って、凛ちゃんどうしたの?」
 修一が玄関先で靴を履きながら、奥の茶の間へ声をかけると、妹の笑がひょっこり顔を出し、聞いてきた。
「風邪だと。『凛さん』だろ?」
 修一は笑が凛太郎のことを「凛ちゃん」と呼ぶのが好きではない。運動部で上下関係が厳しいこともあり、年下が年上をちゃん付けで呼ぶなんて言語道断だ。そう、だから自分も『千鶴さん』と呼んでいるではないか、と思っているからだった。傍から見れば高校一年生の分際で、友人の母をさん付けで呼ぶ方がいかがなものか、と問われそうだが。
「そうなんだ……」
 心配げな妹の顔を見て、修一は付け足した。
「まぁ、明日あたり様子見に行ってみるから。心配すんな」
「別に心配してるわけじゃないしぃ」
 紅潮させた顔を引っ込めた妹の様子に、修一はニヤニヤしながら行ってきますと声をかけ、駅前のスポーツ用品店に向かった。

 午前中とは言え、連休中のため駅前は人が多かった。目的の竹刀を買い、前もってネットで調べた映画の上映時間に合わせ、映画館に入った。
 数刻後、修一はげんなりしながら映画館を後にした。内容はハリウッドのアクション映画だったが、館内はカップルが多く、それが修一には嫌だった。
「あ〜、もう映画は一人で来るもんじゃないなぁ。彼女欲しいぃ。千鶴さ〜ん」
 脳内で、凛太郎の母、千鶴とデートしている場面が繰り広げられた。こうして妄想に浸ると嫌な気分も上昇するようだった。どこまでもお気楽なヤツだった。
(あ、参考書買わなくちゃな)
 最近数学に難しさを感じ始め、参考書の必要性を思った修一は、デパート8階にある書店に行くため、歩を進めた。入り口まで十数メートルというところで、知った顔を見止めた。
(千鶴さん? ラッキー)
 買い物帰りなのか、デパートのロゴが入った紙バッグを両手に持っていた。
「千鶴さ、え??」
 修一は千鶴の隣にいる顔を赤らめ俯き加減で歩く少女に、目が釘付けとなってしまった。千鶴を少女にしたような、しかしもっと可憐で可愛らしい顔。一瞬凛太郎かとも思ったが、もっと女の子の顔だったし各部の造りが微妙に違うように見えた。そして決定的だったのは、目を顔から下に移せば誇らしく張った胸があった。そう、やはり女の子なのだ。
(え? 千鶴さん? と、小さい千鶴さん? リンタじゃない? はれ? ……!)
 何か儚げな少女の存在に、心臓を鷲掴みにされた修一は、人でごった返すデパート前で二人が歩き去った方向をじっと見ながら立ち尽くしていた。
「これって……一目惚れ、か?」
 一言そうつぶやきながら。

 * * * * * * * * *

 修一が帰るなり、様子がおかしいのは笑にも解った。修一の健康的に日焼けしたその顔には、ぽーっとした表情とニヤけた表情が交互に現れていた。
(なーんか、変なの。ニヤニヤしてキモイ奴)
 笑の目に映る今日の修一はいつにも増して変、だった。しかしその原因について問いただそうとは全く思わなかった。
「笑ぃ、今日なぁ、運命を信じちゃったよ」
「はぃぃ?」
 突然、修一は笑の傍までやってきて、さも早く続きを聞け、と言うような感じで、話し始めた。笑は内心(はぁ? 運命? 何をとぼけたことを)とは思ったが、おかしなことを言い出したら笑い飛ばしてやるつもりで先を促した。
「いやな、今日デパート行ったんだわ。そしたら入り口んとこでさ、千鶴さん見かけたんだよ。でな、かわいく声かけようと思ったらさ、横に千鶴さんそっくりなコを見かけたんだよ」
「それって凛ちゃんじゃないの?」
 突っ込みどころはあったが、取りあえず笑は素直に尋ねた。
「『凛さん』。あほぅ、リンタ今日は風邪ひいてダウンしてたんだぞ? 出歩ける訳あるか。大体、胸があってすンごい可憐な美少女だった!」
「ふぅん、じゃその胸に運命感じちゃったんだ、いやらしぃ〜」
(ばっかじゃないの、大体それ運命じゃなくってただの偶然だし)
 笑は早速笑い飛ばそうとした。けれど修一も珍しく素直な言葉で反論してくる。
「ち、違うって。胸だけじゃなくってさ、なんかこう、白い肌が朱に染まっててさ、可憐できれいでかわいくって、守ってやりてぇって感じ? しかも憧れの千鶴さんにそっくりなんだぜ? あそこで出会ったのが運命でなくてなんだってんだ? だろ?」
(何が、だろ? なのよ。全く。あれ? でも……)
 なにやら無用に盛り上がって、日焼けした肌を赤黒く染め、視線を宙にさまよわせている兄に、笑は次第に反論する気も無くなってきた。そして笑の興味の対象は違うところへ移っていた。
「で、結局その可憐な美少女って誰だったの? 『凛さん』妹いないよね?」
「そうなんだよな、リンタ一人っ子だし。休みだから従姉妹でもきたんじゃないか?」
 腕組みをして考えるふりをしながらそんなことを言う修一を、笑は、え? 聞いてないの? ばかじゃん、とあきれた顔をして見つめていた。
「うるさいな、明日リンタに電話するし、そん時聞けばいいじゃねぇか。従姉妹でもなんでもそん時紹介してくれって頼む!」
 修一はその視線に耐え切れずちょっと大きな声を出し、自分に言うように笑に言った。笑はと言えば、「あたし、なんにも言ってないし」と言うなり、やれやれといった表情で、運命ねぇ、どうなることやら、と考えていた。

 * * * * * * * * *

 少し遅い夕食を採り、凛太郎は自室に戻った。思春期の男の子の部屋に不釣合いな女の子の服をハンガーにかけた。そしてたんすを開け、トランクスやTシャツの横に、小さくたたんだ、ブラジャーとショーツをしまった。一昨日までは、鏡を見ても見なくても自分は男だと確信が持てた。しかし今は、目を瞑らないとそう思えない。視界に自分の身体の一部が写りこむ度、自分が変わったことを確認させられてしまう。
「僕は……山口凛太郎……? 君、誰?」
 鏡に映った自分に、思わずそう呟いていた。
 ベッドに腰掛け、今日の出来事をゆっくり思い出してみた。母が積極的に女の子の服を購入したこと、それ自体は今の凛太郎の身体を見れば当然かも知れなかった。しかし、それでも自分は男の子だという意識もあったし、それを配慮してくれると信じていた。今日の母の行動は、もう凛太郎を「女の子」として見始めていると取れるものだった。
 母は、本当はアトピーで肌の汚い息子を嫌っていて、「きれいな肌」のアトピーではない子どもが欲しかったのではないか? と、考えたりもした。
(もしかしたら、生まれたときから、こんな肌の子は嫌だって思ってたんじゃ……)
 凛太郎は俯きながら、頭を左右に振った。
(そんなことない、お母さんはいつも良くなろうねって……いつも、言ってたし……)
(でも、服を合わせている時の、あの目の輝き様は? ほんとは息子じゃなくて、娘が欲しかったの? 息子は汚かったからいらない? 娘は綺麗だからいる?)
 母は単に我が子に服を選んであげる、それだけだったが、凛太郎の心中はこれまでの内的、あるいは外的な要因による自己否定から、徐々に暗澹たる気持ちとなっていった。
 その時、机の上に置いてあった携帯電話のバイブレーション機能が働き、机の天板を共鳴させ、大きく「ヴヴー、ヴヴ、ヴヴー」と響き着信を知らせた。
「あ、修ちゃん」
 修一からのショートメールだった。『風邪だいじょぶか? 俺は今日運命を見た! 』
 たった二文の短いメールだったが、凛太郎は心配してくれる友人がいることが嬉しかった。寒々としていた心に、少し明かりが灯った気がした。
「修ちゃん……ありがと……、でも運命ってなんだ?」
『もう大丈夫 今度運命っての聞かせてもらうよ』
 修一の言う「運命」が自分のこととは露知らず、凛太郎は修一にメールの返信をしながら、今すぐ自分の状況を話してしまいたい衝動に駆られていた。
 凛太郎は、唯一と言っていい友人の修一を信じてはいた。しかし実際に話すとなると、どう切り出したらよいか考えあぐねてしまった。
「僕、女の子になっちゃったよ」
「肌がきれいになったら、女の子になったんだ」
「オカマじゃなくって、ほんとの女の子になっちゃったんだ」
「騙されて、女の子にされちゃった」
(うーん、どれもパッとしないし、普通こんなこと言われたら、頭おかしいって思われちゃうよなぁ……)
 修一が女性化した自分を見てどんな風に考えるか、過去に自分の肌を見て怪訝そうな顔をした人たちのように、一瞬でも修一の顔に自分に対して嫌悪が見えたら……。ましてや「お前は凛太郎じゃない!」なんて言われたら……。無二の親友にまで疎ましく思われたら、たぶん狂ってしまう、そんな考えが過ぎっていた。
(でも、それでも修ちゃんなら、きっと受け止めてくれる)
 凛太郎は胸の奥にある小さな勇気を振り絞って、友人との別れの影に怯えながらも、連休最終日の明日は修一に話そうと心に決めた。


(四日目へ)


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